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第一話 ツチノコ狩り

 ツチノコ狩りに行ってきた。


 動機はというと、身もふたもない言い方をするとお金のためである。

 本職だけではなかなか貯金が貯まらないので、副業を始めようと思ったのだ。それも、なるべく楽なものが良い。


 そこで、アフィリエイトを思い付いた。ブログを開設し、ツチノコをアップして、たくさんの人に見てもらうのだ。

 私はアフィリエイトの意味もやり方も詳しく知らないが、ツチノコを獲ってから調べれば良いだろう。確定申告のやり方も後からで良いだろう。


 寝ているうちに一億円くらい貯まってれば良いなぁと、一億円の使い道を布団の中で妄想した。


 とりあえず通勤用に電動自転車を購入し、壊れかけのレディオと壊れかけの炊飯器と壊れかけのゲームボーイを買い替えよう。ゲームボーイなんて、もう30年も使っているのだ。画面が白黒で目が悪くなるので、そろそろカラーのタイプが出て欲しいのだが。


 そして米は無洗米にして、肉は国産を買おう。カニカマではなく本物の蟹を食べに行こう。張り切って行こう。


 思うに、人を殺す話か下ネタしか思い付かないのは、欲求不満のせいかもしれない。ツチノコによってお金持ちになり環境が変われば、爽やかハッピーな妄想をすることが出来るようになると私は期待した。


 ニタニタしながら眠りにつくと、夢の中で壊れかけのレディオが「捨てないで」と訴えてきたが無視した。いつもは何も聞かせてくれないのに。壊れかけじゃなくて、もう完全にぶっ壊れてるんじゃないだろうか?


 まず私がやったのは、美容院で髪を切ることだった。


 ツチノコは髪を燃やす匂いを好むという情報を得たからだ。肩にギリギリで付かないくらいの髪を、バッサリ切ることにした。


 美容院で、私は「ショートカットにして下さい。切った髪は持ち帰っても良いですか?」と言ってみた。

 美容師のお兄さんは快く頼みを聞いてくれた。


「大丈夫ですよ。ちなみに、何に使うんですか?」

「焼いてツチノコをおびき寄せるんです」

「……かしこまりました」


 その美容師は散髪中、どれくらい切るかなどの髪に関すること以外、全く話をしなかった。

 おそらく彼は、ツチノコを知らなかったのだと思う。若い人だし、ジェネレーションギャップというヤツだろうか。


 私は髪が多いので、切った髪は45Lサイズの袋にパンパンになった。



 翌日、出勤してタイムカードを押していると、後ろから来た他部署のオッサンが「バッサリいったねぇ、失恋でもしたの? ウヒヒ。ウヒヒ」と聞いてきた。


 私は「違います!」と否定したが、彼はさらに「強がらなくてもいいんだよ。ウヒヒ。ウヒヒ」と、うるさい。


 私は「泣いてねぇし!」と言って走り去った。生まれながらのなんちゃってエンターテイナーである私は、人の期待通りの行動をつい取ってしまうのだ。


 休憩中、歯を磨いていると事務所のベテランお局に声を掛けられた。


「聞いたよぉ〜〜」


 聞けば、私は既婚者に妻子がいるのを隠されたまま長年遊ばれた挙句、相手の妻にバレて泥沼裁判に発展した哀れな女ということになっていた。髪を切っただけなのに。何をどうしたらそうなるのだろうか。怖っ。



 その日のアフターファイブから、私はツチノコを探しまくった。


 切った髪をいちいち焼かなくてはならないから、なかなか大変だ。

 道端の草むら、田んぼの畦、家の裏山……それだけでは飽き足らず、交差点や夢の中までも探した。


 しかし、なかなか見つからない。



 日曜になった。今日は仕事が休みだから、思う存分ツチノコを捜索できる。


 町のあちこちを探したが見つからず、最終的に私はマムシが大量に出ると噂の、草ボーボーの林に足を踏み入れた。


 噂通りマムシがわんさか出てきた。

 こんなこともあろうかと、なけなしの貯金をはたいてマングースを密輸しておいて良かった。豊かな老後のためならば、ワシントン条約も怖くない。


 何しろ200万しただけあって、マングースは凄かった。

 彼はマムシというマムシの頭を噛みちぎり、それらを片っ端からたらふく食べた。ちょっと怖かった。


 しかしマングースの健闘も虚しく、ツチノコは見つからない。切った髪も燃やし尽くし、万策尽きた。

 そこで、とりあえず林の中にある池のほとりでお昼を食べることにした。マングースは満腹で苦しそうだが、私は空腹でフラフラだ。


 持ってきたカッパ巻きをリュックから取り出して食べようとした時、数メートル離れた場所にある草むらがガサリと動いた。


 見ると奇妙な生物がこちらをのぞいている。初めて見る生物だ。顔の真ん中のくちばし、平べったい皿のような物の乗った頭、全身薄緑色の皮膚……。


 それは徐々に近づいて来て、潤んだ目で私を見た。

 無視していると、さらに私の方へ寄って来て、しまいには上目遣いしながら私の手にしたカッパ巻きに手を伸ばした。背中に甲羅を背負っているのが見える。


 何だ、ただのぶりっ子した河童か。それにしてもド厚かましい。


 私は空腹とツチノコが捕まらないのとでイライラしていたので、


「テメェにゃあ用はねぇんだよ!!!」


とマングースをけしかけたらそれは「キュインッ」と鳴いて池に一目散に飛び込んだ。





ありがとうございました。

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