第2話、受験に合格しますように、その1
「蒼ちゃん、次、社務所の周り、掃いちゃおうか」
みずなは重たい竹ぼうきを軽々と振り回し、すたすたと社務所の方に歩き始めた。
「なずな、待って、早いよ」
私はなずなの掃き集めたごみをちり取りに収めると、なずなを追った。
朝6:00の街中の神社は私の当初の予想に反し、意外と参拝者が多かった。みなさん、中学生の女の子2人がはしゃぎながら境内を掃除して回るのを、温かい目で見守ってくれていた……と、思う。私達が「おはようございます」と挨拶すると、みなさん優しく挨拶を返してくれた。
ええと……なんでこうなったか、というと……。
ここ、中山神社は、なずなを養子として受け入れてくれている若松夫妻が、この夏から宮司(神社のボス)と禰宜(宮司の次にエライ人)を務めてくれている神社だ。若松夫妻は、前の宮司が高齢の為引退したい、とのことで、私の父やその仲間が探してきた神主さんだ。
私の父はこの神社の総代(氏子の代表者。氏子というのは……まあ、信者だと思ってください)で、私はこの総代の役を継がねばならない。これが、私が男でなければならない理由の一つだ。
なずなは両親代りをしてくれている若松夫妻へのせめてもの恩返しとして境内の掃除を自ら買って出、夏休みの間は毎朝1人で掃除していたのだが……。
「やっぱりつまんなくて。蒼くん、一緒に掃除しようよ。2人だと楽しいよ、きっと」
一昨昨日、なずながそんなメッセージを送ってきた。
「巫女見習い的立場のなずなが、神社に異性を連れ込むのはまずいだろ」
「そうか、そうだよね。じゃ蒼くん、女の子で来て」
異性を連れ込むのは……は、断りのつもりで書いたのだが、なしくずし的に朝の掃除を手伝わさせられることになってしまった。しかも女性化というひと手間付きで。
てなワケで今朝は掃除3日目の朝である。
初日、私は掃除用に動きやすいようストレッチジーンズにボタンダウンのシャツ(しかも男物)という野良仕事スタイルにしたのだが、なずなはレギンスにロング丈のシャツの組み合わせというおしゃれスタイルであった。山奥育ちのくせになんかずるい(?)のである。
なので2日目からは私も少しまともな服を選ぶようにした。ちなみに今日はデニム地のジャンパースカート。
***
掃除を終えて学校へ行くと、井上が中村につまらない話をしていた。
「うちのバアちゃんが言ってたんだけど、最近、中山神社を朝、えらいベッピンの姉妹が掃除してるんだって。明日見に行ってみん?」
「朝って何時?」
「うちのバアちゃんすげえ早起きだからな。3:00ぐらいじゃね」
早すぎるわ! 俺はつい吹き出してしまった。
「なんだよ岩倉。何か知ってんのかよ」
「だいたい6時前後の30分ぐらいらしいよ。詳しくは知らないけど、最近従妹が友達と神社の掃除を始めたんだって。たぶんそれじゃないかな。ちなみにそいつ、そんなに“ベッピン”じゃないよ」
「へえ岩倉の従妹か。よし、岩倉も一緒に美人参拝行こうぜ」
おいおい、“も”って、中村はまだ一緒に行くとは言ってないぞ。
「じゃ、明日5:30にセブンイレブンの前で集合な」
中村、行くんかい。メンドクサイから止めてほしい。何で俺、吹き出しちゃったかな。
「俺はパス。そんなに早く起きらんないよ」
そう言うとなんとなくシラけて話が立ち消えてくれないかな、という思いもあってそう答えたのだが、井上の美人参拝熱はそんなことでは消えなかった。
怒ってるかな? と思って別の友達と話し込んでいるなずなをちらっと見ると、なずなはその子と会話を続けながら、俺にだけ見えるよう、机の影で親指を立てて見せた。
Good job? Why?
***
「へえ、中村って、中学受験したんだ」
昼休みの学校の屋上は、たまたまなずなと俺しか居なかった。
「3年ぐらい前かな、私立の中学に合格させてって頼まれたんで、記憶力を上げてあげたんだよね」
相変わらずこいつは日常会話トーンでとんでもないことを言う。
「あれで大抵の学校は受かると思ったんだけど」
だけど、中村は現在この学校、公立の中学に通ってる。しかもあいつ、あんまり成績良くないぞ。俺や井上と同じで。
「で、参拝のその後を調べたい訳だ」
「そういうこと」
「どこかに呼び出して話してみる? なずなが声かければあいつ喜んで来ると思うよ。なんなら俺もつきあうし」
「ううん」
なずなは首を横に振った。一緒に揺れる髪が妙に魅力的だった。
なずなは一瞬何かをたくらむ表情を見せると、突然自分の首の後ろに手を回し、髪をかき上げた。その姿は妙に色っぽく、理屈ではこいつは狼だと判ってはいても、つい見とれてしまった。
……こらこら、仮にも神様が中学生男子で遊ぶんじゃない。
なずなはちらっと舌を出すと、直ぐに真顔に戻った。
「あの中村って子、自分の記憶の中では普通に公立の中学校に進学したことになってるんだよね。たぶんもう一人ぐらい彼の中に人格が眠っていて、そっちが受験の記憶を持ってるんじゃないかな」
「えーっ、二重人格ってこと? 全然そうは見えないけど」
「みんな、蒼くんみたいに心が丈夫じゃないからね。そもそも心を覗かれてるって判ってて平然としていられるって、それだけでも凄いんだけど、全然自覚ないよね」
嬉しそうに話しやがって。……もしかして厚顔無恥、って言ってる?
「まあまあ……とにかく、中村くんにはゆっくり近づいた方がいいと思う。その意味で朝の神社はいいアプローチなんじゃないかな。先ずはあたし達が敵じゃないことを中村くんの別人格に印象付けないと」
あたし“達”って……俺もか?
「嫌なの?」
なずなは俺を睨みつけた。なんかおまえ、どんどん人間臭くなってないか?
***
その日の帰り道。
今日は何故か先生に呼び出しを受けたため一人で家に向かっていると、後ろから軽い足音が小走りに近づいてきた。
なずな、かな?
と、思って振り返ると、柿沼陽菜であった。
「岩倉くんも、今、帰り?」
「よう」
「久しぶりじゃない、帰りが一緒になるの」
そう言って、あたりまえのように俺の横を歩き始めた。
「そうだっけ?」
「ほら、今年の3月にあやちゃんと関根と4人で帰ったよね。なんと半年ぶり」
よく覚えてるな。
「そうか…」
「あれ? もしかして緊張してる?」
どうも一部の女子は俺を見るとからかいたくなるようだ。
「そりゃ、女子と二人きりで下校ってのは、ウブな男子中学生にとっちゃ緊張モノだろ」
と、言うと、柿沼は吹き出した。失礼な。
「横にいるのがなずなちゃんでも緊張した?」
なんでそうなる? 変に勘繰られるのが嫌なので、なずなとは人目のある場所ではむしろ話をしないようにしている。
俺が憮然としていると、柿沼は楽しそうに笑った。なんなんだ。
「ごめんごめん。でも岩倉くん、最近楽しいでしょ」
「え?」
「なずなちゃんと時々目で会話してるもんね。私が男でも、あんな綺麗な彼女ができたら、同じように浮かれちゃうと思うな」
どこまで見えてんだ。化け物か、お前は。
「そういえば柿沼って、中村と小学校一緒だったっけ」
俺はとりあえず話題を逸らすことした。
「あ、やっぱりなずなちゃん、気にしてた?」
「どうしてもそっちに話題を戻したいか?」
「だって岩倉くん、1年半一緒にいて、中村くんが変だって全然気が付かなかったでしょ」
こいつは……。はいはい、その通りですよ。
「今でこそ中村くんは、岩倉くん達おバカ仲間の一人だけど、小学校のころの中村君は頭良かったんだよ。私でも敵わないぐらい」
「そうか……」
というと、柿沼はまた笑った。
「ほら、そこで驚かないと。その反応でなずなちゃんが岩倉くんに何を言ったかだいたい判っちゃうよ」
そんなの判るの、おまえだけだって。
「でも、それでヨカッタのかな、と私は思ってる。今の中村くんは楽しそうだもん。小学時代の中村くんは暗かったよー」
「そうなんだ」
なずなは中村を二重人格と言っていたが、ずっと中村を見ていた筈の柿沼からはそれっぽい言葉が出てこなかった。俺としても、中村の二重人格は、なずなの勘違いであってほしい。
「さてさて、そんな岩倉くんに、友人として警告です」
柿沼は急に真顔になった。
「岩倉くんが気付いてるかどうか判らないけど、なずなちゃんって、普通じゃないよ」
「そりゃ転校生だから……」
「あの子、時々知らない筈の事を知ってたり、不自然に運がよかったり……何て言ったらいいんだろ、人間として普通じゃない……って言うと、私の頭がおかしくなったと思う?」
「……」
「ごめんね。自分の彼女を魔物扱いされたら普通怒るよね。でも……今は受け入れがたい言葉かもしれないけど、お願いだから私が『なずなちゃんには気を付けて』と言っていたことだけは覚えてて」
俺は数分前に『化け物か、お前は』と思ったことを反省した。
おそらく柿沼の中ではなずなに対して警告灯が灯ったのであろう。おそらく彼女の能力をフルに使ってなずなを観察し、俺がやばいと判断、彼女なりに最大限俺に届く言葉を考えて俺に警告してくれているのだろう。
「ありがとう」
そう答えた後、俺たちはしばらく無言で歩いた。俺は、柿沼に何を伝えるべきで何を伝えるべきじゃないかを必死に考えていた。
「今の話って、他の誰かにも……」
「言える訳ないでしょ」
「俺からも一つお願いがあるんだけど」
「それは約束できない。他の誰にも話すな、でしょ。岩倉くんが危ないと思ったら私は友達としてすべきことをする」
カン良すぎ。先回りするなって。
「なずなは信用していい。柿沼ならそのうち判ると思うけど」
柿沼は不安げな顔で俺を見た。
「あれだろ、サギに騙されてる人間に限って、あの人はサギ師じゃないって言うやつ。じゃ、いいや。お願いだから俺が『なずなは信用していい』と言っていたことだけでも覚えててもらえるかな」
「ふうん」
柿沼はしばらく俺の言葉を咀嚼しているようであったが、しばらくして口を開いた。
「岩倉くんも、女の子をファーストネームで呼び捨てするようになったんだ」
また人を動揺させて優位に立つ作戦で来たな、と思ったので、つい何か言い返したくなってしまった。
「陽菜、好きだよ」
半分ふざけてそう言うと、柿沼にカバンで思いっきり後頭部を叩かれた。
「最低!!」
柿沼は急に怒って先に行ってしまった。俺としては柿沼とはこの程度の冗談は言い合える仲だと思っていたので、少なからずショックだった。
茫然と突っ立っていると、スマホに音声通話が入ってきた。なずなからだった。
スマホを耳にあて、
「はい、何?」
と言うと、なずなは
「最低!!」
とだけ言って通話を切った。もう何なんだよ……。
***
そんな訳で翌朝は、何度か「最低!!」の意味を神社の掃除をしながらなずなに尋ねたのだが、ずっと話をはぐらかされていた。
「ねえ、なずな。お願い」
私が何度か目にそう言った時、なずなはため息をついた。
「蒼くん、ダメだよ。それぐらいは自分で学ばないと」
蒼くん? 私は今、女性だけど…。
「今なら少し解るんじゃない? “あおいちゃん”なら」
まあ確かに。思い出してみると、人が本気で心配してるのに、バカかこいつは、という感じではある。今日、柿沼に謝ろう。
「陽菜ちゃんはやっぱりよく判ってる。確かにダメな弟って感じ」
なずなはクスッと笑った。
「陽菜ちゃんに謝るのは、もう少し考えてからの方がいいよ。あと、昨日はごめんね。昨日はあたしを陽菜ちゃんから守ろうとしてくれたんだよね。お礼の電話をしようとおもったんだけど、つい感情が先走っちゃった」
はいはい。どうせ私はあなた達から見ればガキですよ。
「判った。ありがとう」
私は一応、なずなのアドバイスに対するお礼を口にした。
と、突然誰かが私の頭を叩いた。ぽん。
「よっ」
話に夢中で、私は誰かが近づいて来ていることに全く気が付いていなかった。驚いて、少し飛び上がってしまった。
「お姉ちゃん!?」
姉が私のすぐ後ろに立っていた。
「あなたがなずなちゃん? ホント綺麗ね」
「ありがとうございます。蒼くんのお姉さんですよね。初めまして」
「蒼がいつもお世話になってます」
「いえ、こちらこそ蒼くんには頼りっぱなしで、いっつも感謝してるんですよ」
おーい、二人とも。その歯の浮くようなあいさつはともかく、蒼ちゃん設定はどこ行った? お姉ちゃんにも説明したよね。
腰の後ろに大きなリボンの付いた少女少女したワンピースを着ているときに蒼くんと呼ばれると、結構恥ずかしいんですけど。
「お姉ちゃん、何の用?」
「あんたの陣中見舞いでしょうが。感謝しろ」
そう言いながら、姉は私を無視してなずなとしばらく話し込んだ。
「うわー、神様の知り合いなんて、私、初めて!」
姉は嬉しそうにそんなことを言っていた。
そりゃそうでしょう。
***
姉のせいで、掃除がしばらく中断してしまった。
「あおいちゃん」
姉が帰るとなずなが私に話かけてきた。もう……あおいちゃんって、誰だっけ?
「さっきからそこの藪の所に中村くんと井上くんが居るんだけど、判る?」
なずなが示唆した方向をさりげなく見たが、ちらっと見ただけではなにも解らなかった。私は首を横に振った。
「あれじゃ覗きじゃない。蒼くんがあの中に居なくてよかった」
「フクザツ……」
「ちなみにあおいちゃん、あの2人に人気だよ。あの若松と一緒にいる子、かわいいって言って盛り上がってる。ヨカッタね」
なずなはニタリと笑った。
「益々フクザツ……」
「……にしても、いつまでああしてんだか」
なずなはため息をついたあと、大きな声をだした。
「井上くん、中村くん、おはよ~。二人の分のほうきも用意してあるよ~」
「や、やあ…」
「お、おはようごさいます…」
しぶしぶ藪から出て来た2人を、なずなはコキ使った。
「はいこれ、ほうきとちりとりとゴミ袋。これで神社の敷地の周りを一周、きれいにしてきて」
「遅い! これぐらいの範囲、数秒で掃けるでしょ」
「掃除が雑、タバコの吸い殻が残ってるでしょ」
「そこ、丸く掃かない。ちゃんと隅まで掃く」
ちょっと可哀そうになってきたので、せめても……と思い、私は倉庫にあった軍手を二人に渡した。
「竹ぼうきって意外と重たいでしょ。軍手使った方が手が痛くならないよ」
ありがとう、と言いながら見せる笑顔が二人とも情けなかった。私も男子をやっている時はこんな顔してるのかなぁ。
***
2人の男子の協力(?)により、結果的に今朝はいつもより早く掃除が終わった。
若松の奥様が、お茶にしましょうと言ってくれた。
「へえ、2人はなずなちゃんのお友達なの」
「はい」
「はい、同じクラスです」
男子2人は若松さんの前で、借りて来たネコといった風情で、なんか緊張していた。なずなと私が台所から運んできたお茶を2人に差し出すと、必要以上に恐縮した。
「あ、ありがとうございます」
同級生に対する言葉遣いではない。
「あの、若松さんは何でここで掃除をしてるの?」
これも明らかにいつもの井上の口調ではなかった。
「井上くん、どうしちゃったの? いつもと態度、違うよ」
なずなが目の前に座り、そんなことを言うと井上は更に恐縮した。
「お、おう」
「男の子って面白い」
なずながクスッと笑った。……ので、私はなずなを小突いた。中学生で遊ぶなっての。
「ごめんなさいね。急に知らない人に話しかけられてもいろいろ判んないわよね。改めて、なずなの母の美幸です。よろしくね」
若松の奥様が場を仕切ってくれた。さすが、禰宜様。
「は、はい」
「それと、その子はあおいちゃん……岩倉あおいちゃん。なずなの前の学校のお友達なのよね」
私はとりあえず黙って頭を下げた。
「ああっ、そうか。あの、俺のクラスに岩倉蒼ってやつが居るんですけど、そいつが『従妹がここの掃除してる』って言ってたんですよ。へえ、こちらが、へえ」
井上、人を嘗め回すように見るのはやめろ。……本人は意識してないのかな。女の子に嫌われるぞ。
「そうか、なずなちゃんと岩倉さんの所の御子息は同じクラスだったんだっけ。私はまだ御子息には1回しか会ってないんだけど…蒼くん、だっけ。蒼くんってどんな子?」
あ、若松さん、私の話題はいいです。
「あいつは……ええと、う~ん、特に……まあ普通ですかね」
若松さんが“岩倉さんの所の御子息”という言い方をしたので、井上と中村が何か気が付くかな、と心配したが、この2人はそこには気が付かなかったようで、私の話題はすぐに立ち消えてしまった。安心しつつもなんか納得いかない。
中村の反応は? と、中村を見ると、目が合った。どうも私をじっと見ていたらしい。
「君、常に動いてるね」
中村が私に話しかけてきた。
「そう…ですか?」
「さっきから腕を組んだり後ろに回したり、足を崩し直したり、忙しいよね」
「そうかな?」
こんな話題で落ち着けるかい!
あれ? そういえば中村が女子に話しかけている所を見たこと無かったな。
ふうん、普段“俺”と会話している時となんか雰囲気違うなあ。
***
さっきの“岩倉さんの所の御子息”についてちょっと事情を説明する。
岩倉家は曽祖父の代まで農家だったのだが、某私鉄が近所に線路を引き宅地開発を進めたことで一気に村が近代都市に変貌した。祖父はその流れに乗り、農地を借家や借地とすることで、大きな収益を上げ……お金の話はやっぱりイヤらしいな……岩倉家は現在名目上不動産業を営んでいるが、実は何もしなくても今もマンションの賃貸料だけで結構な収入があったりするのである。
でもって、実は中山神社も法律上岩倉家の所有物だったりして。神社の公共感が損なわれるので極力表に出さないようにはしているが、金銭的には父と若松夫妻は今の所、雇い主と雇われ神主の関係だったりするのである。
そんなこんなで若松さんに“御子息”などという非常に心苦しい言葉を使わせてしまったが、このイヤな立場の唯一と言っていいメリットは、賃貸マンションの空室が自由に使えることである。
空室はダイヤルキーで施錠してあり、複数の不動産業者に斡旋を委託している。しかしながら朝の7時前に部屋を見に来る客など居る筈ないので、私は複数ある空室を現在更衣室として利用している。岩倉家を朝の5時~7時に、見知らぬ女の子が頻繁に出入りしているのを近所の人に見られたら、さすがに言い訳けできない。
そんなこんなで神社掃除の後、岩倉蒼に戻るために荷物と着替えを置いた部屋に向かって歩いていると、なずなからスマホにメッセージが入った。
「あおいちゃん、尾けられてるよ」
えっ? 言われても全く判らない。
今歩いているのは住宅街だが、周りを歩いてるのは通勤っぽい人数名、犬の散歩1名ぐらいなものであった。
「中村が建物の影に隠れるんだけど、見えないかな?」
ええっ? どこ? どこ?
しびれを切らしたか、音声通話でなずなが連絡を入れて来た。
「もう。キョロキョロしちゃダメでしょ」
「そんなぁ」




