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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第二作戦 大隊結成

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09

 海上を飛びながら、先程の男について坪田に説明すれば、久保も静かに眉をひそめていた。

 他の隊員も聞こえてはいるが、坪田の言葉を待っていた。というより、下手に茶化すことすらできない内容だ。


「本当に、あの楊李(ヨウ リ)の息子の楊劉(ヨウ リュウ)なんですか?」

「それは本当です」

「で、許可も取らず、忍び込んだ」

「そ、それは、本当かどうかは……でも、八割ぐらい正しいかと」


 命の掛かった作戦中ではあるが、これを生きて帰ったとして、残っている問題が大きい。


「藤堂艦長に確認を取った後ですが、厳重に抗議の文書を送りますからね」

「あ、はい。老師にも、ちゃんと言います」

「そうしてください」


 顔こそ向けていないが、怒っているのは想像に容易い。

 加賀谷に非はないが、乗船許可を下させる約束したこともあり、多少の問題は出てくる。


「11時の方向、魔力感! モホロビ級! 距離1万2千!」


 探査術式で広範囲を探っていた魔導士が叫ぶ。

 その声に、作戦後のことを考えていた脳を、現在の作戦へ戻す。


「船酔いしていた者は問題なく動けるか?」

「新鮮でひんやりとした空気のおかげで、気分がいいですよ!」

「よし。今回は、正真正銘、モホロビ級だ。以前のオケラとは違う。皆、心してかかれ」


 以前とは異なり、魔力も質量も持った、モホロビ級。

 撃ってくるのは、炎だけではないはず。艦隊に撃ち込まれたデドリィが、その証拠だ。


「砲台は私が破壊するので、周辺のデドリィをお願いします」

「了解しました。では、第一中隊は、砲台の破壊。第二、第三中隊は、周囲で島を形成しているデドリィの殲滅。

 レーダーを掻い潜ったところから見ても、相当小さな島を形成していると思われる」


 デドリィの侵攻方法のひとつ。

 巡回している船やレーダーに感知されないよう、巡回地点や人の密集した場所から離れた場所へデドリィを集結させ、小さな島を形成する。

 そして、そこに長距離撃つことのできる砲台を設置。デドリィを弾として砲撃後、着弾した地点へ新たな拠点を作る、彼らの奇襲作戦。


 日本から海上フロートへの航路付近を砲撃してきたということは、デドリィの目的は交通網の遮断だろう。

 マリアナ海溝に近い分、一度拠点を築かれれば、完全な排除は難しい。

 確実に仕留める必要がある。


 視界の先、広い海に、ポツリと浮かぶ。島があった。


「砲台目視。数3」


 そのうちのひとつが、赤い口をこちらへ覗かせていた。


「上昇!!」


 全部隊が高度を上げた直後、砲撃音。数秒後に、風と熱気が足元を通り過ぎていく。

 ほぼ同タイミングで、頭の上を通り捨ていく二発の音。

 襲撃のことを考えれば、ほとんど間を開けず、もう一発は撃てるはず。


 坪田が加賀谷に目をやれば、すでに高度6000mに到達するかというところにいた。

 予想通り、もう一発ずつ撃たれたデドリィ。


 口から出る息が白く染まり。

 空に立つ少女の髪が白く染まる。


「全隊。頭上に注意しろ」


 放たれた赤く熱されたデドリィ。

 表面が黒く固まっては、盛り上がるように赤く染まり、また黒く染まる。

 加賀谷が手を前に出せば、現れた二本の氷の杭。

 放たれた勢いのまま、デドリィは中心に穴をあけ、海へ落ちていく。


 第二、第三中隊が島へ向かえば、海の影が揺れ動く。


「来るぞ!」

「爆裂術式! 用意!!」


 第三中隊が、海中の影へ銃口を向ける。

 影は大きく揺れ、海面を弾き上げながら、姿を現した。


「撃てェ!!」


 着弾した大地が弾け飛ぶ。


 第二中隊も、第三中隊同様、島を守るため、海中に潜むデドリィたちを倒し、島へ向かう。

 海中の戦力は、正確に測ることはできない。

 だが、群れのリーダーであるデドリィを倒せば、生産能力は抑えられる。

 つまり、モホロビ級の砲台を倒せばいい。


 赤い砲口を、第三中隊に向けていた砲台に突き刺さる銃剣。

 吹き出す水蒸気は、三つの砲台を覆い隠すが、切り裂かれたように渦巻くと、水蒸気は霧散して消えた。


 水蒸気を晴らしたのは、ひし形の二枚の巨大な氷。その下には、筒のような、元砲台だったはずの黒い岩。

 そして、その中心に立つのは、氷の魔力により、白く染まった髪の契約魔導士である加賀谷。


「これ、我々の出番ありますかね?」


 密集していたこともあるが、一息に三つの砲台を倒した加賀谷に、乾いた笑いが漏れる。

 だが、予想に反し、切り口が黒から赤へ変わっていく。


「喜べ。出番はありそうだぞ」

「それはよかった! このままでは、補給部隊にゲロ吐き部隊と勘違いされるところです」

「それはお前だけだから、安心しろ。貫通術式、用意! 隊長!!」


 久保の声に、加賀谷は砲台から飛び上がる。

 足元に着弾した術式弾は、岩の内部まで貫き、漏れ出していた熱が動きを止める。


 群れのリーダーが、大きく損傷したからか、島周辺のデドリィが、一斉に砲台へ顔を向ける。

 そんなデドリィたちの背中が弾けた。


「敵が目の前にいる状況で、余所見とは、舐められたものだな」


 坪田は、足元に蠢くデドリィがいないことを確認すると、先程よりも随分黒くなった砲台へ目を向ける。

 土台部分。そこが、鈍く赤く光っている。

 核は、どうやらあの辺りのようだ。


 貫通術式ですら、届くか怪しい場所。先程の加賀谷の氷の刃で、切った方が早いかもしれない。


「……ん?」


 鈍い光が移動を始める。

 それは、砲台から島へ潜るように、海底へ逃げ出すように。


「第二中隊、貫通術式用意! 目標、海中デドリィ連絡柱!

 隊長! モホロビ級が逃げる前に、仕留めます!」


 第一中隊は、砲台の上だ。

 あの光の移動する向きは見えない。海底に逃げられては、手を出すのが難しくなる。

 海底に向かって伸びる柱を破壊すれば、多少移動速度は抑えられるはず。


「撃てェ!!」


 島が大きく揺れた。

 柱の6割が破損し、海上部分が大きい島は、容易く傾く。


「久保さん! 場所!」

「三時の方向。距離2!」


 右手を伸ばした先に、氷柱が形成される。


「深さ120!」

「せぇーーのっ!!」


 跳ね上がる海面が凍り、海底へ逃げ出そうとするデドリィの核を貫いた。



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