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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第三作戦 炎と氷

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 昔から、コミュニケーションは得意ではなかったし、訓練も大していい成績ではなかった。

 先生や教官からは、失敗する度に怒られるし、課題も与えられる。


「悠里は、やればできるんだから、焦らなければ大丈夫!」


 でも、同室の里沙(りさ)がいたから、ちょっとだけ頑張れた。


「いや、無理……焦らないとか、先輩たちが監督でも怖いし……!」


 失敗したとわかった瞬間に飛んでくる声を思い出しては、頭を抱えそうになる。

 そんな私の手を取る里沙は、いつものように仕方がないと笑って、自主練習に付き合ってくれる。


「とりあえず、練習しよ。体で覚えれば、頭真っ白でも、わりと何とかなるって!」

「脳筋理論?」

「人が助けてあげようとしてるのに、脳筋とか言うかぁ?」

「ごめんごめん。嘘です。見捨てないで。お願いします」

「よろしい。では、里沙お姉さんが、訓練に付き合ってあげましょう」


 ふたつ年上の里沙は、私と違って、成績優秀で、契約魔導士の有力候補として名前を上げられるほどだった。


「私? ムリムリ!」


 だけど、里沙本人はありえないって、いつも否定している。

 先生や教官たちにしてる、謙遜とは違い、本気で心の底から、ありえないと口にしていた。


「それにほら、楠葉いるし、私たちには神降ろしの話なんて回ってこないって」


 6歳年上の楠葉和彦。

 現候補生の中で、最も有名で、最も神降ろしの成功に近いと言われている先輩。


 私たちの世代の訓練の監督をすることもあって、正直ちょっと怖い。


「相変わらず、楠葉のこと、苦手なの?」

「呼び捨て……また怒られるよ?」

「どうせ、みんな、裏では呼び捨てだよ。悠里も呼び捨てにしてみたら? そしたら、怖くなくなるかもよ?」

「うん。無理」


 はっきりと答えれば、里沙に頬を揉まれる。


「私だけかぁ~~? 私だけ、呼び捨て仲良し特別アピールかぁぁ???」


 揉まれる頬に、翻弄されていれば、里沙の気が済むと、ようやく放される頬。

 残る感触に、自分の頬を撫でていれば、里沙の小さく笑う声が聞こえた。


「ま、私は、悠里の隣にいるからさ。それは安心して」

「私、魔力量以外成績よくないし、いつ落とされるかわからないよ?」


 8歳辺りから、実戦的な訓練も増えて、魔力などの潜在的な才能だけではない評価の比重も大きくなる。

 実技の成績が悪ければ、この訓練所から出ていくことになる。


 昔は、この訓練所から出ていった人たちは、皆、秘密裏に処分されていると噂を信じていた。

 さすがに今は、そんな噂は信じていないが、それでも、ここからいなくなった人と再会したという話は聞かない。


 もし、成績が悪くて、訓練所から出ていくことになったら、里沙とももう会えないかもしれない。


「それはがんばって。私も手伝うから」

「うん……がんばる」


 里沙と、離れ離れになるのは、ちょっと嫌だ。


「でも、悠里なら、絶対大丈夫」

「?」


 腕を引かれながら、ふと聞こえた声に顔を上げれば、いつも通りの里沙の笑顔があった。


「だからほら、がんばるぞー!」

「お、おぉ……!」


 困惑しながらも、声を上げてみれば、繋いだ腕を一緒に上げられた。


*****


 だけど、たった一日。いや、数時間にも満たない時間で、平和だった時間は、簡単に消え去った。


「――なんでこうなるんだ!!」


 実戦訓練の一環として、現在のデドリィ侵攻の最前線である、千葉県内の補給部隊に、候補生たちは少数ずつ送られていた。

 私や里沙は、まだ幼いため、比較的安全な場所での輸送任務だった。


 だが、デドリィとの戦闘において、安全な場所はなく、私たちのいる部隊は孤立した。


「落ち着け。俺たちだけでも、この場所に逃げ込めたのはラッキーだ。他の部隊を見ただろ」


 そう。この廃ビルに逃げ込むまでにも、他の部隊が、デドリィたちに焼き殺されているのを、見捨ててきた。


 その上、物資は自分たちが背負っていた分は持ちだせている。

 この場所で、数日救援を待てと言われても、何とかなる。


「でも、見ただろ!? この辺り一帯、デドリィたちが取り囲んでる。場所が分かっても、誰が助けに来れる!?」

「一旦、落ち着け。とにかく、今、本部の応答を待つ。誰か、こいつについておいてやれ」


 取り乱している隊員を一人が、少し離れたところに連れて行けば、指示を出していた小隊長が小さく肩を落とした。


「まったく……子供の方が落ち着いているな」


 小隊長がこちらに一瞬目をやるが、無線と発煙筒を持つと、階段の方へ向かった。


「大丈夫? 悠里」

「うん。里沙は?」

「平気。時々、似たようなことはあるし」

「そうなんだ……」


 里沙が言うには、契約魔導士の候補生がいる部隊は、こういった不測の事態で孤立した際に、救助の優先度が高くなるという。

 だから、それを知っている小隊長たちは、候補生が配属される任務で、不測の事態に陥った時、最も落ち着いている候補生を優先的に保護するらしい。


「そうすると、結果的に助かる人数が増えるんだって」


 今回で言えば、ここにいる人たちくらいは、救援が来て、助けてもらえるということか。


「なら、よかった」


 突然、襟を掴まれた時は、何かと思ったけど、自分たちの存在で、この人たちが助かるなら、十分だ。


「笹沼候補生。加賀谷候補生。お前たち、銃は扱えるな?」

「問題ありません」

「見張りはこちらで行うが、状況が状況だ。手元にはおいておけ」

「了解しました」


 とはいえ、渡されたのはハンドガンだけ。

 少なくとも、戦力とは、みなされていないのだろう。

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