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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第三作戦 炎と氷

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 最初に、それに気が付いたのは、久保だった。


 荒れ狂う炎の渦の中にいるガリーナを、じっと見つめている加賀谷の腕を掴んだ。


「隊長! 下がりましょう!」


 もう何度も見てきた。

 このまま放置すれば、加賀谷はひとり、ガリーナの元に向かってしまう。


 だが、加賀谷は視線だけを、掴まれた自分の腕の方へ向ける。


「手、離してください」


 いつもの加賀谷とは違う、ひどく冷めて、淡々とした言葉だった。


「離しません。アレに飛び込むつもりなら、なおさらです」


 手袋越しにも伝わる冷気。

 それでも、久保は手を離さなかった。


「いくら隊長でも、あの暴走状態のガリーナ魔導士に近づいたら、ただじゃ済まない! それはわかるでしょう!?」


 下手をすれば、炎と氷の契約魔導士のふたりを同時に失うことになる。

 それは、絶対に避けなければいけない。


「契約魔導士は、人類がデドリィに勝つために必要な存在です! それを勝手に暴走した奴のために、危険に晒すなんて――」

「離せ」


 たった三文字だというのに、指先に突き刺さるような冷気と視線に、久保は息を飲む。


「命令、すればいいですか?」

「――ッ従えません」


 絞り出す返答に、加賀谷から返ってきた言葉はなかった。

 ただ、久保を見ていた視線は、ガリーナの方へ戻り、加賀谷を掴む手に伝わる指先が、痺れ始める。


「隊長ッッ!!」


 例え、この場で自分が氷漬けにされようとも、止めなければならない。

 彼女がやろうとしていることは、人類の大きな損失になりかねない。


 久保が、辛うじて残る指先を強く握り込もうとした時だ。


――パンッ


 一発の銃声が響いた。


「…………」


 銃声は、楠葉が空に向けて撃ったものだった。

 理解のできないその行動に、久保が動揺したほんの一瞬に、加賀谷の腕は、久保の手から離れて行ってしまった。


「隊長ッ!! クソッッ中尉! 自分が何をやってるか理解しているのか!?」


 加賀谷の全速力に追いつけるはずもなく、久保は吊り上がった目を楠葉へやる。


 契約魔導士の重要性を、次期契約魔導士候補である楠葉が理解していないわけがない。

 こんな愚策を、許せるはずがない。


「もし、隊長まで巻き込まれて死んだら――!!」

「その時は、自分が神降ろしをして、契約魔導士になりますよ」


 普段ならただの軽口だと笑うところだが、楠葉のその目はあまりに静かで、覚悟も何もかもを宿していた。

 悔しいくらいに、久保はそれと同じ目を見たことがあった。


*****


 頬に吹き付ける熱を、なんとなく覚えていた。


『神降ろしをするなら、私からにしてください』


『大丈夫。絶対に戻ってくるから、悠里はここにいて。絶対だよ』


 本当は、途中から気付いてたのに、氷の中で黒く焼け続ける姿を見るまで、信じたくなかった。


「――高度を上げろ!!」


 また、また(イフリート)に奪われる。

 目の前で、また、焼かれて、奪われる。


 誰かのためだからって、泣くのを堪えてる人が、また、奪われる。


 ダメだ。そんなの。

 許せない。


「助けるから!!」


 今度は絶対に。


「だから! 上がれ!」


 高度が上がれば、気温が下がる。

 そうすれば、相反する炎と氷の性質でも、氷の方に有利に傾く。


 それで、炎の精霊が抑え込めるかはわからない。


 だけど、知ったことか。

 今度こそ、あの炎から伸ばされた手を掴むんだ。


*****


 全身の皮膚が引きつるような熱。

 鼻の奥につく、嫌な臭い。


「はっ、はっ……はっ……」


 苦しい、辛い、走り続けているから?

 それとも、燃えているから?


 わからない。

 でも、あの時とは違う。


 あの時は、確かにこの炎に立ち向かえていたのに、向かっていけていたはずなのに。

 今は、怖い。


 髪が、背中が焼け焦げるのを感じる。


「ぅ゛……っ、ハッ……」


 でも、足を止めたら、飲まれる。


――なんで、私、逃げてるんだろ。


 どうせ、助かるはずがないのに。

 せめて、デドリィの一体でも多く倒して死ぬべきなのに。


 なんで私、こんなの必死に走ってるんだろう。


「ダメ」


 誰かの叱責する声が聞こえた。


「走り続けて」


 誰?

 知らない声。


 つい、背後に目をやってしまえば、赤い炎が、私を飲み込んだ。


「――――」


 これは、死んだかな。


 どこか他人事のようにも感じる中、背中に触れた何かが、私の事を炎の中から押し出した。


「手を伸ばして」


 崩れたバランスを整えようと、前に手を突き出せば、指先に感じる冷気。


「大丈夫。必ず来てくれるから」


 もう少しと、無理矢理に手を伸ばせば、確かに手を掴んだ冷気。


――だって、私の親友だもん。


 全身が冷気に包まれる中、視界の隅に消えていく炎の中の揺れる影が、笑った気がした。

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