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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第三作戦 炎と氷

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 大地が出来上がる瞬間を見たことのある人間は、極一部だ。

 海面から大地がせり上がってくる、または大地の元となる高温の土や岩が海中から噴き出してくる。


 デドリィが作り出す新たな大地は、大抵が後者となる。

 そのため、不規則に吹き上がる高温の溶岩を避けながら、攻撃する必要がある。


 その上、攻撃対象であるデドリィの作成している大地は、海面から顔を出していないことも多い。

 海中に沈んだ大地のある位置を捉えながら、破壊していく。


 そのための方法は、海中の温度を魔術で確認するか、波の動きなどから判断することになる。


「まともにやってたら、こんなの魔力切れになるぞ……!」


 一ノ宮が、頬引きつらせながら、また海面に銃弾を放つ。

 銃弾は、加賀谷の魔力を纏っているおかげで、着弾した高い温度を示している場所は、すぐに温度が落ちる。


 だが、またすぐに温度がせり上がるように上昇してくる。


「当たりだ! 合わせろ!」


 今まさに、デドリィたちが、あの場所に大地を作ろうとしている。


 一ノ宮の声に、桐ケ谷たちも一ノ宮が銃を構える先に銃を構え、発砲した。

 何度か、攻撃を繰り返せば、赤く輝いていた熱が沈黙した。

 温度が上がる様子はない。


 どうやら、核を破壊できたらしい。

 その様子に、一ノ宮たちが安心したのも束の間。


 空気が、何度も振動しては、体に振動が伝わってくる。


 貫通術式などによるデドリィをせん滅音だ。


「沈黙を確認!」

「よし、次だ!」


 第二、第三中隊はもちろん、ロシアの部隊も、自分たちよりもずっと速い速度で、デドリィたちを倒し、島も破壊している。

 感心している余裕などない。

 だが、契約魔導士でもない魔導士たちの活躍は、より自分たちが劣っている事実を突きつけられている気分だった。


「――――」


 悔しいなどという余裕もない。

 戦場に出た以上、与えられた任務はこなさなければならない。


 一ノ宮は、周囲を見渡し、海面の高温の箇所に目を配れば、その場所に同じく、高温の物体が射貫く。

 それもほぼ同時のタイミングで、複数個所のデドリィたちの新しい島を正確に射抜いては、破壊している。


「契約魔導士ってのは、どいつもこいつも独断専行ばっかりなのか!」


 つい、口から苛立ちの言葉が漏れ出してしまうの。


 明確に、担当の箇所を決めているわけではなく、お互いに出撃位置からおおよそ半分というのが、暗黙の了解となっていた担当箇所。

 だが、ガリーナは先程から、他の部隊員たちと別れ、単独で行動し、デドリィたちを攻撃していた。


 その途中、炎の矢のような鋭い攻撃が、暫定的に決められている日本の領分にも射貫かれてくるのだ。


「口じゃなくて、手を動かせ!! 炎の矢も、こっちに当たらないように撃ってる!」

「了解です!」


 楠葉からの叱咤に、一ノ宮も苛立ち交じりにも返答をし、また熱源に向かって、銃を構えた。


*****


 デドリィたちの攻撃を避けながら、ガリーナは次々と島を破壊していた。


「おいおい……隊長のやつ、全部ひとりで片付けるつもりか?」


 その勢いは、同じ部隊の人間であっても、驚く速度だった。


 物心つく頃から、厳しい訓練を受け、選抜された中から、精霊と契約する素質もあると判断された人物。

 それがガリーナ・ニムファであり、現ロシアの最高戦力の魔導士だ。


『アンタたちに期待はしていない。ただ、迅速に群島型デドリィをせん滅するため、周囲のデドリィを討伐しなさい』


 部下に期待などしない。

 自分とは異なり、モホロビ級程度にすら、遅れをとるような奴らに、期待など、できるはずがない。


 ガリーナは、ただひとり確実に、炎の銃撃でデドリィたちを射抜いていく。


「――――」


 その間も、少なからず目をやるのは、同じ契約魔導士である加賀谷の姿。


 ガリーナ同様、戦闘はひとりで行っていることが多いようだが、自らが率いる中隊を含め、部隊からは、あまり距離を取らないようにしているようだ。

 絶えず海面から吹き上がる蒸気から、部隊を守るためか。


「チッ……」


 思わず舌打ちが漏れる。


 契約魔導士が、弱い人間を守るのは当たり前だ。

 だが、それによって、デドリィを倒せなくては意味がない。

 少なくとも、戦場にいるのは、覚悟を持った者たちだけだ。


 守って、対処が遅れたでは、話にならない。


「――群島中央に突入する!」


 周囲の島の約七割が破壊されたところで、ガリーナが声を上げ、中央の最も大きな島に向かった。


 早く、誰よりも早く、あの島にいるデドリィを倒す。

 それが契約魔導士(じぶん)の任務。


 ガリーナが銃を構えた時だ。

 中央の島だけではない、周囲の島からも飛沫を上げて、黒い岩石が飛んできた。


「!! あいつら、落とし切れてないじゃない……!!」


 向かってくる黒い岩石に、舌打ち混じりに悪態をつきながら、体を捻り、回避する。

 それと同時に、その岩石の飛んできた方向へ、炎の矢を撃ち返す。


 その矢はデドリィたちに着弾すると同時に、爆発的に燃えるが、その炎の中ですら、ゆらり蠢くデドリィの影。


「鬱陶しいわね……!! このまま、落としてやる……!」


 ガリーナが声を上げると共に、ガリーナの髪が、炎のように真っ赤に燃え上がる。

 溢れ出す龍のように逆巻く炎は、周囲の空間を焼き焦がした。


――精霊の完全顕現


 普段、契約魔導士は、周囲の影響を抑えるため、その力を抑えている。

 精霊の力を完全に解放すれば、自分の周りにいる部隊までもが、巻き込まれる危険があるからだ。

 

 だが、今のガリーナは、契約した炎の精霊、そのものであった。


「弓……?」


 一ノ宮が、ガリーナの手に持つ大弓に、疑問を抱いていれば、楠葉の怒号が飛ぶ。


「防壁術式!」


 直後、巨大な魔力が膨れ上がると共に、炎の熱と輝きが、周囲を覆い尽くした。


「隊長ッ!!」


 楠葉たち、第四中隊より、ガリーナに近い場所にいた久保は、白い視界の中で、声をあげる。

 数瞬前、炎のように輝きを放つガリーナと、その手に持っていた大弓に、すぐに防壁術式を展開した。


 だが、精霊を自らの体に完全顕現させたガリーナの攻撃の余波を、完全に防ぎきることはできない。


 衝撃に備えた久保の前に立ったのは、赤く輝く炎とは真逆の、氷のような青白い髪をはためかせる加賀谷の姿だった。


「久保さん、無事ですか?」


 強く吹き荒れる白い視界は、またすぐに元の視界に戻っていく。

 そこには、先程と同じ場所で佇む加賀谷の姿。

 その様子に、久保は静かに胸を撫で下ろした。


「無事です。それより、今の、”霊装”ですか……?」


 契約した精霊からもたらされる、人類最強の武装”霊装”。


 その力は圧倒的なもので、たった一射で、中央の島を文字通り、火の海にした。

 中央の島以外にも、周辺の島にも火柱が上がっているのは、あの一瞬で、同時に攻撃を放ったからだろうか。


 何にしろ、凄まじい威力だ。

 加賀谷が、とっさに防壁術式を張ってくれなければ、巻き込まれていた。


「おそらく……私も、自分のもの以外、ちゃんと見たことがあるわけではないので、確実なことは言えませんが」


 今の威力が証明する通り、完全顕現した状態での、霊装の使用は、周囲を巻き込む。

 各契約魔導士の部隊が、それぞれ特別な装備をしているのは、これらの影響を極力抑えるためだ。

 

 加賀谷は、久保たちの前で完全顕現をしたことがない。

 そのため、久保たちにとっても、契約魔導士の完全顕現した姿を見たのは、初めてだった。


 相反する性質の氷の精霊を身に宿す、加賀谷の近くにいるおかげで、熱を感じることはほとんどない。

 だが、それでも赤く輝く炎の圧は、デドリィとはまた違った威圧感を感じる。


「――――」


 自分たち人間などでは、到底太刀打ちなどできないような、絶対的な力。

 そんな攻撃が、何度もあの弓から放たれている。


「……フェンリル01から全隊員。戦線を下げてください」


 無線を通した部隊全体への指示をする加賀谷に、久保は慌てたように、加賀谷に視線を戻す。


 先程の余波を防ぎきれなかったのを考えて、隊員たちを下げようとしているのか。

 それとも、自分がガリーナの姿に圧倒されていたのを見て、判断したのか。


 どちらにしても、力不足と判断したのかと、慌てるが、加賀谷は困ったように首を横に振った。


「氷と炎は、相殺し合ってしまうんです。だから、ここで私が力を使い過ぎると、ガリーナさんの威力も、私の威力も、お互いに半減してしまいますから」


 だから、影響がお互いに少ないように、離れようとしただけだと、口にする加賀谷に、久保は小さく頷いた。


 今の言葉に、嘘はない。

 だが、全てではないだろう。


「群れのリーダーは倒しましたし、あとは残ったデドリィを倒すだけですよ」


 中央付近の島は、軒並み火柱が上がっており、周囲の島にもガリーナの攻撃が、いまだ降り注いでいる。

 この調子なら、五分もしない内に、群島型デドリィたちは、せん滅されることだろう。


「了解です」


 乾ききった口から、どうにか紡ぎ出した言葉に、加賀谷も安心したように、動き出そうとした時だ。


 加賀谷の冷気すら突き破るような、熱風が吹き荒れた。

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