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大地が出来上がる瞬間を見たことのある人間は、極一部だ。
海面から大地がせり上がってくる、または大地の元となる高温の土や岩が海中から噴き出してくる。
デドリィが作り出す新たな大地は、大抵が後者となる。
そのため、不規則に吹き上がる高温の溶岩を避けながら、攻撃する必要がある。
その上、攻撃対象であるデドリィの作成している大地は、海面から顔を出していないことも多い。
海中に沈んだ大地のある位置を捉えながら、破壊していく。
そのための方法は、海中の温度を魔術で確認するか、波の動きなどから判断することになる。
「まともにやってたら、こんなの魔力切れになるぞ……!」
一ノ宮が、頬引きつらせながら、また海面に銃弾を放つ。
銃弾は、加賀谷の魔力を纏っているおかげで、着弾した高い温度を示している場所は、すぐに温度が落ちる。
だが、またすぐに温度がせり上がるように上昇してくる。
「当たりだ! 合わせろ!」
今まさに、デドリィたちが、あの場所に大地を作ろうとしている。
一ノ宮の声に、桐ケ谷たちも一ノ宮が銃を構える先に銃を構え、発砲した。
何度か、攻撃を繰り返せば、赤く輝いていた熱が沈黙した。
温度が上がる様子はない。
どうやら、核を破壊できたらしい。
その様子に、一ノ宮たちが安心したのも束の間。
空気が、何度も振動しては、体に振動が伝わってくる。
貫通術式などによるデドリィをせん滅音だ。
「沈黙を確認!」
「よし、次だ!」
第二、第三中隊はもちろん、ロシアの部隊も、自分たちよりもずっと速い速度で、デドリィたちを倒し、島も破壊している。
感心している余裕などない。
だが、契約魔導士でもない魔導士たちの活躍は、より自分たちが劣っている事実を突きつけられている気分だった。
「――――」
悔しいなどという余裕もない。
戦場に出た以上、与えられた任務はこなさなければならない。
一ノ宮は、周囲を見渡し、海面の高温の箇所に目を配れば、その場所に同じく、高温の物体が射貫く。
それもほぼ同時のタイミングで、複数個所のデドリィたちの新しい島を正確に射抜いては、破壊している。
「契約魔導士ってのは、どいつもこいつも独断専行ばっかりなのか!」
つい、口から苛立ちの言葉が漏れ出してしまうの。
明確に、担当の箇所を決めているわけではなく、お互いに出撃位置からおおよそ半分というのが、暗黙の了解となっていた担当箇所。
だが、ガリーナは先程から、他の部隊員たちと別れ、単独で行動し、デドリィたちを攻撃していた。
その途中、炎の矢のような鋭い攻撃が、暫定的に決められている日本の領分にも射貫かれてくるのだ。
「口じゃなくて、手を動かせ!! 炎の矢も、こっちに当たらないように撃ってる!」
「了解です!」
楠葉からの叱咤に、一ノ宮も苛立ち交じりにも返答をし、また熱源に向かって、銃を構えた。
*****
デドリィたちの攻撃を避けながら、ガリーナは次々と島を破壊していた。
「おいおい……隊長のやつ、全部ひとりで片付けるつもりか?」
その勢いは、同じ部隊の人間であっても、驚く速度だった。
物心つく頃から、厳しい訓練を受け、選抜された中から、精霊と契約する素質もあると判断された人物。
それがガリーナ・ニムファであり、現ロシアの最高戦力の魔導士だ。
『アンタたちに期待はしていない。ただ、迅速に群島型デドリィをせん滅するため、周囲のデドリィを討伐しなさい』
部下に期待などしない。
自分とは異なり、モホロビ級程度にすら、遅れをとるような奴らに、期待など、できるはずがない。
ガリーナは、ただひとり確実に、炎の銃撃でデドリィたちを射抜いていく。
「――――」
その間も、少なからず目をやるのは、同じ契約魔導士である加賀谷の姿。
ガリーナ同様、戦闘はひとりで行っていることが多いようだが、自らが率いる中隊を含め、部隊からは、あまり距離を取らないようにしているようだ。
絶えず海面から吹き上がる蒸気から、部隊を守るためか。
「チッ……」
思わず舌打ちが漏れる。
契約魔導士が、弱い人間を守るのは当たり前だ。
だが、それによって、デドリィを倒せなくては意味がない。
少なくとも、戦場にいるのは、覚悟を持った者たちだけだ。
守って、対処が遅れたでは、話にならない。
「――群島中央に突入する!」
周囲の島の約七割が破壊されたところで、ガリーナが声を上げ、中央の最も大きな島に向かった。
早く、誰よりも早く、あの島にいるデドリィを倒す。
それが契約魔導士の任務。
ガリーナが銃を構えた時だ。
中央の島だけではない、周囲の島からも飛沫を上げて、黒い岩石が飛んできた。
「!! あいつら、落とし切れてないじゃない……!!」
向かってくる黒い岩石に、舌打ち混じりに悪態をつきながら、体を捻り、回避する。
それと同時に、その岩石の飛んできた方向へ、炎の矢を撃ち返す。
その矢はデドリィたちに着弾すると同時に、爆発的に燃えるが、その炎の中ですら、ゆらり蠢くデドリィの影。
「鬱陶しいわね……!! このまま、落としてやる……!」
ガリーナが声を上げると共に、ガリーナの髪が、炎のように真っ赤に燃え上がる。
溢れ出す龍のように逆巻く炎は、周囲の空間を焼き焦がした。
――精霊の完全顕現
普段、契約魔導士は、周囲の影響を抑えるため、その力を抑えている。
精霊の力を完全に解放すれば、自分の周りにいる部隊までもが、巻き込まれる危険があるからだ。
だが、今のガリーナは、契約した炎の精霊、そのものであった。
「弓……?」
一ノ宮が、ガリーナの手に持つ大弓に、疑問を抱いていれば、楠葉の怒号が飛ぶ。
「防壁術式!」
直後、巨大な魔力が膨れ上がると共に、炎の熱と輝きが、周囲を覆い尽くした。
「隊長ッ!!」
楠葉たち、第四中隊より、ガリーナに近い場所にいた久保は、白い視界の中で、声をあげる。
数瞬前、炎のように輝きを放つガリーナと、その手に持っていた大弓に、すぐに防壁術式を展開した。
だが、精霊を自らの体に完全顕現させたガリーナの攻撃の余波を、完全に防ぎきることはできない。
衝撃に備えた久保の前に立ったのは、赤く輝く炎とは真逆の、氷のような青白い髪をはためかせる加賀谷の姿だった。
「久保さん、無事ですか?」
強く吹き荒れる白い視界は、またすぐに元の視界に戻っていく。
そこには、先程と同じ場所で佇む加賀谷の姿。
その様子に、久保は静かに胸を撫で下ろした。
「無事です。それより、今の、”霊装”ですか……?」
契約した精霊からもたらされる、人類最強の武装”霊装”。
その力は圧倒的なもので、たった一射で、中央の島を文字通り、火の海にした。
中央の島以外にも、周辺の島にも火柱が上がっているのは、あの一瞬で、同時に攻撃を放ったからだろうか。
何にしろ、凄まじい威力だ。
加賀谷が、とっさに防壁術式を張ってくれなければ、巻き込まれていた。
「おそらく……私も、自分のもの以外、ちゃんと見たことがあるわけではないので、確実なことは言えませんが」
今の威力が証明する通り、完全顕現した状態での、霊装の使用は、周囲を巻き込む。
各契約魔導士の部隊が、それぞれ特別な装備をしているのは、これらの影響を極力抑えるためだ。
加賀谷は、久保たちの前で完全顕現をしたことがない。
そのため、久保たちにとっても、契約魔導士の完全顕現した姿を見たのは、初めてだった。
相反する性質の氷の精霊を身に宿す、加賀谷の近くにいるおかげで、熱を感じることはほとんどない。
だが、それでも赤く輝く炎の圧は、デドリィとはまた違った威圧感を感じる。
「――――」
自分たち人間などでは、到底太刀打ちなどできないような、絶対的な力。
そんな攻撃が、何度もあの弓から放たれている。
「……フェンリル01から全隊員。戦線を下げてください」
無線を通した部隊全体への指示をする加賀谷に、久保は慌てたように、加賀谷に視線を戻す。
先程の余波を防ぎきれなかったのを考えて、隊員たちを下げようとしているのか。
それとも、自分がガリーナの姿に圧倒されていたのを見て、判断したのか。
どちらにしても、力不足と判断したのかと、慌てるが、加賀谷は困ったように首を横に振った。
「氷と炎は、相殺し合ってしまうんです。だから、ここで私が力を使い過ぎると、ガリーナさんの威力も、私の威力も、お互いに半減してしまいますから」
だから、影響がお互いに少ないように、離れようとしただけだと、口にする加賀谷に、久保は小さく頷いた。
今の言葉に、嘘はない。
だが、全てではないだろう。
「群れのリーダーは倒しましたし、あとは残ったデドリィを倒すだけですよ」
中央付近の島は、軒並み火柱が上がっており、周囲の島にもガリーナの攻撃が、いまだ降り注いでいる。
この調子なら、五分もしない内に、群島型デドリィたちは、せん滅されることだろう。
「了解です」
乾ききった口から、どうにか紡ぎ出した言葉に、加賀谷も安心したように、動き出そうとした時だ。
加賀谷の冷気すら突き破るような、熱風が吹き荒れた。




