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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第三作戦 炎と氷

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 ”女帝”

 敵からも、味方からも恐れられる、冷徹冷酷な、ロシアの契約魔導士。

 私の、祖母(バブゥシカ)


 恐れられながらも、彼女こそいれば、その戦場からはデドリィはいなくなると、皆が安心した。

 凛々しくて強い、誰もの憧れ。


 実の孫である私ですら、幼い時に、片手で数えられるくらいしか会ったことのない祖母だけど、その温かい手は覚えている。

 周りからどれだけ冷血と、シベリアを体現した女と言われようとも、私の頭を撫でるその手は、温かった。


 愛している。

 そんな言葉すら、かけられた覚えはない。

 でも、私の頭を撫でる手は、確かに、その言葉を告げていた。


 だから、仕方ない。

 世界の平和のため、人々の安全のため、デドリィと戦いで死ぬことは。


「……安心して。バブゥシカ。今度は私が守るから」


 祖母の墓の前で誓った。


 今度は、自分が祖母のように、世界をデドリィから守るのだ。


「ガリーナ。あまり、無理をしたらダメだよ」

「無理? 何を言ってるの。私は、バブゥシカと同じ、氷の精霊と契約するの。絶対に。そのために訓練することが、無理?」


 同じく、契約魔導士の候補であるオニが、視線を巡らせながら、首を横に振った。


「そうじゃない。君は、きっと契約できる。大丈夫だ。だから、今無理をして、体を壊さないでほしい」

「ハァ? なにそれ。そんなこと言って、怠けさせて、自分が契約しようって算段?」

「違うよ。わかるんだ。僕と君は違う。僕は、君のようにはなれない」


 真剣に見つめるオニの目に、意識的に上げていた口角から力が抜ける。


「なにそれ。意味わかんない」

「そうかもね。でも、僕はわかるんだ」

「ちゃんと説明しなさいよ」

「それは、ガリーナが証明してくれるよ」


 結局、オニは説明なんかしなかった。

 だけど、私は、()()()()と契約して、契約魔導士になった。


 だから、結果的には、オニの言う通りになっていた。


「――隊長。そろそろお時間です」


 副官になったオニが、私の後ろを歩きながら、ふと声をかけてきた。


「今回の作戦、日本の契約魔導士との合同作戦ですが――」

「わかってる。別に何もしないわよ」

「…………はい」


 どの精霊と契約できるか。

 それは、誰にも選べない。


 精霊との契約のための術式を起動したら、あとはもう運任せだ。

 どこかの精霊の元に魂が飛ばされ、試練を受け、精霊から認められることで、契約を結べる。


 一部では、アタリやハズレと言われることもある精霊との契約。

 氷の精霊は、アタリ。炎の精霊は、ハズレ。


 あぁ……そんな、戦場にも出ない連中の言葉に一喜一憂などしない。

 しないが、頭に過るのは、記録に残っている女帝の後ろ姿。


『でも、契約魔導士だけじゃ、勝てません』


――認められない。認めてなるものか。


 あんな、誰かの後ろで、誰かの言葉を待っているかのような加賀谷を、氷の契約魔導士(バブゥシカ)だなんて。


「今回の作戦、日本の部隊はただのお荷物。必要なかった。そう言わしめてやるわよ」


 前回の戦いからの戦績なんて関係ない。

 懇意の契約魔導士がいるなんて関係ない。


 今、この場において、力を持ち、デドリィを打ち砕ける力は、私の方がある。

 それを証明してやる。


「――502魔導大隊! 出撃する!」


*****


 同時刻。

 加賀谷たちも、作戦のために、装備を身に纏い、甲板で坪田による作戦の最終確認が行われていた。


「群島型デドリィの群れのリーダーは、中央に位置する島に存在する可能性が高い。だが、この規模では、リーダーをロストしたところで、デドリィたちの統率が崩れることは少ない。

 そのため、周囲の島のデドリィたちを確実に破壊。6割以上を制圧した時点で、中央本島への攻撃を開始となる」


 襲撃のタイミングと、日本とロシアの部隊、どちらがデドリィのリーダーへの攻撃を行うかは、実際に状況により判断される。


 今までのような、加賀谷を含む第一中隊が、隙があれば群れのリーダーを討ち取り、残党を処理するというわけにはいかない。

 他部隊、しかも加賀谷と同等である、契約魔導士がいる部隊との連携。


 基本的な作戦指示は坪田へ一任されているとはいえ、他部隊との連携となれば、旗持ちは加賀谷自身が行わなければならない。


 やらなければならない時、加賀谷は、誰よりも早く、躊躇なく行動できる人である。

 しかし、それはおそらく、ガリーナも同じ。

 だからこそ、連携の事を考えると、お互いの相性の問題が生じてくる。これが一番の悩みの種だ。


「知っての通り、今作戦において、共同戦線を張るのは、ロシアの契約魔導士部隊だ。無様な姿を見せれば、日本の威信に関わると思え」


 坪田の言葉に、少しだけ加賀谷が坪田の方へ目をやれば、楠葉からの静かな視線が突き刺さり、すぐに視線を戻す。


 ユニリッドに所属している限り、それぞれの国の利益より、デドリィという人類そのものへの脅威の排除を優先される。

 とはいえ、国同士の問題を、そう簡単に割り切ることができないことも事実だ。


 加賀谷がいつものように、坪田に説明を任せていると、ふと無線に入る声。


『――加賀谷契約魔導士殿』


 藤堂の声だった。


『こちらも魚雷を準備していますので、必要とあらば、ご連絡を。大地でも、氷山でも、砕いてみせましょう』

「――――」


 その言葉に、加賀谷は少しだけ目を見開くと、少しだけ柔らかく表情を緩める。


「ありがとうございます」


 それだけ伝えると、加賀谷は坪田の方へ目をやった。


「坪田さん。私の魔力を使った弾を使用しませんか? それなら、多少海面より低い島も、凍らせられます」


 魔力充填リモートマガジンによる、加賀谷の冷気をまとった魔力の充填。

 契約魔導士の圧倒的な力を、限定的とはいえ、部隊全体に行き渡らせることができる。


 だが、それは最大戦力である加賀谷の魔力を使うことになり、肝心な時に、加賀谷自身が魔力切れを起こす危険を伴う。

 以前、第四中隊が、勝手に使用していた時は、全く問題ないと言っていたが、油断は禁物だろう。


「今回は、別部隊もいますし……確実性を優先させる、なら……」


 思案するように加賀谷を見下ろす坪田に、加賀谷の声は徐々に小さくなっていく。


 つい、勢いで提案してしまったが、作戦については、既に連絡はされていたはずだ。

 それをこの最終確認のタイミングで、使用する武器の変更を提案するのは、下手をすれば、作戦そのものが変わる可能性がある。


 加賀谷の魔力を使用すれば、圧倒的な力を手に入れることは、以前に第四中隊が証明している。

 だが、それと同時に、突然強力な武器を手に入れることへの危険性も、証明する結果となってしまっていた。


 それを、坪田がどう判断しているのか。

 少なくとも、アレ以降も、変わらず加賀谷の魔力を使用することを良しとしていない辺り、よく思っていない可能性が高い。


「……わかりました」


 いつもの中隊長たちだけの話し合いとは異なり、大隊全体がいるタイミングで口にしてしまった手前、いつものように、すぐに取り下げるわけにもいかず、内心焦る加賀谷に返ってきた言葉は、了承だった。


「総員。聞いたな。今作戦では、魔力充填リモートマガジンの使用を許可する。第四中隊。同じ轍を踏むなよ」


 淡々と、大隊全体へ通達している坪田に、加賀谷は、静かに視線を下げる。

 だが、妙に感じる視線に、そっと目をやれば、楠葉が妙に圧のある笑みを浮かべていた。


「…………」


 顔に出すな。


 言葉ない言葉に、加賀谷は極力、表情を変えないように、前を向いた。



「――いきなり提案するの、まずかったですよね……?」


 空を飛びながら、ふと久保の耳に届いた、加賀谷の肉声に、久保も苦笑いをひとつ溢す。


「あの程度、問題ありませんよ」


 考えれば考えるほど、あのタイミングでの、隊長からの提案を部下である坪田が断れるはずがない。

 相当気を使わせただろうかと、加賀谷が少しだけ気にしていれば、少しだけ近づく久保。


「坪田大尉のアレは、デドリィとの戦闘で、隊長が我々のせいで魔力切れにならないように考えた結果です。正直、我々にはまだ、隊長の魔力の底が見えていません。だからこそ、心配になっているんです」


 紀陽の言葉通りなら、魔力充填リモートマガジンは、常に使用していても問題ないという話だった。


 だが、見当もつかないのだ。

 部隊が銃撃に使用する魔力の総量を、それを肩代わりすることのできる魔導士というものを。


 だからこそ、大丈夫だろう。という憶測で作戦を組み立てたくない。

 戦闘というものは、いつだって不測の事態が起きるものだから。


 それが、自分たちの保有する、最大戦力である契約魔導士であるなら、慎重にもなる。


「ですので、今回の作戦で、隊長が倒れなければ、心配は減ります」


 冗談でも言うかのように、軽やかに口にする久保に、加賀谷もつい振り返ってしまう。


 強引ではあったが、結果的に今回の作戦で、加賀谷が魔力切れを起こさなければ、坪田の気にしている魔力量の懸念は減る。

 慎重な性格な坪田のことだ。全面的に許可はしないが、今ほど気にすることも無くなるだろう。


「なる、ほど……わかりやすくて助かります」

「…………まぁ、本心なのは察しますが、隊長って結構脳筋ですよね」


 きっと、悪気や嫌味など無く、そのくらいなら問題なくできる。程度の返事だ。

 自分も多少、加賀谷の反応を予想できるようになってきているが、予想通りの反応をされると、それはそれで、何とも言えない気分になる久保だった。


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