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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第三作戦 炎と氷

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 数日ぶりに、加賀谷たちが戻った隊舎。

 加賀谷たちが不在時も、非戦闘員である日野が待機しており、補給部隊などの別部隊と、次の作戦などの準備を進めてくれている。


 そのため、隊舎内に人がいることは不思議ではないが、様子のおかしい別部隊の隊員が、加賀谷たちに気が付くと、手ぶりで”急げ”と伝えてきた。


「あれ? 老師」


 応接室にいたのは、楊李だった。


 中国の契約魔導士であり、現役最強とも言われる楊が、突然現れれば、何事かと心配していたのだろう。

 数ヶ月前まで、同じ気苦労をしていた坪田は、過去の自分を見るように、先程の隊員たちに同情した。


 対して、部下たちの気苦労に気が付いていない加賀谷は、それはそれで、楊がこの場にいることに疑問を持っていた。


「何かあったんですか? 本隊は本隊で、結構忙しいって聞きましたよ?」


 現在のデドリィは、拠点となる島を形成しようとしているところだ。

 それ故に、遊撃隊である加賀谷やガリーナの部隊は、連日のように、島を形成しようとしているデドリィの群れを討伐していた。


 本隊である楊たちは、加賀谷たちのような、連日戦闘ということはないが、今後の作戦での連携などで忙しいはずだ。


「その辺りは、つまらんから部下に任せてる」


 ”つまらない”

 その一言で片づけていいかは、少し疑問だが、加賀谷もほとんど任せてしまっている手前、何も言えなかった。


「マイクは、相変わらず揉めてるらしいし、問題ないだろ」

「そういえば、前の会議も不参加でしたね」

「まだアメリカに引き籠ってるらしい。娘の方が、先に現地入りしそうだとか言ってたが……あまり駄々を捏ねると、別の奴が来るだろ」


 契約魔導士は、各国に原則一名と国際条約で決められている。

 それだけ、大きな戦力なのだ。契約魔導士というものは。


 そのため、ほとんどの国が、次の契約魔導士の候補となる人物を選別し、育成している。

 アメリカやロシアは、その最たる国で、そのふたつの国は、契約魔導士の空白期間が一ヶ月と開いたことがない。


 要するに、アメリカにとっては、前回の戦いの英雄ではあるが、今回の戦いに参加しないならば、容赦しないということだ。


「そんなことより、最近、ロシアの、ガリーナとやりあっとるんだってな? どの程度だった?」


 楽し気に加賀谷へ問いかける楊に、加賀谷は、困ったように眉を下げる。


「実際に、手合わせしたわけじゃないですよ」

「なんだ。つまらん」


 本当に、つまらなさそうに、お茶をすする楊に、加賀谷も乾いた笑いを漏らすしかなかった。


「女帝の孫だからな。強くないわけないんだがな」

「孫?」

「応とも」


 それは少し不思議だった。

 ”女帝”といえば、数十年前のロシアの契約魔導士で、島をひとつ氷漬けにした伝説の残る契約魔導士だ。

 冷徹で冷酷な女性で、デドリィを倒すためならば、味方を犠牲にすることを厭わなかったという。


 しかし、死亡の記録はあったし、年齢も40代前半だったはずだ。

 孫というには、少し若すぎる気がする。


「その辺りは、考えるな。面倒に巻き込まれるぞ」

「…………わかりました」


 国の事情などに詳しくない加賀谷であっても、少し想像できる方法は、決して褒められたものではない。

 素直に、楊の言葉に従って、想像するのをやめておいた。


「あやつもあやつで、急ぎ戦果が欲しいだろうよ。優秀だろうと、新米で、まだ評価もされておらんからな」

「大変ですね」

「…………」


 他人事な加賀谷の言葉に、楊は湯呑に口をつけながら、呆れた視線を送り、後ろに控えていた坪田たちにも目をやった。

 その表情は、バツの悪そうに、しかし、諦めたような表情だった。


「過保護も良くはないと思うがな……」

「過保護……? いや、老師の劉さんへの扱いは、もう少し優しさをあげてもいいと思うんですけど……」

「あのバカには、アレで十分だ」


 息子である劉の名前を出した途端、不機嫌そうに一気にお茶を煽ると、楊はソファから立ち上がる。


「え、あの、結局、何の用だったんですか?」

「ん? あぁ……ほれ」


 思い出したように、楊から放られたのは、ジャスミン茶だ。


「少し、長くなりそうな任務を任されてな。その前に、それを渡しに来た」


 昔から、楊が、月餅や中国茶を渡してくることは多かったが、今回は、あまりに唐突だった。

 意味が分からないと首を傾げる加賀谷に、楊は、既に用件は済んだとばかりに、部屋を出ようとしていた。


「わからなけりゃ、後ろの連中に聞け」


 それだけ言い残すと、楊は、部屋を出て行った。


「えーっと……」


 閉まったドアの前で、加賀谷は、困惑した表情で振り返れば、坪田たちは、何とも微妙な表情をしていた。

 どうやら、楊の言っていた言葉を、理解しているらしい。


「悠里、あのだな……契約魔導士同士で、戦果の取り合いをしてるのはわかるか?」


 それ次第で、参謀本部が今後の作戦での配置を考える。


 つまり、自分たちの有用性の売り込みだ。

 一般魔導士と比べるなら、精霊と契約している契約魔導士は、圧倒的な力で、比べるまでもない。

 だが、契約魔導士同士では、個人の能力や部隊が評価されることになる。


「使えない契約魔導士なら、使い捨て部隊にされる可能性もある」

「はい」


 理解はしているが、合点がいっていない様子の加賀谷に、楠葉は少し眉を潜めそうになりながら、言葉を続けた。


「悠里は、8年のブランクがあるだろ。以前の戦果だって、単独行動だったから、それほど大きなものじゃない」

「そう、ですね……?」

「現状の契約魔導士は、前回の戦いからの生存者がほとんどで、ガリーナは新人で、戦果がほとんどない。しかも、遊撃隊なんて、使い捨て部隊にするには、もってこいの配置だ」


 ようやく、合点がいってきたのか、加賀谷も眉を潜めだす。


「つまり、ガリーナさんは、私たちより戦果を挙げたいってことですか? それで、使い捨て部隊にならないようにしたい」

「そういうこと」


 他にも因縁がありそうだが、ガリーナも含めた部隊全体が絡んでくるのは、それが理由だろう。

 同年代の契約魔導士なら、戦果に大きな差はなく、他の契約魔導士に比べて、蹴落としやすい。


「……でも、やっぱり、老師が来た理由には、ならない気がするんですけど」

「現役最強って言われてる契約魔導士と懇意してる奴を、軽々と蔑ろにできないからだろ」


 つまり、楊は、加賀谷の後ろ盾として、この隊舎に来てくれたのだ。

 長期任務の忙しいタイミングで、()()()()顔を出すなど、相当仲が良いことを証明するかのように。


「そうだったんだ……今度、会ったら、ちゃんとお礼言っておかないと……」

「あーうん。そうしろ」


 どこか違う気もしたが、楠葉は、それ以上、何も言わなかった。


「――隊長。質問をよろしいでしょうか?」


 急に改まる坪田に、加賀谷は、不思議そうな表情をするが、小さく頷いた。


「そのロシアの部隊との件もですが、今後の作戦のことも踏まえ、ひとつ、意思の確認をさせていただきたいのです」

「意思の確認ですか?」

「単純なことです。もし、即時対応しなければならない、救助者とデドリィが同時に存在した場合、()()は、どちらを優先すべきでしょうか」


 この先、必ず一度ではなく、何度も起きることだ。

 その度、加賀谷にどちらを優先すべきかと確認することはできない。


 部隊の作戦を任されている者として、隊長である加賀谷の意思は、はっきりさせておきたい。


「遊撃隊として、戦果を優先するならば、デドリィの討伐でしょう。強大なデドリィであればあるほど、その先の数百の命を救うことになります。

 しかし、戦果よりも、救える目の前の命を優先するというならば、我々はそのように動きます」


 ガリーナたちのように、戦果を優先するならば、それがデドリィを倒す。それが一番だ。

 契約魔導士の役目にも合致する。


「どちらも、というわけにはいきませんか?」

「可能な限りは、そのようにします。しかし、必ず選ぶ必要は出てきます」


 だが、目の前の彼女は、ついこの間まで、普通の高校生をしていたのだ。

 なにより、護衛艦で襲われた時、誰よりも早く、悲鳴の上がる隣の護衛艦に向かった。


「隊長。我々は、任を共にする者です。命も大義も、貴方に預けています。その覚悟を持って、この部隊へ配属されました。

 貴方の選ぶ大義こそ、我々が命を懸ける大義です。ですから、隊長が選んでください」


 少し考えさせてほしい。

 そんなことはきっと許されないのだろう。


 いつもなら、助け舟を出してくれる楠葉たちまで、じっと加賀谷の回答を待っている。

 この場で、加賀谷自身が、決めなければいけない。


 これでも、きっと待ってくれた方だ。

 決められない私のために。

 本来なら、こんな単純なこと、大隊が結成された時に決めなければいけない。

 それどころか、こんな質問をしてくることだって、本来ありえないのだろう。


「…………」


 自分なら、デドリィに人が襲われている状態に出会ったら、どうするか。


 想像すれば簡単だ。

 私なら、デドリィを倒す。

 例え、親友が苦しんでいる状態でも。


 だって、声をかけることはできても、救う術を知らない。

 だから、せめて、倒す術を知っているデドリィを倒す。

 その結果、その親友が救われると信じて。


 私を見つめる四人の顔を見上げる。

 私の足りないところを補うと集められた四人。

 だから、答えは、決まった。


「人を助けてください」


 この人たちには、それができる。



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