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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第三作戦 炎と氷

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 遊撃部隊の出撃命令は多く、加賀谷とガリーナの部隊が、すれ違うことも度々あった。


「向こうの魔導士は、まだ揃ってないみたいだな」

「いや、揃ってるだろ。日本人ってのは、小さいからな!」


 空母の上で、ロシア人がわざと聞こえるように笑う様子に、静かに一ノ宮が視線をやるが、ゆっくりと目を伏せると、海上へ目をやった。


「おいおい。女の子がいなくなってるじゃねーか。日本の大切なカミカゼなんだろ?」

「日本は、物を落としても、戻ってくるから、海に落としたら戻ってこないってことも知らね――ぐっ」

「いい加減にしなさい」


 笑う軍人の腹を殴ったガリーナは、苛ついた様子で、待機している坪田たちに一瞬だけ視線を送り、船内に戻っていった。


「おいおい……いつも、喧嘩売ってるのは、レージャの方だろ」

「女の子だなぁ……」


 すれ違うたびに、加賀谷に嫌味を言うのは、ガリーナだというのに、今日に限って何も言わないガリーナに、隊員たちは不思議そうに見送る。


「みなさん、焼き殺されたくなければ、あまり品位を損なう発言をしないように」

「へいへい。了解だ」


 ガリーナの副官であるオニの注意に、隊員たちは、反省した様子もなく返事を返した。


「なんなの、アイツら。契約魔導士の役割も知らないわけ? 頭でも茹だってるの?」


 用意された船室で、ガリーナは荒々しく椅子に腰かけると、後ろについてきたオニへ、苛立ちを隠す様子もなく怒鳴る。


「そんなんだから、年々うちの戦力は落ちてるのよ。前の奴だって、碌に大きな戦いでもなかったのに……」


 ロシアの契約魔導士の排出人数は、アメリカに次いで2位であり、契約魔導士のいない空白期間が少ない国として、有名だ。


 だが、それでも、ここ数年間の戦績は、下がっていた。

 単純に、デドリィの活動が減少していたことが大きな要因ではあるが、放棄された水上フロートの問題も大きかった。


「ですが、日本は、契約魔導士がいるにも関わらず、ここ、8年の戦績は振るっていないようですから、わざわざ、ちょっかいをかける必要はないかと」

「ちょっかいって……! 私は別に――」

「傍から見れば、随分とご執心のように見えますよ。もし、個人的な感情でなければ、もう少し控えるべきかと」

「ッ……わかった。少し気を付けるわ」


 なにか言いかけたガリーナは、少し眉を震わせると、頬杖をつき、顔を逸らして、助言を受け入れるのだった。


 その頃、加賀谷は、海面に近い海上に、第一中隊と共にいた。

 そこで、険しい表情で、海中に凍結術式を展開していた。


「デドリィ活動値低下傾向。現在、約90%が活動を停止しています」

「水温 -1℃。軽度凍結みられるが、規定以下。問題なし」

「作戦継続」


 それぞれの属性の精霊と契約した魔導士に与えられる、特殊な任務。

 氷の契約魔導士は、海中にいるデドリィを刺激せず、倒すことが、その任務にあたる。


 方法は単純で、海水を冷やすことで、デドリィの核温度を低下、活動を停止させる。

 海中で、待機しているデドリィを排除し、予備兵力を削る方法で、今後の作戦や奇襲の危険度に直結する。


「全デドリィの活動停止を確認」

「水温 -1.2度。凍結規定以下。問題なし」

「作戦終了。隊長。お疲れ様です」

「よかった……うまくいった……」


 安心したように、ようやく息を吐き出した加賀谷に、久保も含めた、第一中隊全員が、安心したように表情を綻ばせた。


「まさか、海水温を魔術で測ることになると思いませんでしたよ」

「私も、楠葉さんから言われた時は、びっくりしました……でも、おかげで、初めてうまくいきました」


 この作戦そのものは、加賀谷も数回したことがある。


 どれも、今回ほど、うまくいかなかった。大きな氷塊ができたり、デドリィを刺激してしまったりと、結果的に事態を収めることはできたが、成功かと言われると少し怪しい部分がある。


 それを気にして、楠葉に教えられたのは、複数人での術式を展開する方法だ。

 デドリィの活動状況を確認する隊員、海水の氷結状況を確認する隊員と共に、目視できない海中を魔術的に確認しながら、行う方法。

 これなら、魔力を込めすぎて、海が凍結することも、デドリィを刺激したり、逆に倒せていないことも無くなる。


「正直、デドリィを刺激しちゃったら、倒せばいいんですけど……氷塊が浮いてくる方は、本当に大変らしくて……」

「まぁ、航路に影響出るでしょうし」


 作戦海域の近くではあるが、軍艦が待機している海域からは、離れていると思ってはいたが、過去の加賀谷のやらかしのせいかと、久保も言葉なく納得した。


 デドリィの奇襲には、軍艦も対策を行っているが、海中から浮き上がってくる氷塊に、対策は行っていない。

 この場所と、軍艦の距離については、それらへの対策かと、久保は、今回の結果を踏まえ、少しだけ満足気に口端を上げた。


「しかし、この調子でいけば、水上フロート近くでの作戦も任されるかもしれませんよ」


 そうすれば、遊撃隊以外にも、重要拠点防衛の要となれる可能性もある。

 幸い、現在、氷の精霊と契約しているのは、加賀谷だけだ。競合はいない。


「そうすれば、あのロシアの連中も、少しは静かになりますね」

「久保さん、結構気にしてます……?」

「そりゃもう。坪田大尉から聞いてましたが、隊長の胆力に感心するばかりです」


 ちくりと笑顔で放たれる嫌味に、加賀谷は小さく呻くことしかできなかった。

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