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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第三作戦 炎と氷

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 気まずい空気の中、坪田たちとの集合場所である飲み屋に向かえば、小さい店のせいか、貸し切り状態になっていた。


「お、戻ってきたな。ここは騒がしいから、報告は向こうで聞く」


 加賀谷たちが来たことに気がついた楠葉が立ち上がれば、後ろについてきた加賀谷に、楠葉は笑みを作ると、加賀谷をくるりと振り返させる。

 そして、そのまま、店の中に戻された。


「お前がいたら、聞ける報告も聞けないだろ」

「あ、はい……」

「クリームソーダでも飲んで待ってろ」


 そう背中を押され、店に戻された加賀谷は、盛り上がっている我妻や坪田たちに目を向け、カウンターでその様子を見ている久保へ目を向けると、カウンターへ歩いていき、久保からひとつ席を開けて座った。

 飲み屋に来たことはなく、何を頼めばいいかもわからない加賀谷の手元に置かれる、青いソーダの上にアイスが乗ったクリームソーダ。


「えっ!? まだ注文して……」

「あちらのお客様からです」


 店員が指したのは、久保だ。


「いやぁ……一度、やってみたかったんですよ。なかなか、いいものですね」


 隣に座り直した久保が、静かに笑う様子に、加賀谷も小さく笑ってしまう。


「楽しめましたか?」

「少し、色々ありましたけど、楽しかったです。みなさんも……盛り上がってますね。ものすごく」


 アルコールが入っていることもあるが、いつも以上に騒がしい。


「これは坪田大尉の奢りですかぁ?」

「よっ!! 大尉殿! 太っ腹!!」

「お前ら、散々飲んだ後に……」


 何かのゲームで負けたらしい坪田が、いい酒を奢るという話になっているらしい。


「……あ、もしかして、私も奢った方がいいですか?」


 金自体は、かつての戦いで稼いだ分がある。

 この店での料金程度であれば、問題なく支払えるくらいの貯蓄はある。


 それに、今回は、隊員たちの休暇目的だ。

 少しくらい、隊長として、酒代などを支払う方が、隊長らしいのかもしれない。


 そう思い、久保に聞けば、久保は悩むように、飲みかけのハイボールをもう一度口にすると、頷いた。


「喜べ! 隊長殿が奢ってくれるそうだ! 節度を持って羽目を外せ! 懐の大きな隊長へ、乾杯!」

「乾杯!!!!」


 久保の言葉に素早く反応した彼らは、すぐさま各々のグラスを加賀谷へ掲げた。


***** 


「――見事に潰れてますね」


 隊舎へ戻ってくるなり、自室に帰ることなく、倒れ込む隊員たち。


「素面の連中。酔い潰れた奴ら、部屋に放り込んで来い」


 第四中隊は、久保の言葉に、嫌そうな表情をしたが、諦めたように、倒れた隊員たちを背負うと、部屋に連れていくのだった。


「これ、明日、大丈夫ですかね……?」

「三分の一ダメでしたら、午前は、寒中水泳の訓練にしましょう。腕が鳴りますね」

「…………」


 勤めて、表情を出さないようにする加賀谷に、久保は小さく笑うと、執務室に向かう。

 不在時の報告を、日野がまとめているはずだ。


「隊長は、先に休んでてもらって構いませんよ」

「いえ、私はお酒飲んでないので」

「これは手厳しい」

「え、あ、いや、久保さんが飲んだのを責めたわけではなくて……!」

「わかっています。というより、それくらいの嫌味は言い慣れてください」


 アルコールを摂取した状態で、報告を聞きに行くなど、本来ならありえないのだから、嫌味は言われても仕方ない。

 だというのに、困ったように視線を泳がせている加賀谷に、久保は話題を変えることにした。


「そういえば、第四中隊の桐ケ谷なんですが、契約魔導士の候補だったらしいですよ」

「あぁ……みたいですね」


 少しは、第四中隊の隊員たちとも交流はできたらしい。

 加賀谷とは、年齢が近い隊員も多いし、自分たちとは違った友好関係を築けるかもしれない。


 だからこそ、確認しておく必要があることもある。


「…………契約魔導士候補の件は、機密事項に当たりませんか?」

「え、あ、あぁ……なるほど、えっと…………桐ケ谷さんって何歳でしたっけ……?」

「19、隊長のひとつ上です。8歳の時に、候補から外れたと」

「でしたら、作戦にも参加してないので、問題ないですよ」


 明らかに、本来の規定よりも幼い時に、精霊を契約をしている加賀谷に、想像していないわけではなかった。

 だが、今の加賀谷の言葉で、確信した。

 契約魔導士候補となれば、幼い内から、戦場に出されいる。


「…………隊長。それじゃあ、日本が国際条約を無視してるのが、バレますよ」

「久保さんも、そういうことを気にして、聞いてくれたんじゃないですか」

「まぁ、そうなんですが」


 確実に、今の言葉は、機密事項だ。

 だからこそ、久保も遠回しに聞いた。随分と、直球な答えが返ってきてしまったが。


「ま、実際、桐ケ谷のやつ、初恋の相手以外、覚えてないんですがね」

「初恋、ですか」

「”リサ”だそうですよ」


 軽口のつもりだった。

 それが、その名前を出した途端、驚いたように目を見開く加賀谷に、久保もつい、足を止めてしまう。


「……そう、ですか」


 何かを思い出すように、目を伏せ、微笑んだ加賀谷に、久保は何も言えなかった。

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