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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第二作戦 大隊結成
12/20

12

 第四フロート 三十七魔導大隊駐屯予定地。


「結局、今日も来なかったな」


 石神が、ため息交じりにぼやく。


 石神の言う通り、三十七魔導大隊の隊長であり、契約魔導士の到着は、遅れ続けていた。

 だが、ついに明日の朝、顔合わせになると聞き、第四中隊である自分たちの緊張は高まっていた。


「エース・オブ・エースの部隊なんだ。もう少し胸を張ったらどうだ」


 数日間の緊張疲れを見せるふたりに、一ノ宮が呆れるように叱咤する。


「お前こそ、緊張とかないわけ?」

「あるに決まってるだろ。だが、契約魔導士様と共に空を駆けるんだ。背筋を丸めるわけにはいかないだろ」

「そういうもん?」


 一介の魔導士で、デドリィとの戦闘すらほとんどしたことない新人が、契約魔導士の部隊へ配属になると聞いた時には、耳を疑った。

 これまで、辛い訓練も積んできたが、あの契約魔導士の部隊だ。

 誰よりも勇敢で、強い、魔導士の中の魔導士の部隊。

 そこに配属されるためならば、その程度の訓練、辛くない。


「あ、れ……?」

「ぁ」


 ふと目が合った軍服を着た、同い年くらいの少女。

 見覚えはなく、この部隊の人間ではない。しかし、その容姿からして、日本の部隊の人間だ。


「す、すみません! 執務室ってどこでしょうか……!?」


 その必死な表情に、ついその方向を指せば、少女は頭を下げて行ってしまった。


 少女が去った後、三人は目を合わせる。

 現在、ほとんど使われていない執務室に、夜に慌てて向かう、新人らしきの慣れていない様子の軍人。


「伝令か?」

「こんな時間に?」

「変な奴じゃ、ないよな……? 追った方がいいか……?」


 つい、執務室の場所を教えてしまったが、追いかけようかと確認するが、首を横に振られた。


「執務室なら中隊長もいるだろうし、大丈夫だろ」


 むしろ、石神の予想通り伝令なら、ここで最も上の人間がいるのは執務室だ。ちょうどいいだろう。


「お前ら、何してるんだ」

「中隊長!!」


 現れた上官に慌てて姿勢を正し、先程の少女のことを伝えれば、少しだけ驚いたように目を開く。


「そうか。わかった。お前らは、早く休むように」

「はい!」


 足早に執務室に向かう上官に、三人は首を傾げたが、自室に向かうのだった。



「ご、ごめんなさい!!」


 ドアを開けるなり、謝る加賀谷に、中で待っていた四人は、困ったように笑う。


「大丈夫ですよ。まだ来てませんから。ついていった方がよかったですね。ごめんなさい」

「迷子ですか?」

「そういう時は、右手を壁につけながら歩くんですよ」

「それはしらみつぶしの時の方法だ。歩幅と時間でおおよそ距離が測れますから、歩く時と走る時で、自分の歩幅を覚えておくと便利ですよ」

「な、なるほど……でも、たまたま近くに人がいたので、助かりました……」


 きっと道を教えた彼らは、明日驚くことになることは想像に安かったが、中隊長たちは、何も言わなかった。


 緊急任務を終えて、すぐにでも休みたい加賀谷たちがここにいる理由はひとつ。

 この宿舎に、先に来ている第四中隊の隊長と、顔合わせのためだ。


「隊長とは、知り合いって聞いてますよ」

「そういえば……」


 知り合いだからと、夏目が先に魔導士育成担当も兼ねて、こちらに先に着任させていたといっていた。


 魔導士の知り合い。

 いまいち誰も浮かばないが、聞こえてきたノックに振り返る。


「よぉ! 悠里!」

「楠葉さん……?」


 昔と変わらず、目線を合わせるようにその高い背を折り曲げて、目を細めると、頭に手を乗せられる。


「来て早々、戦闘とはなァ。災難だったな」

「あの、ぇ、ぁぁ……」


 少し、乱暴に頭を撫でられる感覚も変わっていない。


「楠葉中尉」


 低い坪田の声が聞こえたと思えば、楠葉はすぐに手を放し、背筋を正すと、敬礼した。


「失礼いたしました! 自分は、特S級魔導士 楠葉輝洋中尉であります。加賀谷契約魔導士殿、お待ちしておりました。

 第三十七魔導大隊 第四中隊、いつでも出撃可能であります」


 急に切り替えられた態度に、言葉が出てこず、中途半端に開いた口から、言葉にならない妙な声だけが漏れ出してしまう。

 困惑したように、楠葉を見上げれば、休めの体制で見下ろされたまま、昔と変わらない、おどけた視線で合図される。

 

「あ、えっと……第四中隊の隊長って、楠葉さんだったんですね」

「はい。()()()の到着をお待ちしておりました」


 少しだけ、圧を感じる言葉に、加賀谷も何かに気が付いたように、背筋を伸ばした。


「第三十七魔導大隊、ただいま着任しました! こちらでの駐屯任務、ご苦労様でした!」


 『よくできました』と『ごめんなさーい!!』という、声なき会話が静かに交わされるのだった。


「さて、挨拶も終わったことだし、積もる話はあるが、今日は手短に報告だけさせてもらうな。詳細は、報告書を見てくれ」

「わかりました。先に坪田さんに、目を通してもらった方が良さそうですね」

「明日の朝までに目を通しておきます」


 手渡した報告書をそのまま、坪田に渡す様子に、楠葉はなんとなくその関係を察すると、坪田へ報告を続ける。


「実力については、大隊編成時の試験であれば、移動で、全員が振り落とされないレベルです。

 戦闘については、いまだ不安要素はあります。なにより、デドリィとの戦闘経験が少ない。これが一番の問題でしょう」

「確か、第四中隊は魔力量の多い、若い魔導士を中心に編成していたな。その方が、伸びしろがあると。

 ただのデドリィに、尻もちをついて、叫ぶような連中ではないな?」

「まさか。雑魚相手に悲鳴を上げるような奴らはいませんよ。それなら、自分の方が怖いと言われる程度には訓練しています」

「楠葉さん、どんな訓練したの……?」

「大丈夫です。隊長。教官と部下っていうのは、大抵そういう関係ですよ」


 楠葉の言葉に、加賀谷が心配そうに見上げるが、我妻がそっと肩に手をやった。


「悠里で言うと、アレだ。鳳凰院さん」

「!!」


 モホロビ級を目にしても、目を逸らすことも、震えもしなかった加賀谷が、名前を聞いただけで、肩を震わせ、目を逸らす相手。

 どんな人物なのか気になったが、結局、聞けず仕舞いだった。



「加賀谷さんの部屋は、こちらです。朝は伺いますので、部屋でお待ちください」


 それは、先程の迷子のことを気にした言葉だったのだろう。断るにも、前科があっては断りにくい。

 彼女、日野は、魔力こそないが、事務仕事の補佐官であり、同性の少ない部隊を気にして、夏目が気を利かせた配置だった。


「あの、確認なんですが」

「はい」

「先程の鳳凰院さんがいらっしゃったら、緊急時以外は、面会はなしにしましょうか?」

「え゛っ……そ、そんなことできるんですか!?」

「え、えぇ。まぁ、要件を私が聞けばいいですから。理由は、適当に作りますが、加賀谷さんが手を離せない時に、戦闘以外の業務をこなす為に私がいるんですから、頼ってください」


 そんなわがままもできるのかと驚きつつも、断っておく。なにより、多分来ることはない。


「そうなんですか?」

「だって、マナーの先生ですよ?」


 困ったように笑う加賀谷に、日野もしばらく固まった後、笑った。

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