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氷の契約魔導士、戦線復帰す  作者: 廿楽 亜久
第一作戦 千葉防衛
1/20

01

 ようやく人が立て直してきた町を、我が物顔で塗り替える連中。

 人や物だけではなく、文字通り大地そのものを塗り替える”デドリィ”。俺たち魔導士は、そんな奴らから、人々を、地球を守るため、命を賭ける。

 恐怖がない、わけではない。

 だが、力があることは事実だ。なら、武器をとって戦うことは、我々の義務だろう。

 自分の前に立つ、魔導士の中で最上位である”契約魔導士”である彼女は、その筆頭だ。


『フリード06。目標の撃破。周囲に敵影及び魔力反応なし』


 通信が入る。どうやら、デドリィの殲滅は終わったらしい。


『フリード02。敵殲滅を確認。作戦を終了する』


 その通信に安心したように息をつく様子の彼女。


「待機お疲れ様です。隊長」


 我らが隊長である契約魔導士の加賀谷悠里(かがやきゆうり)は、まだ5度しか顔を合わせていないが、その手に持った銃を撃ったことは、一度もない。


「あ、はい。お疲れさまです」


 わざわざ頭を下げて挨拶する彼女に、心の中だけでため息をついた。

 契約魔導士といえば、勇敢で聡明。全ての魔導士の模範であり、憧れ。多少、装飾はされているだろうが、少なくとも、我は強い。

 強くなければ、精霊との契約時に行われる試練に合格できず、命を落とすからだ。

 なら、どうしてこんな人の顔色窺うような彼女が契約魔導士になれたのか。なにより、8年もの間、なぜ前線を離れたのか。


「あの……」


 江戸川川沿いに作られた駐屯所、執務室に戻ってきた彼女は、少しだけ首を傾けて声をかけてきた。


「今から東京に戻ります。明日、一日よろしくお願いします。明後日には戻ってきます」

「了解です。存分にご友人方との交流を楽しんできてください」


 少しだけ皮肉を込めれば、彼女は困ったように眉を下げ、礼を言って部屋を出ていった。

 彼女は軍人だが、今は週に一度だけ都市に戻って、高校に通っている。前線を離れた理由だ。

 一度は終結したとはいえ、学校に通うため、軍人をやめる。他ならまだしも、軍であれば相当なわがままが利く契約魔導士(エリートさま)が通う理由は、正直理解はできない。


「さてと……報告書、まとめないとな」


 理解できないことを考えたところで、答えは出ない。今は、目の前に積みあがった書類を片付ける方が先決だ。

 この部隊の指揮系統は、彼女のおかげで、少しばかり複雑になっている。

 まず、彼女不在時における作戦における指揮権。これは、第二中隊隊長である坪田大尉が担っている。これに関しては、部隊の指揮をしたことがないという彼女に代わり、彼女がいる時も変わらず坪田大尉が取っている。

 当時、10歳だった少女が部隊指揮をしていたのかは、俺が知るところではないが、していないだろう。というか、ムリだろう。

 この部隊を編成した夏目准将も、それを理解して、指揮可能な隊員を見繕ったのだろう。

 そして、自分こと久保中尉の役割は、隊長の補佐。事務処理および隊長代理を勤める、要は副官のようなポジションだ。

 坪田大尉同様、軍事的処理などを把握しきれていない彼女の代わり。


「ん?」


 ふと、積み上げられた書類を片付けていると見えた申請書。


「隊長の警護(エスコート)の終わったと思えば、ハンコ係か。大変だな」

「そう思うなら交代してくださいよ」


 各部隊の報告をまとめた坪田大尉が、報告書を片手にやってくる。


「残念だが、命令でな。ところで、どうした?」


 しばらく、俺が同じ書類を手にとっていたからか、坪田大尉も不思議そうにその内容に目を向ける。

 出動要請でもなければ、調査報告でもない。そこに書いてあったのは、


「携帯用飛行装置の耐久試験への協力要請……?」


 坪田大尉の言ったとおりのことだ。

 通常、魔導士が履いている靴は、魔導士専用対航空戦用ブーツと言われ、靴底から魔力を放出することで空中戦が可能となっている。

 だが、重い。すごく重い。

 飛んでいる最中は、重さをほとんど感じないが、飛んでいないと中世の甲冑を身に付けているような気分になる。

 だが、空を飛ばず移動することもあるのが軍。魔導士の挫折ポイントとして名高い。

 それを、今回、軽量化し、通常の靴に適宜装着できる物を開発したそうだ。


「隊長だけにか」

「えぇ。契約魔導士の魔力に耐え切れれば、運用可能ということでしょう」


 それだけ段違いの魔力量ということなのだが。


「訓練ついでにテストをしてもらえばいい」

「ですね」


 前線から8年も離れていた彼女を、契約魔導士だからと、前線で鍛えられた精鋭を揃えたこの部隊で、敬うわけではない。

 力だけではない。経験に技術、なにより精神が、この部隊に合っていない。



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