2.黒騎士培養器から生まれる
―勇者が魔王に敗北してから三年が経過した。
三年の間にも魔王を倒すべく様々な者たちが魔王城へと乗り込んできた。
しかし誰一人として魔王を倒すことも出来ずその命を散らしていった。
そして魔王自身面倒というよりうっとうしいと感じ始めている。
そんな時だった知らせが届いたのは
「魔王様、ご報告があります」
「報告?」
「はい、三年前から進めておりました黒の騎士の目覚めが近づいています」
「ほう、あれがようやく目覚めるか、このタイミングで」
と魔王はそう言って口元に笑みを浮かべた。
「準備をせよ、今から私自らが出向くとしよう」
「なんと、魔王様自ら黒い騎士の目覚めをご拝見に?」
「ああ、あれをそういう存在にしたのは私だからな」
というと魔王は玉座からゆっくりと立ち上がった。
魔王城の地下の奥深くの部屋そこにあるのは様々な物が乱雑に置かれていて
初めて来た者は物置とそう感じるほどにこの場所には物が置かれすぎている。
しかしその物の中心に一際異様な物があった。
それはガラスでできた筒の中で紫色の液体に包まれ浮かぶ
一糸まとわぬ姿の少女だった。
その少女の髪は黒く整った顔立ちだった。
そして少女の体のいたるところには一本のチューブが繋がっており少女に
何かを送り込んでいるようだった。
そんな異様な物のある空間の入口を開いて魔王が入ってきた。
魔王は部屋の中心にある筒を眺める。
「いかがでしょうか、投入したあらゆる魔族の細胞、更には前任の死体から回収し
作成した技術移行薬を投入しましたので完璧な仕上がりとなっております」
「ふむ、なるほどなそれで?コレは私の娘を守れるか?」
「問題はありません、しいて言うならば本人がその気になれば魔王様と
少しはやりあえるぐらいの力量はあります」
「そうか、では今すぐこれを出せ」
「い、今すぐですか?」
「ああ、そうだ」
と魔王が言うと配下は手元の紙に視線を移した後にすぐさま魔王へと視線を戻す。
少しだけ魔王の顔を見るとすぐさまあきらめたように息をはき
培養器の横にある機械を操作した。
するとすぐさま培養器が傾き中から先ほどまで入っていた液体と共に
少女が流れ出てきた。
「随分と荒っぽい出し方だな大丈夫なのか?」
「問題ありませんこの程度で傷つく半端な調整はしておりません」
「そうか、ならいいさっさとそれを前任者の部屋へと運ばせておけ」
「いや、しかし」
「なんだ?」
「この格好のままは問題があるかと・・・」
と言う配下の言葉に魔王は配下の言わんとしていることを理解した。
そして少しだけ考えた後に
「ならこの床を掃除してそれには毛布をかぶせておけ」
「分かりました。」
「だがその前にメイド長を呼んで来いこれ用の服を見繕ってもらうからな」
「了解しました、すぐに呼んでまいります」
と言うなり配下の魔族は部屋を飛び出した。
残された魔王は床の液体の上に倒れた少女に視線を移す。
「全く、世話の焼ける騎士だな」
と言うと近くに畳まれていた毛布を少女に羽織らせた。
そしてそれと同タイミングでメイド服を身にまとった女性が入ってきた。
「魔王様、お呼びでしょうか?」
「いいタイミングだなメイド長これに適当な服を選び前任者の
部屋へと運んでおいてくれ」
「了解しました」
「ついでに、全メイド隊に前任者の部屋を徹底掃除そちらでいらないと判断した物
は廃棄せよ、ただし武器や防具、家具は残しておくように」
「了解しました」
というとメイド長は毛布にくるまったままの少女を運び出すのだった。
それを見送りながら魔王は
「あれが本当に我が娘を守る騎士だったらいいけれど」
と独り言をつぶやいた。




