12.黒騎士、妹と出会う
武器を構え身構えた三人組の行動を見て黒騎士は微かに溜息を吐く。
「退くつもりはないようですね」
とそうリズが呟くと隣に立つナミネは仮面の下で笑みを浮かべると
両手に真っ黒なダガーを出現させて構えると
「先輩、自分は後ろの二人を出来るだけここから引き離しますので
先輩はあのリーダーらしき子を」
「分かりました、黒猫」
「なんですか?」
「無理はしないように」
というリズの言葉にナミネは頷くと即座に魔法を発動させ
小柄なローブの人物の前に立つ二人のローブを巻き込み橋の上から姿を消した。
小柄なローブの人物はそれに驚いたようですぐに辺りを見渡し始める。
そしてすぐにリズへと視線を向けると
「二人を何処に転送したんですか?」
とそう問いかけた。
当然敵である人物にそんなことを教える義理がリズに
ある筈もないのでその返答はサジタリウスから放たれる事となる。
ローブの人物は咄嗟にそれを剣で弾くが何発かはローブを切り裂き
その下を月明かりの元に照らし出した。
ローブの下から現れたのはエメラルドの瞳に金色の髪の少女の
綺麗な顔だった。
「おや、随分と可愛らしい顔ですね?」
「な、馬鹿にしないで!!」
と言いながら少女はそのまま踏み込み剣を振るうがリズはそれを避けると
無防備な少女の背中に魔法を叩き込んだ。
少女はそのまま数メートルほど転がるとすぐに剣を拾ってリズへと構えるが
その動きは鈍く、今にも倒れそうになっていた。
「どうやら、限界みたいですね?ではさようなら」
とそう言ってリズがサジタリウスから矢を放とうとすると
唐突に頭の中に声が響いた。
『待て、黒騎士』
「・・・魔王様?」
『その娘、我が元へと連れてくるがいい』
「良いのですか?」
『構わん、面白そうだしな』
「・・・分かりました」
と返事をすると黒騎士は少女へと向き直ると
サジタリウスを魔力に変換する。
「・・・なんのつもり?」
「さあ、私はただ命令に従うだけですので、魔王様がお会いになります」
とだけ言うとリズは静かに場内へと戻る。
少女は警戒しながらも剣をいつでも抜けるように
しながらリズの後ろを歩き始める。
魔王城ー玉座の間ー
「魔王様、言われた通りにお連れしました」
「ご苦労、だがまだ部屋には戻らないで置いてくれるか?」
「分かりました」
というと黒騎士は少女より少し離れた所に立った。
魔王はそれを確認するとすぐに少女へと視線を向ける。
「さて、こんな夜分遅くに我が城に人間の娘三人が一体何の用だ?」
「そ、その前に二人は何処ですか?」
「黒騎士」
『黒猫、今すぐそちらの二人を連れ玉座の前へ』
とリズがナミネに魔法具を介して言うと
すぐに満身創痍の少女二人と共に無傷のナミネがその場に姿を現す。
「さて、では改めて問おう。
こんな夜遅くに私の城に侵入しようとしたのはなぜだ?」
「三年前、貴方に挑んで帰ってこなかった私の姉を探すために」
「三年前?・・・・・あぁそう言えば一人いたな自分だけが残り
他の仲間を逃した哀れな愚か物の勇者が」
「その人はどうしたの?」
と少女は問いかける、それが少しでも自分の求める決滅であることを願って
しかしその願いは魔王の言葉によって砕かれる事となった。
「ああ、あれなら殺したよ」
「え・・・・・」
「勇者など生きていても私の邪魔になるだけだからな、ならば生かし置く理由はあるまい?」
「嘘よ」
「なぜ嘘をつく必要がある?」
「そんなの嘘よ!あの人が死ぬはず・・」
「黙れ小娘」
「ッ!」
魔王の言葉にビクッと少女は体を震わせる。
それを見つめる魔王の目は冷たく寒気を感じさせる。
「勇者は死んだ」
「死んでない」
「何故そう言える?実際に生きているのを見たわけでもあるまい?」
という魔王の言葉に少女は涙目で剣を抜き去ると一気に魔王の元へと
踏み込み剣を振るう。
しかしその一撃は魔王には届かず代わりに魔王を守るために
立ちふさがった黒騎士の兜を吹き飛ばしただけだった。
しかし、続けて踏み込もうとした少女の動きがそこで止まる。
「おや、バレてしまったかつまらんの」
「な、なんで」
という少女の言葉に黒騎士は首を傾げる。
少女の言葉の意味を理解しかねているからだ。
その様子を楽しそうに笑みを浮かべて魔王は見下ろしていた。
「お姉、ちゃん?」
「私は貴方の姉ではなく魔王様を守るため作られた騎士です」
「おや、どうした?私を殺すのではないのか?」
と魔王が言うと少女は剣をその場に落とすと
魔法を唱え気絶した二人と一緒にその場から姿を消した。
「転移呪文か」
「逃がしません」
と言ってリズがすぐに転移魔法を使おうとすると
それは魔王によって止められた。
「放っておけ」
「・・・しかし」
「あの状態ならばしばらくは来るはずない、とりあえず今日は
部屋に戻り休め」
「分かりました」
「じゃあ自分も部屋に戻ります」
とリズとナミネはそのまま自分の部屋へと戻るとすぐに
眠りについた。