1.勇者は敗北し闇落ちする
魔族国家、それは人間や様々な種族の住む大陸マリアベルクから船で5日かかる
場所にある魔族たちの住む大陸にその魔王はいた。
その魔王を討伐するべく各種族から代表が選ばれ
勇者率いるパーティーは瞬く間に魔王の城へと到達するが
迎えた結果は魔王による圧倒的力の蹂躙による敗北だ。
それでもなお勇者である少女ユリア・ベルファストは仲間を逃がし
自分だけが残り戦う選択をし
それに対して魔王はユリアにに一つの種を植え付けた。
それは善良なる心を食らいつくし真っ暗で完全なる闇に染め上げ
使用者の思うがままに出来るという魔性の物。
侵食が進んでいくユリアを椅子に座って魔王は余裕な表情で
それを見下ろしていた。
「ほう、流石は勇者といった所か魔性の種を植え付けられ
すぐに落ちないとはな」
「ここで全滅・・するより・・・は・・・マシだから」
「そうか、私の強さを見てまだ挑めると思うのか」
「きっと・・・皆は・・ここに戻って・・・」
「だが敢えて言おう脆弱であると」
「まず一つ目の理由としては、圧倒的力量を前にもう一度立ち上がろうなんて
考えるのは愚か者だけだ、実際あの者たちはお前と言う存在を失った」
「それが?」
「分からないのか?勇者が居なくなればあちらの大陸の者たちが私たちに
ちょっかいを掛けてくることはほぼなくなった様な物だ」
「そんな・・こ・・と・・」
そこから先の言葉が勇者である彼女の口から出ることは無い
その時点で勇者の心から体全てに至るまでが真っ黒に染め上げられ
それを見た魔王は笑みを浮かべてこうつぶやいた。
「さようなら、勇者。お前には我が娘を守る存在となってもらう
それまではしばし眠りそして力をため込むがいい」
そしてこの日この世界から勇者は消え代わりに
魔王の元で新たな騎士が生まれることとなった。
床に倒れ伏した勇者を見て魔王は息をはく。
「これで、あの子の安全が確保されるといいのだけどね」
「あの子って?」
という声に魔王が視線を向けるとそこには真っ黒なドレスに身を包んだ
銀髪に赤い瞳の少女が立っていた。
魔王はその少女を見るなり口元に笑みを浮かべポンポンと自分の膝の上を叩く。
少女の方はそれだけで魔王の意図を察して勢いよくその膝の上に飛び乗った。
「そこに倒れている人は誰?」
「ん、あぁそれはお前の安全を守り仕えるお前だけの騎士だ」
「へぇ、そうなんだ」
と言う少女は闇に染まった状態の勇者に多少の興味を抱いているようだった。
そんな少女の頭を撫でながら魔王はすぐさま配下を呼び出した。
「ご用件は?」
「そこに倒れている奴を我が娘を守るのにふさわしい存在にせよ」
「了解しました、ちなみに方法は?」
「今持てる手段をすべて使い尽力せよもし失敗などしたら、わかっているな?」
と魔王が言うと配下は体を震わせて
「分かっております、おい慎重に運べよ、傷を付けたら魔王様に殺されてしまう」
と他の魔族に呼びかけながら慎重に勇者を運んでいくのだった。
それを見ながら少女は魔王の顔を見上げ問いかけた。
「ねえ、お母さん。」
「なんだ?」
「わたしも大きくなったらお母さんみたいに立派で強い魔王になれるかな?」
「なぜそう思う?」
「だって私はお母さんと目の色が違うし」
「安心しろ、お前はなれるさ」
「本当?」
「ああ、なんたって立派な黒い騎士がお前を守るから」
といい魔王は優しく娘の銀色の髪を撫でた。