怖さの森
「本当に?!」
レインはびっくり仰天な声を上げました。
「もう、アオイが行きたいって言ってるんだから行こうよ」
「このニンゲン、興味あります・・シュル」
「だから、アオイだって!キュウ、さっき『アオイちゃん』って言ってたじゃないもう!」
レインが少し怒り気味で、二メートルほど離れて目の前に立っているキュウに顔を向けました。
「そうだっけ?」
「ああ~、あの?とりあえず前に進も?ね?」
クリが前に誘導させました。
森の入口にはちゃんと「入口」という看板が立っていました。
森には、レイン・クリ・キュウ・アオイの順に入っていきました。
(なんだか、この森、嫌な感じ・・・)
空は、黒に近い紫が広がっていて、森の林は、そんな空をさえぎるように上に上に広がっています。
そして、その森に入った瞬間に黒い霧が漂っている気がしてアオイは怖くなりました。
(見るからに、怖い・・・・)
「ここからはあんまり、ケンカとか、怖い話とかしないようにね」
クリがそう呼びかけました。
(なんでこんな森に怖い話をしちゃいけないんだろう・・・?)
「やっぱりここはいつ来ても怖いわ、住み家はここにあるっていうのに・・・」
「だね、さすが『怖さの森』だよね」
(なんでレインとキュウはこんな森に普通にできるの・・・?)
なんだかこの森の誰かに目をつけられているような視線が感じられます。
手探り手探りで前に進んでいきました。
「怖い」
アオイはただその言葉を言っただけなのに、言う前よりも怖くなった気がしました。
赤い視線が増え、黒い霧がもっと黒くなり、上に伸びる木がまた大きくなって空をさえぎっているように感じられました。
(怖い・・・)
アオイ、たった一人だけがそう思っているように感じられました。
レイン、キュウは「怖い」と言いながらも怖くなさそうです。
本気で怖がっているのはアオイ一人だけ・・・・。
(独りぼっち・・・・)
アオイはその感触だけは嫌でした。
だから、ドングリ池に行きたいのです。
(でも行く前からこんな気持ちになるなら・・・意味がないかも・・・)
アオイはなんだか行きたくない気持ちになり、その場に座り込みました。
黒い霧のせいでレインとキュウ、クリの姿が見えません。
きっとみんなもアオイが座り込んだことに気が付いていないに違いありません。
(独りぼっちか・・・)
アオイはため息をつきました。
その時、急に赤い視線が近くなった気がしました。
(逃げる?)
アオイはそれなのにどうしても足が出ませんでした。
(なんでこんな時に逃げたくないの・・・?)
レインは「たくさんのニンゲンがドングリ池に行きたくて、でもたどり着けなかった」と言っていました。
(私もその一人になるのか・・・)
こんな時は正面から行くしかありません。
もうみんなとはぐれてしまったのですから。
(来る来る来る来る・・・!)
なぜかこの時ばかりは、近くにあった枝を見つけ、赤い近づいてくる視線に行くことができました。
いよいよそれは姿を現しました。
「うわあああああああああ」
「うわあああああああああ」
アオイはつい用意した枝を投げ捨て、意味がなくなってしまいました。
(えっ?)
アオイは自分だけでなく、向こうの視線も叫び声を上げていることに気が付きました。
(どういうこと?向こうも私のことを怖がってる?)
「あっ、いたいた!」
「ちょっと!」
「びっくりさせないで、シュル」
横から、アオイがいないのに気が付いたレイン、キュウ、クリが駆けつけてきました。
「ニンゲンだっ・・・・ニンゲンだああああ!!」
その視線の犯人、クマは後ろの木にシュッと姿を隠しました。
「ナイトっ!大丈夫だよ!ニンゲン、怖いものじゃないから」
「そうなの?」
クマ、ナイトの存在に気が付いたレインがナイトに言いました。
ナイトはレインの言葉を信じてひょっこり顔を出しました。
じっとアオイの姿を見つめます。
「あっ、紹介するね、あのクマがナイトって言うの」
アオイをなだめるような優しい高音でレインは言いました。
「ナイト、あのニンゲンはアオイって言うの」
「ど、どうも・・・」
少しずつ木から離れながらナイトは緊張したように手を振りました。
「離れないでほしい、シュル」
キュウがアオイに向き合い、そう言いました。
「そうよ、この森はね『怖さの森』って言うぐらい、怖いものをとって反対にこの森がもっと怖くなるようにパワーアップされちゃうから」
「そうなの?」
(確かに怖いって言っただけでもっと怖くなったのはそのせいなのか・・・)
「でもね、反対に楽しいこと、嬉しいこともとるから、楽しいことを考えればいいんだよ」
クリがレインの言葉に付け足しました。
「楽しいこと・・・」




