ヘビとアオイの決意
「へっへへへへへへ、ヘビ?!」
アオイは改めて言いました。
アオイはへびにかまれたことがあり、その後、ヘビのことが大っ嫌いになってしまったのです。
ヘビに会っただけなのに「はあはあはあはあはあはあはあ」と息が上がっています。
「大丈夫だよ、キュウはそんな悪いヘビじゃないから・・ね?」
レインはクリに同意を求めます。
「うん・・・色々なもの食べちゃうけど」
「クリっ!!」
クリの一言でまたアオイは「はあはあはあはあはあはあはあ」と息が上がってしまいました。
「さっきの言葉、いらないからっ!」
羽のある手でクリを指さします。
「あっ、あのお・・・」
レインだけがキュウの方を見ます。
「オラのこと、忘れてない・・?オラ、ニンゲンが、いわし嫌いみたいだったから食べようと思っただけなんだけど・・・」
「待って・・・いくらキュウでも魚は食べられるの?食べたところ、見たことないけど・・」
レインは心配そうに見る中、クリだけはキュウのことを信じてアオイに「いわしをキュウにあげて」と話しかけました。
「ヘビだよ?私をかむんじゃない?!」
(・・・でもこのピチピチのいわしは食べたくないな・・・)
アオイは手からいわしを取って、投げるようにほいっと、キュウにあげました。
キュウは何にもなかったように、いわしをバクバクと食べました。
いや、食べていたのはほんの数秒でその後はシュルっと飲み込みました。
「さすがっ!キュウ!いい食べっぷり!」
なぜだか、クリが一人だけ笑顔でパチパチと拍手をしました。
(なにがそんなにいいんだろう・・・?)
「で、そのニンゲンは誰?オラ、聞いてないけど」
「わっわわわわわわわわわたしの名前はっ」
「アオイだよ」
アオイが言う前にレインが言いました。
「へえ、珍しいね、ニンゲンがここ、めったに来るとこじゃないから」
キュウが緑色の頭をペコっと下げました。
「あ、そうだ。キュウ、アオイは虹から出てきたんだけど」
「あらま、それはすごい登場だねえ」
クリが相づちを打ちました。それでもレインはお構いなしにキュウに説明を続けます。
「もう少しで崖に落ちそうだったの、怪我がないか見てくれない?」
「い~よ」
キュウはシュルシュルシュルと音を立て、真っ赤な舌を出しながらアオイに近寄りました。
「立っててもらっていい?」
アオイはキュウの言葉に怖いながらも軽くうなずき、立ちました。
(本当は逃げたいけど・・・レインがきっとまた「ダメッ!」って言ってくるから我慢しなきゃ・・)
キュウはじっくりとアオイを上から下まで見ました。後ろも。
ふいにキュウはシュルと音を出しながら、真っ赤な舌をのばしました。
「う~ん、ちょっと右腕に軽く、左足にもすり傷が出来てるね、シュル」
「直してもらってもいい?」
「い~よ」
キュウはさらにアオイに近寄りました。
「最初、座っててもらえる?その後、立って。少し我慢してて」
アオイは顔が青くなりながらも、「うん」としょうがなくしゃがみこみました。
(わっ!キュウの舌がすぐそばにっ!)
キュウはアオイの右腕に近寄って少し間をあけた後、かぷっと腕にかぶりつきました。
「うわあああああああっ」
(何してるのっ!やっぱりクリが言ったことは嘘だったんだわああああっ!)
しかしアオイの叫び声はピタッと止まりました。
(い、痛くない・・・)
しかも、かぶりついたところから、クリのイチョウのような黄色よりも明るい黄色の光がヒュウーと、森全体に広がっていきました。
キュウが腕を離れると、まるで赤くなって皮がむけたのが嘘のように直っていました。
(なにこれ・・・!)
「アオイちゃん、立ってくれないかな」
アオイは慌ててキュウの言う通りに立ちました。
今度はキュウは左足のひざの下あたりに届くように、長い首(いや、体?)をのばし、かぷっとかぶりつきました。
今度も黄色の光がすり傷から森全体に広がっていきました。
(今度も痛くない・・・)
左足の傷も右腕のように嘘のように直っていました。
アオイは驚きでまたしゃがみこみました。
「・・・・すごい」
「オラの一つだけの特技だよ」
「いや、めっちゃ食べるのも・・・じゃない?」
クリはキュウの言葉を付け足しました。
★☆★☆
「それで何のためにここにやってきたの?アオイは」
レインがもう一度アオイに訊きました。
「それが分からないの」
アオイはしゃがむのが疲れてしまったので、森の入口に体育座りをしました。
ですから、なんだか、レイン・クリ・キュウに囲まれているような感じになってしまいました。
「わっ、分からないっ?」
「よっぽどのことがない限り、ニンゲン界とこの逆さの虹の森は開かないんだよ?」
「そうなの?」
(つまり、あのクラスの子が言っていたことはインチキだった・・・ってことかしら・・?)
「そう、でも逆さの虹と崖の間、なんとかしないと・・・またアオイみたいなことになっちゃうから」
クリが関係のないことを言いました。
もう、レインはクリに何か言うのを疲れてしまったようで、クリの言葉を無視したようです。
「じゃあ、いきなりピューって逆さの虹の森に飛ばされたの?」
「いいえ」
アオイは首を横にふりました。
「ドングリを投げれば願いが叶う、ドングリ池に行きたくて・・・・あの山の入口にある滝に手を入れたら
ここに・・・」
みんなはアオイの言葉を聞いて、それぞれの顔を見合わせました。
(な、何?なんでみんな困った顔をしているの・・・?)
間をあけた後、レインが他のキュウ、クリよりも前に進み出ました。
そして、羽のついた手を胸に当てました。
どうやら、これはレインの癖のようです。
「アオイ・・・ここ、逆さの虹の森にドングリ池があるよ」
(ドングリ池は存在してたんだ!やった)
嬉しそうな顔をするアオイにレインは「ただ・・・」と続けました。
(・・・ただ?)
「この逆さの虹の森にドングリ池に行くために、願いを叶えるためにって来るニンゲンがたくさんいたよ・・でも、たどり着けなかった」
「えっ?」
アオイは思わず立ち上がって、レインがアオイを見上げる形になりました。
「・・・オンボロ橋を渡るのが難しいの・・・それにこの森でそれを渡れるのはせいぜい、コマドリぐらい
それでもドングリ池に行きたいの・・?」
言っている途中から、レインはアオイにとって小さな小さな涙をぽろぽろと流しました。
(行きたい・・!冒険に行きたい!)
アオイは強くそう思いました。
きっと、他の人間から見ればとてつもなく小さな願いに思えますが、アオイはとても大きな、叶えたい願いだったのです。
「うん・・!行きたい!」