コマドリとキツネ
アオイは目をゆっくりと開けました。
しかし状況は大変なことになっていました。
「えっ、うわあああああああ」
(なんで私は空を飛んでいるの・・・?)
アオイは気が付くと、ブンブン回りながら飛んでいました。
地上なら心地よい風も嫌というほど、付いて回りました。
「♪ハッハハハ、ニンゲンさ ようこそ ニンゲン ここは逆さの森だ♪」
その時、とても心地の良い高音の歌声が聞こえてきました。
(逆さの森・・・?)
しかしアオイが飛んでいるのに変わりはありません。
(ぶつかる・・・!!)
気が付けば、崖のそばまできていて、このままいけば崖にぶつかるか、崖の下の穴に落ちるかです。
アオイはぎゅっと目をつむりました。
「♪あらまあ、なんてこった♪」
(・・・えっ!?)
急に脇、体を持ち上げられた気がして、アオイは目を開けました。
アオイは、鳥たちに持ち上げられ、崖ぎりぎりのところを危機一髪で崖の奥の森の入口に下りさせたのです。
「ありがと~」
目の前に下りてきたコマドリが、アオイの後ろに飛んでいるコマドリたちに感謝を言いました。
(しゃ、しゃべった?!)
アオイは驚きのあまり、引きすぎてまた崖の下に落ちそうになりました。
「もう、やめてよ、ニンゲン。せっかく助けたのに意味がなくなっちゃうよ」
(それもそうね・・・)
アオイは思い直して、引いただけまた前に進みました。
そしてアオイはしゃがみこみ、コマドリをじっくり見ました。
(まさか、しゃべるコマドリがいるなんて・・・)
コマドリは自分をじっと見られ、恥ずかしくなったようでした。
「そ、そんなにあたしが珍しいの?」
「い、いや・・・しゃべるコマドリがいるなんて・・・」
「・・・・・ニンゲンの名前は・・・?」
(そうだ、私名前言ってなかった・・・)
「私の名前はアオイ」
コマドリはアオイの名前を聞くと羽の手を胸に当てて、誇らしげに言いました。
「アオイ・・・あたしの名前はレイン」
「レイン・・ね。・・・さっき歌ってたのはレインなの?」
「うん」
「歌、上手だね」
アオイの言葉を聞くと、レインは黄色に黄緑の混ざった体を赤くしました。
レインは喜んだようです。
「ところで」
レインは切り出しました。
「アオイは何をしに来たの?」
(何しに来たの?・・・・ドングリ池に行きたいだけなんだけど・・・・)
アオイはどう答えたらいいのか分からなくなりました。
「ニンゲン?うわあ!ニンゲンだぁ!!」
その直後、なんだか分からない・・・黄色くてモフモフっとしたものが抱きついてきました。
アオイがしゃがみこんでいたところを、それが抱きついてきて、それがあまりにもきつすぎて、動けませんでした。
(今度は誰・・・?)
そのものが頭を上げました。
(キツネ・・・?)
明らかにキツネでした。少しとんがった耳と顔。どんな時でも目が垂れ下がって、笑顔に見える顔。
その顔はアオイが絵本で見た通りの姿でした。
(それにしても初めてでハグしてくるのかしら・・・?)
それに今はアオイの履いている黒いタイツを顔にこすりつけながら、「ニンゲン~いいね~これ~」と
言っています。
「もう、ダメでしょう?!」
レインがぴしゃりと言いました。
「いきなり抱きつくと、みんなびっくりするって言ったじゃない!」
「でもいいでしょう~?ニンゲンが来るのは久しぶりだも~ん。このくらい喜びたいよ~」
「名前言ってあげて。この子、ここのこと知らないから」
すると、急にキツネはアオイに離れました。
「ボクの名前はね、クリって言うの。・・・あ、そうだ、来てくれたお祝いに!」
キツネ、クリはゴソゴソと何かを探し、アオイに「手を出して」と付け加えました。
(お祝いって何だろう・・・)
「こ、こう??」
アオイはクリに手を出しました。
「ほれっ」
黄色い手でクリは、アオイの手にその何かを置きました。
アオイの手には、三つのくりと、ピチピチと動いている細長い魚が置かれました。
(なっ、なにこれ!)
「きゃあああああっ」
レインが森全体に聞こえるくらいの叫び声をあげました。
歌が上手いだけに声がとても大きいのです。
「ダメじゃない、生きてるいわしを置くのはっ!!」
「でもこのいわし、おいしいんだよ?」
「だからって生はよくないわよ・・・」
「オラが食べてやるかい?」
レインでもなくクリでもない誰かが、そう言いました。
少しずつシュルシュルシュル・・・という音が聞こえます。
(こ、今度は誰なの・・・?)
アオイは今度ばかりはその音を聞いて、怖くなりました。
「・・あら、キュウ?」
それなのにレインはその姿のキュウに平然と振舞っています。
「へ、ヘビっ?!」
アオイはヘビのことが大嫌いでしたから、「うわああああっ」と叫び声を上げながらまたまた崖に落ちそうになりました。
「あっ、またはダメよ」
レインが慌てて、アオイが落ちないようにつっつきます。