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魂が夢見る狭間

世界樹の苗木に転生しました ~なお、大人になるには百万年掛かるらしいです~

作者: A.Bell

§0 プロローグ

 私は双葉になってしまったようです。


 ……別に名前が双葉と言う訳では無く、“生前”には“佐木 あいか”と言う名前がありました。

 双葉と言うのは植物的な意味での双葉。


 ……周りの様子は淡い光に囲まれて、実際の所は良く分からないけど。

 まぁ神様ぽい方に貰った力によると、恐らく、合っています。


 ……はぁ。


 私はほんのりと暖かさを感じながら、その時の事を思い出します。


§1 状況説明

 気付けば、白黒の世界に居ました。


「……ココどこだろう?」


 目をキョロキョロとさせていると、後ろから声が聞こえてきます。


「ここは、“魂の夢見る狭間”の世界だ。……新たなる女神の卵よ。」


 ?

 後ろを振り向くと、白人の男の人が立っていました。

 ……どことなく、友達が好きだった数学者の方に似ている気がします。


 ところで“女神の卵”とは何の事?


 ……

 話を聞いてみると、


 私は魂の状態で、実体は無い。ただ、死んだ訳では無いらしい。

 厳密に言うと、切り捨てられた可能性の残滓が今の私。


 ……正直、良く分からない。

 そして、記憶が曖昧なのも、あらゆる可能性が重なる事で、運命が浮き彫りになった所為みたいです。

 運命とは、要するに、どんな場合でも起きる可能性が高い事。

 ……これは何となく分かる。


 そして、そんな私を見つけた自称神様。……友達が好きだった数学者の方に似ている男の人の事で、とある世界の神と自分で名乗っていました。

 そんな神様の世界で重要な役割を担っていた世界樹の代わりを私にして欲しいそうです。

 しかも、種から。

 ちなみに、拒否権は無いとの事。


 私は軽く自称神様を睨み付けます。


「……百歩譲って、世界樹になるのはいいんですけど、私みたいなただの人をそんな存在にして良いんですか?」

「君は我らの世界から見ればただの人では無い。」


 ?

 私が首を傾げると自称神様は軽く息を吐きます。


「我らの世界は貴女の世界に従属する世界だ。我らの主たる創造神も元は貴女の世界の人である。」


 ……へー。

 まぁ、関心する位しか反応出来ないけど。


 そんな私の様子を見ると、彼は軽く咳払いをします。


「……さて、理解出来ただろうか? 何もなければ早速、……」


 !

 えっ!! 貴方の世界の事、何も知らないんだけど!

 私は咄嗟に言葉を挟みます。


「ちょっと、私、殆ど何も理解してない!」


 すると、彼は深くため息を吐いて手を持ち上げます。


「……面倒だ。我が右目を貸そう。」


 そう言って彼が自分の右目に指を差し入れ、血と共に目玉を抉り出したのを目撃した私はショックのあまり気絶してしまいました。


§2 状況確認

 さて、その後。

 意識を取り戻した私は体の感覚が無くなり、淡い光に囲まれていたのです。


 ちなみに、体の感覚が無いのに何故、自分が双葉なのか分かったのかと言うと、


世界樹に至る可能性のある双葉


 非常に脆弱ながら、精霊を宿したトネリコの芽。

 女神の卵。相応の時を経れば、世界樹に至る。


 冥府の神より右目を貸し与えられている。


 みたいな事が書かれた本が、突然、目の前に現れたからです。

 訳が分からない。


 ……と思ったら、本の文字が書き換わります。


冥府の神の右目


 生きとし生ける魂を見定める神の目。

 貸し与えられた者の素質により顕現の仕方が異なる。


 要するに、あの血塗れの目玉の能力らしいですよ。この本は。


 ……はぁ。

 これからどうなるんでしょうか。

 体の感覚も無く目も見えない私は途方に暮れるしかありませんでした。


§3 一年後

 あの後、緩やかに寒さを感じるようになった私は眠気を感じ、次に起きた時には目が見える様になっていました。


 ……多分、季節が廻ったのかな。

 体感では1,2週間って所だけど。


 さて、周りの様子はと言うと、……まぁ、普通の森だと思います。

 私は少し開けた所に生えているようで、周りには私よりも背が高い木が何本も生えています。


 ……ふぅ。

 ついでに例の本も取り出してみます。

 私の目には、宙に浮いている様に見えますが、多分、実体は無いのだと思います。


 本がひとりでにパラパラとページが捲れていきます。


世界樹に至る可能性のある苗木


 非常に脆弱ながら、精霊を宿したトネリコの苗木。

 女神の卵。相応の時を経れば、世界樹に至る。


 冥府の神より右目を貸し与えられている。


 ……殆ど変化してない。

 内心ため息を吐きます。


 そんな私の枝の間を一陣の風が吹き抜けていきます。


 ……

 …………?

 風を感じた?

 ふと、意識を広げるとほんのりと体の輪郭を感じる事が出来ます。

 ……この感覚も久しぶり。


 少しうれしくなった私は体を風に任せ、ゆっくりと葉を動かしました。


§4 転機


世界樹の森


 かつての世界樹の成れの果て。

 古の太古に世界樹が倒れた後、広がった森。

 しかし今も尚、世界樹を慕う者達によって守られている。


 ……やっぱり同じ。

 私は首を傾げます。……首はないけど。


 目が見える様なって数日。一応、触覚はあるようですが、音とか聞こえません。

 暇になった私は、周りの木や草に対して目玉の力を使ってみたのですが、どうにも同じ説明しか出てきません。


 ……動物だとどうだろう?


 そんな事を考えたのが駄目だったのかも。

 ふと、大きな影が目に映ります。


 ……熊さん?

 それは、私の知る熊によく似た動物でした。


魔物


 我らが主たる創造神に仇をなす邪神の眷属。

 聖なる物を憎み、魔を広める。


 ……? 魔物?

 例によって説明が大雑把なのは良いのですが、初めて見る言葉です。


 そんな事を考えていた次の瞬間、私の上半身が吹き飛ばされました。


 !!

 一瞬で頭が真っ白になります。


 意識が戻り、初めて目に入ったのは、例の熊さんが私のすぐ側に居て腕を振りかぶっている様子でした。


§5 出会い

 さて、私は辛うじて生きています。


世界樹に至る可能性のある折れた苗木


 非常に脆弱ながら、精霊を宿したトネリコの苗木。

 女神の卵。相応の時を経れば、世界樹に至る。


 冥府の神より右目を貸し与えられている。


 しかし、魔物の襲撃により生命の危機に瀕している。


 まあ、要するに、上半分がぽっきりと折れています。皮一枚は繋がっているけど。


 あの時の熊の様な魔物は、私を殺そうとした寸前に、突然倒れてきた木によって潰されました。

 そして、そんな私の命の恩人な倒木さん。


名も無き倒木


 世界樹に至る可能性のある苗木を魔物から守る為に、自らを犠牲にした。


 ……。


 その後、私は何をするでも無く、静かに死を待っていた、そんなある日。

 森の中から、ガサゴソと音が聞こえてきます。


 また、魔物? ……と言うより、耳が聞こえる様になってる。今更だけど。

 でも、それは魔物ではありませんでした。


 暫くして木々の間から覗いたのは、中学生程の年頃の女の子の目を丸くした顔だったのでした。


§6 言葉

 誰だろう?

 そんな事を考えると、例の本が目の前に現れ、パラパラと捲れていきます。


太古の世界樹が加護を与えた者達の末裔


 エルフ。

 本来は神に連なりし神族であるが、世界樹の消失より時代が下り、地上の者達に近くなった。

 しかし、なお只人と比較して非常に長い寿命を持つ。


 へー。エルフ。

 見た目は人間と変わらないです。ただ、確かに目立つ容姿はしています。

 彼女は、警戒しながら倒木と例の魔物の死骸に目を向けます。


「―――? ―――……」


 あぁ、言葉が分からない。どうしよう。

 すると、また本がパラパラと捲れます。


『何でこんな事になってるの? ―――が倒したのかも知れないけど、自分を潰しちゃうかな……』


 ……翻訳してくれてる?

 見た事が無い文字が挟まっていますが、恐らくあの熊型の魔物の名前です。

 ……固有名詞は翻訳されない?


 そんな事を考えて居ると、突然大きな声が聞こえます。


『……あっ!! 苗木が折れてる!!』


 あっ。

 本から目線を上げるとエルフの女の子が私の事をじっと覗いていました。


§7 移住


『……もうすぐ、私の家だから頑張ってね。』


 エルフの女の子の声が聞こえてきます。


 あの後、私は折れた上半身に添え木を当てられて、根の周りの土ごと掘り返され、女の子に持ち去られてしまいました。

 多分、私の事を治そうとしてくれているぽいけど。


 ちなみに、本は出しっぱなしになっている。

 だけど、女の子が気付いた様子は無い。


 ……

 暫く、そのまま揺られていると、木々の間から少し開けた空間と小さな小屋が見えてきます。

 そして、女の子は私を空き地に置くと小走りで、小屋の方に駆けていきました。


 ……えっと。

 周りを見渡すと、小屋の他に小さな畑や花壇なども目に映ります。


「……トネリコの木でしょうか? 可愛らしいですね。」


 ……えっ?

 突然、言葉が聞こえてきます。

 それに本を見なくても意味が分かる。


 そっと目を向けると、どことなくおっとりとしたお姉さんが屈み込んで私の事をじっと見ています。


『あっ!! ―――お姉さん。来てたんだ!』

『―――お姉さん!!』


 声が聞こえて来たので目を戻すと、さっきの女の子が幾つか道具を抱えて歩いてきます。

 そして、その前を小さな女の子が駆けていき、お姉さんに飛び付きます。


 ……姉妹?

 どことなく似ている気がします。


 ……

 あっ。一応、見ておこうかな?


 3人が私を囲んで会話をしているのを横目に先ずは妹さん?に本の力を使ってみます。


太古の世界樹が加護を与えた者達の末裔


 エルフ。

 本来は神に連なりし神族であるが、世界樹の消失より時代が下り、地上の者達に近くなった。

 しかし、なお只人と比較して非常に長い寿命を持つ。


……変わらない。次はお姉さん。


世界樹の森に住まう大精霊


 世界樹が失われた後、エルフを守護する七柱の精霊の一。

 位は第七位。

 本体は樹齢約五千年のガジュマルの木。


 ……!!精霊!?

 しかも、大精霊。


 はぁ。

 取り敢えず、何も考えない事にした私は女の子とその妹さん?に身を預け、されるがまま、新たな土地に根を生やしたのでした。


§8 成長

 エルフの女の子の家に来てから一か月ほど経ちました。


 ……一か月も見ていると分かってしまうんだよね。

 彼女達、両親が居ない。

 それに、彼女達の所を訪れる人は例の大精霊さんと後、一人、おばあさんが居るだけ。

 彼女達はこの集落の生まれでないので除け者にされているらしいです。

 ただ、エルフの間の事なので自分は介入しないと大精霊は言っていました。


 さてと、実は少し変化がありました。


世界樹に至る可能性のある苗木


 非常に脆弱ながら、精霊を宿したトネリコの苗木。

 女神の卵。相応の時を経れば、世界樹に至る。


 冥府の神より右目を貸し与えられている。


 魔物の襲撃により生命の危機に瀕していたが、エルフの姉妹の手によって救われた。

 不安定ながら精霊として、顕現が出来る。


 一応、大精霊のお姉さんみたいに人形を取れる様になりました。

 ただし、不安定とある様にあまり長時間は維持出来ません。


『……精霊さん!! お水だよ!!』


 とっ。

 考え事をしていたら、妹さんがじょうろを持って駆けて来るのが目に映りました。


§9 襲撃

 さて、それは、それから数日後の月の無い暗い夜の事でした。


 ……夜でも完全には眠くならないんだよね。

 そんな事を考えながら夜空を見上げ、うつらうつらしていると、視界に何かが横切ります。

 ……?


 良く見ようと、視界を下げた瞬間何かが割れる音が聞こえてきました。

 ……えっ?

 一瞬、惚けていると、二人組がそれぞれ、もぞもぞと動く大きな袋を抱えて家の外に出てきました。


 ……

 はぁ。

 私は咄嗟に彼等の足元に顕現して、転ぶ様に足首を掴みます。


 次の瞬間、彼等は突然現れた私の手に対応出来ずに、大きな袋を手放して転んでしまいます。


 ……暫く、耐えれば大精霊のお姉さんが来てくれると思うけど。

 でも、この人達は何?


 ……!!

 そんな事を考えていたら突然何かに突き飛ばされます。

 さっと、視線を上げると二人組に誰かが駆け寄っています。


 ……三人、居たんだ。

 どうしよう。私、大した事出来ないんだよね。

 前に視線を向けると、三人組が何かを話しています。


「―――。―――?」

「―――。」


 音の響きを聞くと、恐らくここのエルフとは違う言葉。

 ……!!

 視界の端に映っていた袋の中から、腕が伸びてる!


 気付かれる前。私は敢えて姿を消さずに走り出します。


「―――!!」


 ……!!何?

 女の子の声が聞こえると唐突に周りが明るくなり、咄嗟に振り返ります。

 すると、彼等の意識が私に向いている間に抜け出したエルフの女の子が何かをしたのか、三人組が森の方まで飛ばされているのが目に映ります。


 女の子は妹を袋から救い出すと、こちらの方に駆けてきます。


「―――! ―――?―――……」


 彼女は恐らくお礼を言ってくれています。

 流石に同時翻訳を一か月も聞いていれば、日常会話位は聞き取れる様にはなりましたが、あまりにも早口なので雰囲気でしか分かりません。

 ……それに、この状況で本は広げられないし。


 私は彼女の言葉を手で制すと、既に起き上がっている三人組の方を指差します。

 すると、彼女は言葉を止めて、私達を守る様に一歩前に出ます。


 恐らく、戦いが始まる一瞬。

 ですが、それは唐突に終わりました。

 地面から何かが伸びてきて、侵入者を絡め捕ります。


 ……やっと、来た。


「……良く頑張りましたね。後は私に任せて下さい。」


 庭の敷地に入って来たのは大精霊のお姉さんでした。


§10 エピローグ


「……と言う事、彼等は情報を得る為に彼女達を攫おうとしたようです。」


 沈みゆく細い月の明かりの中、私は大精霊のお姉さんの話を聞いています。


 話によると、エルフの姉妹を攫おうとしたのは最近、北上を続けている南の帝国の兵士らしい。

 ……戦争が近いのかな?


 後、私が原因の可能性もあるらしいです。

 帝国の帝室はエルフの血が入って居るので、私の存在を何かしらの形で察知して、森の攻略に着手した事も考えられるらしい。


 ただ、私の存在が余りに脆弱なので、本体が何処に在るかはばれないとは思うとは言っていました。

 そこで、ふと、思い付いた事を聞いてみます。


「……お姉さん。私が脆弱じゃ無くなるってのって、どれくらいになりますか?」

「……そうですね。……最低でも千年でしょうか?」


 ……えっ。

 お姉さんの言葉に固まっていると、更に衝撃が追加されます。


「……まぁ、精霊として一人前になるのが一万年、神の一端を担うのが十万年、世界樹として認められるのが百万年って所ですから、千年なんてすぐですよ。」


 私は頭が真っ白になりました。


 ……大人になるのに百万年って。


 兎にも角にも、こうして私の世界樹を目指す旅が始まったのでした。


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