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第六話 まさかアレが伏線になるなんて


 午後の授業を終えて、いつもなら透と久はここで仲良く直帰するのだが、今日は最後のイベントが有る筈だ。

 今日はずっと透に張り付いていたが、あと一人ヒロインが出ていない。サブキャラとしての攻略対象キャラはまだまだいるが、メインとなるヒロインは五人だ。そのメインの五人の中の最後のヒロインが出てきていないので、この放課後が勝負という訳だ。

 俺は最後のヒロインには是非とも会いたいから、透に探りを入れてみよう。

 さて、まずはジャブを打ってみるか。


「おう透、帰ろうぜ?今日はもう何もないだろ?」

「ああ、ごめん。僕はこれから先生に頼まれた用事があるんだよ」


 ヒットだ。さぁ、詳しく聞かせて頂こうか。

 俺のフリッカージャブから逃れられると思うなよ?


「マジか?で、何すんの?」

「先生がどうしてもって言うから、図書室に資料を取りに行かないといけないんだ」

「そうか……なら俺も付き合うぞ?」


 俺は殊更に「仕方がないなぁ」みたいな空気をだして、渋々ながら透の雑用を付き合うという雰囲気を作り出す。

 フフフ、こうやってフェイントを入れて透をコーナーに追い詰めるんだ。


「え?本当かい!?正直に言うと助かるよ!」


 かかったな!ここに必殺のカウンターだ!


「ああ、気にすんな。まぁ、一人より二人でやった方が早く終わるしな。それになにより、暇潰しの意味合いもある」

「はは、なんか久らしいね」

「だろ?透は良い親友を持ったな」

「はは、自分で言ったら台無しだよ」

「ば、馬鹿な!?」

「はははっ」


 どうやらもう、持病の『シスコン』は治まっているらしい。無害の……ではなく、普通の時の透は話しやすいし、良い奴だ。

 それと俺の中途半端な知識のボクシングの例えもここらへんで終わっておこう。セコンドから「無理するな。徹夜明けのテンションで書くのはやめとけとあれほど言ったのに」とのお達しだ。



 では、いざ行かん!最後のヒロインの元へ!




*****




 俺達は図書室に向かい歩を進める。『場面が変われば、気が付くと図書館だった』って訳ではなく、普通に歩いての移動だ。ここら辺はギャルゲーっぽくはないが、このヒロイン遭遇イベントはまんまギャルゲーだな。

 教師に頼まれたと言いつつも、透にとっては強制イベント的な流れだった様で、このままついて行けば、最後のヒロインに出会えるだろう。

正直かなり楽しみではある。


 図書室に到着すると集中して勉強している生徒、時間潰しなのかつまらない顔で本を眺めている生徒、明らかにいちゃつきに来やがった場違いなカップルがいた。

 最後の奴は、是非図書委員の人が強権発動して叩きだして欲しい。


 ああ!くそが!もう、エロ本でもいいから、乳繰り合ってないで本を読め!本を!


「透、それで資料って何だ?」

「え?ああ、資料は……すいません?歴史関係の本ってどこにありますか?」


 透は腕に図書委員と腕章を付けた女生徒に話しかける。


「ん?……あっち」


 短い返事で本を抱える手と逆の手で奥の本棚を指差すその人は、小柄でありながら制服の胸の布地を押し上げる凄まじい膨らみをお持ちのトランジストグラマーな女性だった。



 この人こそ『きみとも』のヒロインの最後の一人。彼女の名は紫藤椿(しどうつばき)。無口のクールビューティーさんだ。

 まさかこのタイミングで現れるとは、透のヒロイン捕捉能力には脱帽する。さすが主人公と言うべきか。


 さて、このロリ巨乳の椿は『きみとも』ファンの間では、別名『エスパー紫藤』とも呼ばれている。超能力が使える訳ではないのだが、これには訳がある。

 普段はクールビューティーの名に恥じない、澄まし顔をしている椿なのだが、実際は恥ずかしがり屋で、照れて俯き、頬を染めながらチラッと主人公を見上げるそのCGに、プレイヤー達は世紀末のモヒカンの如く『ひゃっはー!』と歓喜した。

 そして、舞台転換で暗転した時のモニターに映し出される、自分のだらしない顔を確認した後、死にたくなったと言われている。


 そのことから、ファンの間では最高のギャップ萌えであり『照れてぽっと頬を赤らめる』そんな椿が可愛いから『照れぽっ(テレポ)の椿』から、テレポートがエスパーになって『エスパー紫藤』となった。その名を考えた奴はある意味で天才だ。流石は〇ちゃんねラー。


 ちなみにだが、彼の有名な『エスパ○伊東』とは全く関係ないので、勿論椿は超能力を使えない。

 しかし、悪ふざけ大好きな製作者は、ファンディスクなどで『椿が鞄の中から出てくる』や『電話帳破り』や『上半身裸で黒タイツを着用』するといった、所謂『エスパーネタ』が描かれている。

 勿論、彼の有名なお笑い芸……伝説のサイキッカーである『エスパ○伊東』とは全く関係ないらしい。大事な事なので、二度言わせて頂こう。



 まぁ、長々と語ったが、サブヒロインを無視すれば、これで最後のヒロインが登場した事になるという訳だ。


「ありがとうございます」

「いい、仕事」

「久?あっちだって、行こう」

「あ、ああ」


 透はお礼を言って、椿が指を指した方に歩き出す。俺もその後を追って歩くが、途中で歩みを止めてしまう。


「あれ?久どうしたの?」

「すまん。ここからは別行動だ」

「……ん?まぁ別に構わないけど……」


 ここで急に別行動をとったのには訳がある。正直に言うと、もう少し椿と話したいと思ってしまったからだ。なぜなら、そうぜなら『エスパー紫藤』いや『照れぽの椿』の『生照れぽ』が見たいのだよ!

 これは『きみとも』ファンとしては、当然の事だろう。あの破壊力のあるCGの場面を是非とも生で見たい。


 そう、生がいいのだ。詳しくナニが生じゃないといけないのかは、あまり大きな声では言えないが、生じゃなきゃ意味が無いのだよ!


 だが、話しかけたいが、ここで椿と会話をするきっかけが欲しい。

 用もなく話しかけるのは恥ずかしいみたいな童貞男子の様な事を言うが、誠に遺憾な事ながら、その通りなのでどうか神様助けて欲しい。

 ちらっと、透を見るが残念ながら歴史の本に夢中だ。

 どうする?ここは出直すべきか?ギャルゲーなら、ここでクールな選択肢が出てくれるのに……って、いや、ここもギャルゲーの世界だったな。


「……ん?」


 俺が葛藤していると、俺の煩悩まみれの視線に気付いたのか、椿は怪訝な顔で俺を見る。

 どうやら、めちゃくちゃ怪しまれている様だ。こうなれば、つっこんでみよう。今こそ『きみとも』の知識を生かす時だ!


「間違っていたら申し訳ないんですけど……もしかして、紫藤先輩ですか?」

「ん」


 俺の問いに椿は頷いて答える。

 まぁ、元から知っている訳だが、こういう当たり前な確認が、初対面という場面で大事になる……筈だ。

 さて、俺はこれからどんなキャラでこの人に相対すべきだろう?

 真面目な後輩キャラだろうか?生意気な後輩キャラだろうか?馴れ馴れしい後輩キャラだろうか?……いや、ここは探り探りでいこう。


「俺、唯姉……あっ、浅黄唯の幼馴染の金田久って言うんですよ」

「ん、紫藤椿」

「え~っと、唯姉の友達なんですよね?」

「そう」

「唯姉に聞いたんですけど、紫藤先輩の事を親友って言ってたんですよ~」

「ん」

「…………」

「…………」


 というかこの人本当に喋らないな。会話が成立しているかすら不安だ。

 もしかしたら、俺の会話能力に問題があるのかもしれないが、童貞の俺にそこまで期待はしないで頂きたい。

 なにか、椿を喋らせたいけど……話題が思い浮かばないな。



 そんな事を思いながら頑張って椿と会話をしていると、ここで俺の脳内でゴーストじゃなくて、悪魔が「この無口っ子に卑猥な言葉を喋らしてみたくないか?」と囁く。

 そうなると、勿論俺の脳内の天使は「そうだね。出来れば放送禁止用語レベルの言葉なら尚の事だね」と反論……せずに、同調する。

 すると、俺の脳内の悪魔は「え?マジっすか?天使さん半端ねぇっす。いや、でも嫁入り前の女の子にそんな事言わせていいんすか?」と天使の言葉を嘲笑う……事無くリスペクトする。

 俺の脳内の天使は「はぁ?お前悪魔の癖になに女に夢見てんの?頭大丈夫か?」と妥協案を出す……事はおろか、悪魔を罵倒する。

 そうなってしまうと、俺の脳内の悪魔は「マジッすか……あ~、自分まだ夢見ていたいんで、お暇させてもらいます!では、失礼しまっす!」とついに折れ……ずに、逃げて行った。



 こうして俺の脳内の悪魔と天使の戦争は純粋無垢な天使が……って、俺の頭の中は酷い状況だな。煩悩まみれじゃねーか。

 まぁ、いい。

 脳内の天使が勝ったのだから、俺は天使の言う事聞くとしよう。話題もなかったので丁度良いしな。

 非常に良心の呵責に苛まれる行為だが、天使と悪魔の脳内戦争の結果なら致し方が無い。そうだな、脳内での決定に逆らうのは良くないよな。

 げへへ、じゅるり。


「紫藤先輩」

「ん?」

「今から、俺が出す問題全て正解したら、なんと豪華賞品をプレゼントします。そもさん」

「ん。説破」

「マレーシア、マレー半島の先端、ジョホール州にある有名な山の名前はなんでしょう?」

「パンティ山」

「正解です。では、南太平洋バヌアツのタフェア州最大の島。ニューヘブリディーズ諸島の一つの島の名前はなんでしょう?」

「エロマンガ島」

「正解です。流石先輩、博識ですね」


 俺が褒めると、椿はほんの少しだけ嬉しそうな表情をする。これは嬉しいのが我慢できずに表に出た時の表情だ。

 くそぅこれか!これがギャップ萌えか……可愛いじゃねぇか!こんな可愛い女の子に、まだ俺はやるのか?


 そう葛藤していると、またも俺の脳内の天使の皮を被った悪魔が『続行だ!』と男らしく豪語する。

 そう指示されたからには実行せざるを得ないと、俺が問題を出したのは地名だと、誰に言い訳するでもなく、俺は問題を出し続ける他に選択肢がない。

 これは地名や物の名前のクイズであり、倫理規定とかに抵触していない筈だ。この事が、日本語が難しい言語とされる証拠にもなるのかもしれない。

 日本人が正しい日本語を喋れなくても仕方がないし、外国人から日本語は難しいと言うのも理解できる。


 決して、椿の口から卑猥な言葉を言わせたいからではないし、卑猥な言葉など俺も椿も一言も口にしていない。決してな!

 そして、問題を出し続ける事によって、椿も嬉しそうにしている。これが世間一般で言う『WIN―WINの関係』ではないだろうか?

 そう考えると、俺はさっきから何を躊躇していたのだろうか?

 俺もとある少年漫画のとらぶってしまう神の如く、チャレジャー精神を忘れてはいけないのだ!


 さぁ、皆も『表現の自由』を高らかに唱えよう!


「では、実写映画化や、アニメがリメイクされたり、たくさんの世代から愛されるドロ○ボーと戦う正義の味方の名はなんでしょう?」

「ヤッタ○マン」

「正解です。では、ある豆をローストし、粉砕して粉状にしたモノにお湯を注ぎ出来る飲み物はなんでしょう?」

「コーヒー」

「正解です。では、ブタンと言う炭化水素の一種で、常温では液体のもので、その液体を使い、火を付ける装置の事をなんと言うでしょう?」

「ライター」

「流石ですね!正解です」


 よし!ここまでは完璧だ。この流れで褒めちぎりながら、今の答えを全て繋げて言わせれば完成だ。

 これ考えた奴は本当とんでもない変態だ。もしくは天才と言えよう。

 いや、マジで!是が非でも師匠と呼んで崇めたいくらいだぜ!


「で、では、最後の問題です。はぁはぁ、解答時間は十秒です。はぁはぁ、準備はいいですか?」

「ん、いい」


 椿は胸の前でギュッと手を握って『準備はいいぞ!』とアピールしている。

 無表情であるのに……この子マジ可愛いな!

 だが、この偉大な先達が考えたネタの餌食となるがいい!文学少女よ!日本語の奥深さに恐れ戦くといい!!


「俺が出した問題の解答を最初から全部答えよ!はい、どうぞ!」

「ん?パンティ山、エロ――」

「――久!悪いけどこっち手伝ってもらえないかい!?」


 椿が頑張って答えている最中に、ここでまさかの伏兵が現れた。なんというタイミングだッ!

 戦国時代の大名、島津義久が使用した、かの戦術のような絶妙なタイミングだ。

 ここは高城川なのか?いや違う!ここは公友学園にあるただの図書室だ!こんな奇襲はあってはならないのだよ!


「透!この野郎!!今は!今だけは少し黙っていろ!!」

「え!?なんだって!?」


 おい!しかもこんな時だけ、主人公特有の『難聴スキル』を発動させんなよ!


「――ライター。むっふー!」


 振りむくとそこには言い終えて「むっふー!」と言いながら、満足げな顔をした椿がいた。その顔は「初めてのおつかいをやりきった少女」の様に、少しドヤ顔の入った無邪気な笑顔だった。

 その顔は素直に可愛いと思う。そう、思うのだが……いや、思うからこそ、俺はとんでもない失態を仕出かした事を自覚し悔んだ。

 そして、俺はその椿の表情を見て、膝から崩れ落ちる。


「くっ!神よ!こんな事があっていいのですか!?屈辱だ!屈辱だぞ!!透ぅぅぅうううう!!!!!」


 俺はここが図書室で、静かにしなければならない事など頭から消えていた。

 ただただ、床を叩きながら『こんな理不尽な事があっていいのか!』と大きな声で喚き散らしてしまう。


 この絶望感ったら、もう俺の乏しい知識では表現のしようがない。

 それでも、この悔しさや、絶望といった俺の負の内面を表現するなら、母親が勝手に自分の部屋に入り、掃除と言う名のガサ入れが行われ、隠しておいた筈の全てのエロ本やエロビデオが、余すことなく机の上に綺麗に置かれていた時のような状況に酷似しているだろう。

 更に追い打ちで、母親から「アンタの部屋のティッシュの減りが速いんだけど?程々にね」と忠告されるといった様な心情だ。

 もう、俺には「はぁ?花粉症だし!栗の花の!」とか「最近よくお茶溢すんだよ!武者震いかな?」とか「ハウスダスト的な鼻炎で鼻から滝が流れるんだ……」などの言い訳すら許されないのだろう。思春期男子にとって、それはもう心に深い深い傷が残る出来事となろう。

その日から自腹でティッシュを買うようにしたのは、別の話だが……。


 そんな絶望に沈んだ心を「HAHAHA!こいつ~!」なんて欧米人の様に、軽く流せるほど、俺は人間が出来ていない。

 これが俺以外の人にはくだらない事であろうと、どれだけ滑稽であろうと、他人が越えてはならないラインと言うものがある。


 そう、俺にとってそれが……今だっ!


「透!てめぇは俺を怒らせた!」

「え?え!?」


 この感情をぶつける為に透に殴りかかる。

 やつ当たりかもしれないが、このやり場のない怒りの為にも、ここは親友として黙って殴られてほしい。


「くらえぇぇえええーーーー!!」

「なんで!?」

「!?」


 そして、俺の視界が暗転し、何かに衝突する音が聞こえる。


「ぐぅ……え?」


 殴りかかっていた筈なのに、いつの間にか俺は図書室の床に仰向けに転がっていた。訳が分からなかったが、俺の視界には俺を見降ろす透と椿がいた。


「なん……で?」

「喧嘩、ダメ」


 その言葉で俺は全てを悟った。今俺が倒れているのは椿の仕業である事を。


 先ほどは説明しなかったが、この無口系クールビューティーさんは文学少女のように振舞っているが、実際は実家が武道を営む道場の一人娘だ。

 その環境もあって、幼い頃から当たり前の様に武道を嗜んできた椿も、武道に関して達人級の腕前を持っている。エロゲではよくある設定の一つだ。


 俺は唖然として、寝転がったまま椿を見上げ呟いた。


「マジかぁ…………なっ!?」


 すると、なんという事でしょう!この角度から丁度ある物が見えた。

 それは何かと問われれば、答えなければなるまい。


 そう、それは――パンツだった。


 正確には、椿のパンツだった。更に正確に言うのであれば、レースがあしらわれ、細かな刺繍の施された、可愛らしくもあり、清潔感のある、純白のおパンツ様だった。

 白くスラリと伸びた御身脚から覗く、世界遺産にも匹敵するであろう絶景。また、その鍛え上げられた御身脚を包む、ニーソックスと言う名のシルクロードを上っていくと見えるのは、そうパンティ山だ。

 普段はスカートと言う、ベルリンの壁の如く全てを隔てる壁に守られ、男達が見る事の叶わぬ秘境がそこにある。

 頭の中だけと言え、もはやこの現代では『パンティ』は死語になりかけているのに、ここまで多用する事になるとは思っていなかった。


 パンティ山。まさか、あのクソみたいで最低なやり取りの中に、こんな伏線があるなんて思いもしないし、問題を出していた俺にも想像できなかった。

 だが、目の前にはあるのだ。かの名高き霊峰、幻のパンティ山が。

 いや、本来の山がそういう場所ではない事など分かっている。現地の方に失礼である事も分かっているが、現実の世界に戻る機会があるのなら、一度は足を運んでみようと心の底から思ってしまう、そんな奇跡が起こったのだ。


 そして、俺はその日本三景にも劣らない絶景を心のHDに保存しながら考える。俺の今迄のエロに対する努力は無駄ではなかったのだと。

 努力は報われると、努力の後には必ず報酬があると、そう考えると色々な所が熱くなる。

 どこの個所かは、はっきりと明言することは避けるが、色々と熱く燃え滾る様な感覚が全身を襲う。


 まぁ色々と言葉を濁したが、ありていに言えばとても興奮している。

 英語で言い表せば『エキサイティィィング!!!』だ……違うか?違うだろうな。


「ん?」

「…………あっ」


 そんな床に寝転がりエレクトする変態の機微を感じとったのか、はたまた武人の感なのか、椿は寝転がる俺と目が合った。

 そう、合ってしまったのだ。

 そして、素晴らしい状況判断能力を持った椿は、俺の視線の先に何があるのか察したのだろう。


「やべっ」

「~~~っ!?」


 そこからの行動は早かった。

 普段無表情な椿らしからぬ表情で頬を赤く染め、拳を振り上げ、床に寝転がった俺の鳩尾にキレッキレッな一撃を叩きこんだ。


「ぐはぁっ!」

「くっ」


 武道の武の字も知らない俺が、達人の一撃に反応できる筈もなく、口から肺の中に溜まった空気が吐き出される。

 その状況でも俺の目は貪欲にも恥ずかしそうに、それでいて悔しそうにスカートを押さえる椿を捉えていた。

 そして、俺は薄れゆく意識の中で心の籠った、今の感情を乗せた言葉を椿に向けて発する。


「ごちそう……さまでした」



 その後、俺は完全に意識を失った。




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