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第三話 主人公と主人公の親友


 さて、ここで説明を入れておくべきだろう。


 どうやら俺は『きみとも』の主人公である透の親友である金田久(かねだひさし)になってしまったようだ。

 理由はアレだろうか?俺の本名が金井久であり、主人公の親友も金田久で似た名前だからだろうか?……いやいや、まさかな?そんな適当な理由の筈はないだろう。


 そんなの神だって許してくれないだろう。


 それより『今の状況の説明になっていない』ってか?いやいや、俺だってパニくっているんだ。だって、俺のセリフさっきから『嘘?』と『マジ?』の成分多めだろ?

 お前らだって頑張って、察してくれよ。


「お~い、久?やっぱりなんか変だよ?どうかしたのかい?」

「ん?ああ……どうやったらモテるのか考えていただけだ」


 考え事の途中に話しかけられたから、適当に答えてしまった。これもまた俺の心の奥に眠る本心だから、何も問題はないだろう。


「ははっ、久は本当に馬鹿だね」

「ふん。ほっとけ」


 とまぁ、このように俺と自然に会話をしている人物。もう一度紹介しておこう。

 こいつは本作品『きみとも』の主人公である色部透(いろべとおる)だ。製作者のブログを読んだが、当初の設定では『平凡』の一言で済むような外見だったそうだ。

 ほら、CGで顔が見きれたりするだろ?ゲームをプレイしている我々が自分を重ねやすいよう、感情移入がしやすいように作られたそんなどこにでもいる様な普通の主人公だったんだ。

 ギャルゲをプレイした事がない人は分からないかもしれないが、そんな物があると認識してくれればいい。


 だが、そんな平凡な主人公は大人の都合で、身長178センチの細マッチョのイケメンになり、性格も『平凡で優しいだけが取り柄でなんでこいつがモテるか分からないみたいな男の子』だったが、これもまた大人の都合で、ヘタレ要素などの『負の主人公属性』を廃した完璧超人となった。

 製作者側の男の理想を詰め込まれたキャラクターであり、本当にいい奴なのであまり敵がいない。そして、各ルートに入ると、ヒロインに合わせて武道やスポーツや勉学と、その分野に才能を伸ばしていくチートキャラであり、固有スキル『ただしイケメンに限る』を使いこなす(つわもの)でもある。


 そう、本来なら俺がこいつになって、ヒロインである女の子達と嬉し恥ずかしの、いちゃコラタイムを満喫した後、ベッドの上でヒロイン達に『赤ちゃん出来ちゃうぅぅううう!!!』まで言わせるつもりだったのに……どうしてこうなった?


「んだよ?くだらねぇってか?透はモテるからいいじゃねぇか」

「え?僕?う~ん……どうだろうね?はははっ」


 俺の適当な返しを、透は整った顔の口角を少し上げて笑う。

 普通なら殺意しか湧かないセリフと表情なのに、透が言うとビックリするほどムカつかない。それに透は見れば見るほどイケメンだ。ここまでいくと逆に羨ましいとも思わない。

 明らかに整った顔に高身長でがっちりとした体、頭も良さそうだし、一つ一つの所作にどこか気品さえ感じてしまう。

 こいつの為なら、俺はなんでもできるとさえ思ってしま――


「――はっ!危ない危ない……俺はヒロインじゃないからな!」

「はははっ、やっぱり……久は本当に馬鹿だなぁ」


 危うく自分で勝手にフラグを立たせて、いつの間にか透に攻略されかけてしまった。BLルートなんてない筈だが、絶対にBLルート突入だけは避けたい。

 これが主人公補正と言うやつなのだろうか?まったく怖い事この上ない。


 もうこうなったら戦略的撤退だ。プレイ時間としては一時間やそこらだろうが、今日は色々あり過ぎた。こういう時はセーブして一度ログアウトだ。

 なぜ俺はオカンとのハプニング時にログアウトしなかったのか、今更ながら疑問に思ってしまうが、それはエロへの渇望という事で置いておこう。


 それよりも、これは明らかにバグか何かだろう。

 主人公でプレイできないエロゲで満足できる人は、ホモか、ドMか、NTR趣味の豪の者だけだ。いくらヲタク友達に『変態紳士』と褒められ崇められている俺でも、残念ながらそこまでのレベルに達していないし、そんな趣味はないから罰ゲームもいい所だ。

 それとも、この主人公の友人ポジションでプレイするのはバグではなく、かなり人を選ぶだろうが、寝取られ趣味と言った極めて偏った性癖を所持している上級者向けの仕様かもしれない。


 まったく、このゲームは受け皿が広すぎだ。製作者側はどこへ向かおうとしているのだろうか?

 まぁ、性癖云々は置いておくとして、製作者側はVR搭載という業界初の試みなので、かなりの時間をデバック作業に費やしたらしい。だから、これが本当にバグではないという可能性も無きにしも非ずだ。

となると、説明書を読んだつもりだったが、読み込みが足りなかっただけで、変な設定を選んでしまっただけなのかもしれない。だが、こんなありえない状況を流石の俺でも予想できない。

 俺が普段からプレイするギャルゲから、エロゲになるだけで、ここまで仕様が変わる事を誰が予想できよう?


 いや、言い訳は止そう。

 きっと、説明書をそらんじる事ができるまで読まなかった俺のミスだな。

 そうなると、やはりここは一時撤退した方が良いだろう。確かセーブは心の中で念じるんだよな?


「……(セーブ画面)……」

「?」

「あれ?出ない?」

「どうしたんだい?」

「いや、セーブ画面が現れないんだ」

「久……今日はいつにもましておかしいよ?」

「いやいや、ちょっと待ってくれ」


 透が俺を奇妙な生き物を見る様な目で見つめてくるが、今はそれどころではない。

 それに透から「いつにもまして」なんて言われているが、今はそれどころではないのだよ!


 おかしいな……セーブ画面が出ない。

 おいおいバグか?いやいや、やはりこれもまた、俺の説明書の読み込みが足りなかっただけのだろう。

 何でもかんでもバグと決めつけるのは早計だ。少しでもバグと疑った自分が恥ずかしい。開発者の皆さんには失礼な事をしたな。

 まぁ、こうなったらセーブは無しにして、次は初めからになるが終了するか。確かこれも心の中で念じるんだったな。


「……(ログアウト)……」

「…………」


 おかしい……反応がないぞ?しょうがない、声に出してみるか。


「ログアウト!」

「うわっ!どうしたの?」

「いや、だからログアウトが出来ないんだ!」

「それもさっき、って……っ!?……久、いいかい?よく聞くんだ?」


 なにやら真剣な顔と声色で透が忠告してくる。

 これは透の親友ポジションとして、聞くべきなのだろう。なにかシステム的アシストが起こったのかもしれないし、きっと今の状況を突破する鍵になる筈だ。


「あ、ああ。なんだ?」

「ウケないネタでの『天丼』は良くないよ?」

「ん?」


 おやおや?ゲームのシステム関係ないぞ?

 それに天丼ってアレか?美味しい食べ物の天丼じゃなくて、今回は文脈的にお笑い用語の方だよな?


「いや、だからね?君はボケたつもりかもしれないが、ウケないネタを二度やられるこっちの身にもなってほしい。もしかしたら、久のそのボケに対する綺麗な返しや、天丼返しや、ツッコミが出来ない僕が悪いのかもしれないけど、そのなんだろう?こっちはただ、ただ辛いんだよ……」


 透は本当にただただ辛そうに俺から顔を背ける。

 そんな顔されたら、俺が語る事の出来る言葉なんてこれしかない。


「……マジかよ?」

「うん……残念ながら」

「Oh……ホーリーシット……」


 俺の口からそんな言葉が口を出てしまった。

 人が必死にこのゲームから脱出しようとしているのに、それをボケたと勘違いされた事と、更に「お前のボケは本当につまらないから気をつけろ?」と、幼い頃からの付き合いの筈の親友に、真顔でダメ出しされた事に対する二重の意味で、驚愕した。


「そのなんというか……学園……行こうか?」

「あ、ああ。そうだな……悪いな……」


 俺達はその後、会話も無く学園へと向かった。

 俺は心の中で、もしかしたら「某RPGの様に、どこかにセーブポイント的なクリスタルが有るのかもしれない」と思い、足を学園へと進める。


 ただ、セーブもログアウトも出来ない状況で、正直心が弱った所に、笑いのセンスを全否定された俺の瞳から液体が流れる。

 それを見た親友は、無言でハンカチを差し出す。俺もそれを無言で受け取り、目の周りの水分を拭う。


 くそっ!カッコイイじゃねぇか!この涙はお前のせいだけど、ありがとよっ!

 こんちきしょうめ!




 *****




 学園に着くと、校門の前で風紀委員が服装の検査と持ち物チェックをしていた。


 私立公友学園(きみともがくえん)

 主人公やヒロイン達の通う学園で、よくラノベやアニメである『生徒の自主性を育む為の自由な校風』であり、つまり『なんでもありという校風』を、それらしく幅を利かせつつお茶を濁した校風だ。

 きっと、シナリオに幅を持たせる為に敢えてそんな曖昧な設定にしたのだろう。そう考えると製作者側からしたら素晴らしい校風なのだろうな。

 生徒会に力が有ったり無かったりするそんな学園で、生徒だけでなく教師陣もキャラが濃い。実際の学園にこんな教師がいたら即クビだろうなって人もいるのだが、そこはゲームの中だから問題ない、そんな素晴らしい学園だ。


 まぁ、今はそんな設定の裏話よりセーブクリスタルだ。しかし、残念な事に校門には風紀委員がいる。


「うわぁ……風紀委員がいるな」


 服装検査や持ち物検査みたいなベタで面倒くさいイベントが嫌過ぎて、思わず「うわぁ」とか言っちゃったよ。


「そんなに検査が嫌なのかい?まぁ、新学期始まったばっかりなのに、ご苦労な事だとは思うけどね」


 透は俺の言葉に、ただ単純に検査が嫌だと思ってくれたようで、俺はそれに乗っかって逃げる口実を作ろう。


「ああ。正直に言うと、めちゃくちゃ嫌だ……なぁ、なんとかして逃げる方法ないか?」

「う~ん……やめといた方が良いと思うよ?」


 門の前でそんな無駄な抵抗をしながら、チェックする列から逃れる方法を考えていると、案の定俺達は呼び止められる。


「ちょっと、貴方達!こっちに来なさい!」


 俺達の言葉が聞こえたのか、一人の女子生徒が俺達の近くまで寄ってくる。

 正直そんなアグレッシブな事をされても、普通に困るからやめてほしい。まぁ、俺の隣には『きみとも』の主人公である透がいるから、こんな強制イベントが起きても納得してしまうがな。


「あっ、黒川さん。おはよう」

「おはようございます、色部君」

「ああ、なんだ黒川か。驚かせるなよ」

「もぉう!なんだじゃありません!」


 さて、面倒くさい奴に絡まれたかと思ったが、やはりこれは強制イベントの様だ。

 この子面倒くさそうな女子生徒の名は黒川杏子(くろかわあんず)。『きみとも』のヒロインの一人で、所謂『真面目な委員長キャラ』だ。

 真面目であるが故に色々と融通が効かないが、そこもまた良い所でもある。古き良き正統派ツンデレの素質ありだな。

 もちろん杏子はヒロインなのだから、外見は勿論可愛く、黒髪ロングで……とてもエロい体付きをしている。ある意味テンプレなのか、こういう真面目な委員長タイプは、総じて男が好きそうなエロい体をしている。


 つまるところ『男の妄想って素晴らしいよね!』と感じる瞬間でもある。


 制服のスカートから延びる御身脚は黒のストッキングで完全に覆われている。だが、そこがまた良い。

 杏子のストッキングが何デニールの装甲なのかは分からないが、ストッキング属性を持ちえないニーソ派のこの俺でさえ「ついつい破きたい!」もしくは「そのスベスベを触りたい!」と思ってしまうほどだ。


 きっと彼女を攻略してHシーンに突入すると、手に汗握り、思わず股間をも握ってしまう程の痴態を曝してくれるのだろう。

 某情報サイトの噂では『凄まじくエロい女の子であり、彼女の攻略時にはティッシュは必ず持参する事。バナナはおやつに含みません』と遠足のしおり並みのお墨付きを頂いている為、とても楽しみなヒロインの一人でもある。

 勉強熱心で知識を貪欲に求める杏子だから、一人で色々夜の方面の勉強をして、次回の模擬テストでは必死に覚えた事を生かしご奉仕してくれるのだろう。


 心も股間も(たぎ)る事この上ないな。


 そんな心躍るヒロインとの対面なのだが、残念ながら今はそれどころじゃない。

 これだけ桃色で欲深い情報を頭の中に思い浮かべている俺ではあるが、ログアウトする為にも、まずは情報を収集しなければならない。

 全く世知辛い世の中だぜ。


「貴方達はよく問題を起こすので、私が見ま――」

「なぁ?そんな事より……黒川、お前セーブポイント見なかった?ほら?クリスタル的な何かだと思うんだけど?」


 杏子の言葉遮り、こっちの聞きたい事だけ聞く。非情に惜しい事をしている自覚はあるが、正直今はエロい姿態を持つ杏子と長々と話す余裕なんてない。


「そんな事って……え?セーブポイント?クリスタル……ですか?」

「ああそうだ。ほらここなら、登校する時に必ず通るし、下校イベントとかでも重宝するだろうし、ここら辺に一つあってもいいと思わないか?」

「え?は?い、いえ、見ていませんが……」


 俺の意味が分からないであろう質問にも黒川はきちんと返事をしてくれた。流石は真面目な委員長キャラだ。だがその後、俺を見ながら眉をひそめる。

 まぁ、当然と言えば当然の反応なのだろう。いきなり友人が、セーブポイントについて熱く語る所を目撃すれば、誰だって不審に思うのも当たり前といえよう。

 俺だったら一発殴った後に、それでも治っていなかったら病院を紹介する自信がある。


「あの、色部君。金田君はどうしたんですか?」

「ああ、本当にすまないね、黒川さん。どうも今日の久はおかしいんだよ」

「いつもおかしいけど、今日は言動が……どこか危なくありませんか?」

「うん、そうだね。もしかしたら久は、目で見えない何かと戦っているのかもしれないから、温かい目で見てやって欲しいんだ」

「そう……ですか」


 そして、俺の目の前でオレ批判の会話をした後、透は温かい目で、杏子は冷めた目で俺を見てくる。視線に温度差はあるものの、それぞれ心にくるものがあるので、少し面倒くさい感じで絡んでやろう。

 俺を怒らすとどうなるか、身を持って味わうがいい。


「なんだその目?あぁん?お前ら?やんのか?ああ?」

「喧嘩はダメですよ!風紀を乱す行為はダメです!」


 言うじゃないか杏子ちゃん。しかし、ここで「杏子のそのエロい体で俺の心の風紀を乱しているんじゃないか?」とは、流石の俺でも言えない。

 いきなりセーブポイントの事聞く俺だが、それぐらいの空気は読める。敢えて読まないだけだ。


 というか、ついついその場のノリで突っかかってしまったが、この残念な空気を変える為にも、ここは主人公の親友らしく道化を演じてやろう。

 本当は馬鹿じゃないが、主人公の親友スキル『道化』を披露してやろうではないか。本当は馬鹿じゃないけど!

 それに、登校時の透に『つまらないギャグ』と言われ深く心に傷を負ったからな。正直に言うと結構本気でダメージを受けたし、アレはどうしても取り消してほしい。なので、俺が本気を出せば本当は面白い事だって言えるという事をこいつらに分からせてやらねばなるまい。

 えっと、アレだ。確か『汚名挽回』じゃなくて『名誉返上』じゃなくて『汚名挽上』だ!

 いや、本当に馬鹿じゃないぞ?本当だぞ?


「あぁ?お前ら、俺を怒らせたらどうなると思う?」

「え?どうなるのですか?」

「へぇ、久が怒るとどうなるんだい?僕も興味があるね」


 俺のフリに、先ほどまで俺に注意していた杏子が律儀にも反応する。透の方はこれが俺のフリだと気付いて、乗っかる感じで聞いてくる。

 こいつらこんな空気なのに、俺の適当な言葉を拾ってくれるとか本当に優しいな。

 そして、少し楽しくなってきた俺もいる。


 ならば、張り切って渾身のボケを披露してやろう!


「聞いて驚け!俺を怒らすとな!俺の右手から――」

「ああ、それで黒川さん。別件になるんだけど」

「ええ、色部君。なんでしょうか?」

「ちょーーーい!!」


 透は俺が今ボケようと思っていた言葉をぶった切る感じで、杏子と話しだす。それに律儀に反応する、真面目っ子杏子ちゃん。


 これは『すかし』だ。現代風に言うなら『スルースキル』だろうか?

 簡単に言えば、自分から質問して、答えを聞いた後に、その事とは全く違うコメントをしたり、敢えて無視したりする事によって笑いを取る、お笑いで使われる技法の一つだ。

 これはすかされた相手を怒らす可能性もあり、心に傷を負わす可能性もあり、人間関係を壊す可能性もあるので、使う場面と相手を選ぶとても危険な技でもある。


 あれ?俺、怒っているって言わなかったっけ?


 こいつら、なんて凶悪なモノをこんな所で使うんだ。きっとこれは透の指示で杏子も俺の事を無視しているのだろうが、俺のガラスのハートが砕け散ったらどう責任を取るつもりだ?責任を取って杏子が俺の嫁になってくれんのか?

 ここは断固として抗議してやらねば気が収まらん。主人公だから調子に乗りやがって、目にもの見せてやろう。


「おい!透!聞けよ!?なぁ?俺の話を拾ったのそっちだろ?」

「そうだね。確かに、酢酸ナトリウムの化学式は覚えにくいかもしれないね」

「いや、酢酸の事じゃなくて、聞けよ?俺、怒ってるって言ったよな?」

「そうだね。ここで酢酸とナトリウムの化学反応式がそこまで重要になるかと言ったら、違うと答えるだろうね」

「お、おい!聞けよ!……いや、聞いて?ほら、酢酸はCH3COOHで酢酸ナトリウムはCH3COONaだから!ナトリウムと酢酸を反応させると水素が発生するだけだって!ほら簡単だろ?なぁ、それより聞いてくれよ?俺の右手の方が今重要だから!テスト出るから!」

「色部君、ごめんなさい……私、化学じゃなくて、生物を学ぶつもりなの」

「そうだったのかい?それは悪いことしたね」

「いやいや、悪い事なら今俺にしてるからな?無視してるからな?なんなら、俺今から土下座するから、話ぐらい聞いてくれてもいいんじゃないか?」


 俺は必死になって透と杏子の前をウロチョロと動き回り、言葉巧みに透と杏子の会話を遮る努力をするが、どうやらその努力も虚しく、彼らは俺の話を聞いてくれない。

 なんなんだこれ?この扱いが主人公の親友だと言うのか?


「あ、あの……俺の右手がさ……右手が……さ……くそっ!今日の所は勘弁してやる!覚えてやがれ!」


 そうして三下のセリフを吐き、目から零れる涙を拭いながら、話を聞いてくれない二人の前を走り去った。

 決して逃げた訳じゃない。今更つまらないネタを披露したかったわけでもない。そう、俺は主人公の親友として道化を演じきっただけなのだ。道化とは斯くも心を抉る辛い職業なんだな。


 ただ、今度ピエロを馬鹿にするクソガキを見かけたら、思いっ切りぶん殴ってやると心に誓った事だけはここに書き記そう。





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