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第十二話 誰だ?ちょろインとか言った奴?


 『カフェレストラン・ルーエ』でバイトを始めて約二ヶ月が経過した。


 ちなみに「え?いつの間に?」とか「展開早くね?」という意見は全部無視さていただく事とする。

 ここはゲームの中なので一瞬で時間が飛んだりするし、暗転とかが正にそれだな。正確に言うならば、マウスやキーボードやボタンのワンクリックだな。



 ふはは!俺とお前らとでは、文字通り生きる次元が違うんだよ。全く二次元はサイコーだぜ!



 さて、いつもの事だが、馬鹿な事を言っていたら話が進まないので話を戻そう。

 ちなみに分かっていると思うが、ゲームの様にワンクリックで進んだ訳じゃない。そうだなぁ、中二病風に言えば『ククッ、この二ヶ月という悠久にも等しい時を我が身に刻んでやったぜ』って所だな。



 まぁ、俺がこの二ヶ月の間、何をやっていたか皆も気になるだろう?

 順を追って説明するのもいいが、まず、この二ヶ月を過ごした俺のマイベストプレイスを紹介しよう。


 ここ『カフェレストラン・ルーエ』は、落ち着いた雰囲気の店であり、学園から離れた場所にあり、更に学生にとって少しお値段が高い。

 個人経営というのもあるので値段が少し高いのは仕方がないのかもしれないが、ファミレス感覚で学生が屯する場所ではなく、少し大人の雰囲気と呼べばいいのか?学生には少し敷居が高く感じてしまう様な所だ。

 ランチタイムは社会人の方を、アイドルタイムはオシャレな奥さま方を、ディナータイムはデートで訪れるカップルなど、年齢層は20代より上の人達をターゲットとしている。

 その為、ここには学園の生徒はあまり訪れない。それを見越して杏子はここをバイト先として選んだ様だ。


 次に、俺のバイトの話をしよう。

 やはりバイトを始めて間もない為、キッチンと言っても調理ではなく、皿洗いや仕込みがメインとなる。そこに不満も無いしこの店で働けるだけで俺は嬉しいと思ってしまう。

 すっかり、キャサリンさんに教育という名の洗脳をされたのかもしれない。


 いや、きっと勘違いだ。キャサリンさんに限ってそんな事はすまい。


 その真偽はいつもの様に横に置いておいて、なぜ調理の仕事があまり出来ないかと言うと、勿論お客様に提供するからであり、お金を貰っているので中途半端な仕事は出来ないからだ。

 それに、ここ『カフェレストラン・ルーエ』に来るお客様は、料理に質を求めていると言う理由が一番なのかもしれない。


 調理と言っても、レシピ通り作ればいいものではない。いや、言い方が難しいが、レシピに沿って作る事ならある程度料理をする人なら出来るだろう。

 しかし、美味しい料理を提供しようとすると、調理は職人の領域となる。


 この例えが合っているか、上手く伝わるかは分からないが、例えば、同じオムライスでもファミレスの様に、冷凍チキンライスをレンジでチンして、卵を乗せ、既存のソースを掛けるという、調理というか作業に近いかものなら、味を落とさずお客様に提供できる。

 決して、ファミレスを馬鹿にする訳ではない。

 チェーン店を全国に持つファミレスはファミレスで、専門の方が日夜新しい味を開発しているし、専用の工場がありそこで作っているモノを使用するのだから、当然同じ味となり安価で提供できる。

 しかし、だからこそ、その味は量産の域を出ないのも事実である。


 この『カフェレストラン・ルーエ』では、ひと手間かけている。

 チキンライスを作るにしても、玉ねぎをみじん切りにするなど使う材料の仕込み作業があり、一食一食材料を炒め、時にはその人に合う様に味を調えるといった、レシピがあるとしても技術が必要となり、そこは職人のお仕事となる。

 ソースも一からその料理に合ったソースを作っている。

 これは量産かの違いで、未熟な人が作れば味もファミレスの方が美味しい事も多々あるが、その逆もある。

 それもまた仕方がない事ではあるが、この『カフェレストラン・ルーエ』では、キッチンの人が優秀な事もあり、味に自由度があり、多様性もある。


 つまり何が言いたいかというと、ここの料理は料理人が優秀なので美味しいという事だ。そこに俺の様な素人が、お客様に出す料理でフライパンを振る事は出来ない。せいぜい自分の賄いを先輩達の動きを見よう見まねで作るぐらいだ。



 だが、その他の雑用は出来るし、調理する人間を調理のみに集中させる様にするのも大事なお仕事だ。適材適所とも言えるかもしれない。

 そして、俺が今やっている事は所謂『調理補助』という役職だ。

 役職と言うと立派な事の様に思えるが、やっている事はファミレスの調理と変わらないかもしれない。

 出来た料理にトッピングしたり、料理の盛り付けをしたり、使ったフライパンなどを洗って片づけたり、ご飯を炊いてよそったりする作業だ。


 しかし、たかがトッピングと言っても、やはり適当に出来ない。

盛り付けにも手順があるし、お客様に提供する料理は商品であり『料理は目で楽しみ、鼻で楽しみ、舌で楽しむもの』という言葉にある通り、盛り付け一つでも料理の質が上がる。

 ここで、腹に入れてしまえば同じ事ではあるという野暮な事は言ってはならない。


 桜に怒られるからな、それこそ野暮だな。


 つまり、俺は着実に料理人として下積みをしている真っ最中なのだ。キッチンの仕事は思っていたよりハードで肉体労働だが、それもそれで楽しんでいる自分がいる。



 他に、ここの仕事を説明する為には、キャサリンさんについても語った方が良いのだろう。キャサリンさんはあの素晴らしき筋肉を使い、様々な仕事をする。

 フライパ捌きは豪快であるが、繊細さも併せ持つ。

 どんな職業でも、職人と呼ばれる人の作業を近くで見た事がある人は分かるかもしれないが、何かを究めた人の動きは洗練されており、その姿はとても綺麗で見惚れてしまうほど鮮やかなのだ。

 料理も究めれば、それは料理ではなく、別の物の様に思えてくる。


 キャサリンさんの料理の腕はピカイチで、もはや芸術の域に達しているのかもしれない。偶に凄いお金持ちそうな人や、この店の雰囲気に合うダンディーな紳士もお客として訪れる。

 その人達はキャサリンさんの料理を食べると、某料理漫画の様に服を弾き飛ばしたり、宇宙に行ったり……はしないが、その表現が正しいと思えるほどに、キャサリンさんの料理を称賛する。


 彼らは料理を食べた後は、キャサリンさんと普通に会話しているし、お金持ちはその財産に似合った胆力も持ち合わせているのだろう。



 そのキャサリンさんだが、キャサリンさんは俺が仕事を失敗しても、感情的に怒らない。

俺に期待していないとかではなく、正しく言うと怒るのではなく叱るのだ。感情に任せて失敗した事を喚くのではなく、俺の事を思い諭す様に話してくれる。次に何をやったら、同じ間違いを犯さないかを教えてくれ、また、一緒になって考えてくれる。

 職人さんの『見て覚えろ!技は盗め!』系の指導ではなく、分からない所は口と行動で分かりやすく教え指導してくれるし、上手くいけば褒めてくれる。

 他にも、オーダーでテンパっている時は、すかさずフォローしてくれる。


 どっかの偉い人が『やってみせ、言って聞かせ、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ』と言っていたが、実際に体験すると『なるほど』と思ってしまった。


 店を回そうと次代を育てようとするのなら、それが普通なのかもしれないし、自分で考えて行動するという事を阻害している様にも感じるかもしれないが、全く厨房の知識もなく右も左も分からない俺にとっては非常にありがたい。次に何をやれば効率が良いのかも分からないので、俺の性格的な問題なのかもしれないが、マジでキャサリンさんがやべぇ!

 俺の話も真剣に聞いてくれるし、マジで理想の上司過ぎる。

 顔とか肉体とか、本当に怖いし圧迫感が半端ないが、それでも余りあるその器のデカさに、本当に心の底から尊敬してしまう。

 キャサリンさんはこの二ヶ月で、確実に俺の好感度を一番稼いでいる。俺の中のキャサリンさんの評価ウナギ登りだな。

 抱かれたくはないが、一生ついて行きたい。学園卒業後は、ここに就職したいぐらいだ。


 ん?あれ?おかしいな?俺このままだと『幻のキャサリンルート』に入ってしまいかねないぞ。これ誰得なの?



 いやいや、それだけはあってはならない。

 え?本当に違うよな?か、神様?そんな展開いらないからね?フリじゃないよ?本当だぞ?




*****




 そして、現在の俺の仕事の事だ。

 今の俺は、変わらずに皿洗いや米炊き掃除などの雑用はしているが、先輩方からも受け入れられ、少しずつ仕込みをさせてもらえるようになった。

 もう、皆は薄々気が付いていると思うが、俺はこの二ヶ月の間ずっとバイトをしている。

ここで「女の子を口説くためにバイトを始めたのではないか?」と疑問に思うだろうが、学園生活以外は大抵この店ではバイトに明け暮れている。


 まぁ『この二か月はずっとバイトしてたんだ!』の一言で済む様な事を長々と説明したが、後悔はしていない。なぜなら、今の俺の現状を知って欲しかったからだ。


 正直バイトが楽し過ぎて、新しい事が出来る様になるのが嬉し過ぎて忘れていたという事も無きにしも非ずなのだが、俺の本当の目的を忘れてはならない。

 俺はここに杏子と仲良くなる為に、口説きに来ていた筈だった。そう、俺がここに来た目的を忘れてはいけない。危うく目的を忘れる所だった。



 そんな事を考ながら作業していると、低く体の芯を揺さぶられる様な声がする。

 そう、その声の主は我が至高なる御方であらせられる、キャサリンさんだ。この声を聞くとついつい首を垂れたくなるが、今は作業中なのでそれは出来ない。


「久ちゃん。仕込みはどう?」

「うっす。これで今日の晩の分は終わります」


 唐揚げ用に切り分けた鶏もも肉の入ったトレイをキャサリンさんに見せると、その大きなその両手を乙女みたいに、胸の前で合わせにこりと笑う。

 仕草は乙女チックで大変可愛らしい……ほら、仕草は、な。


 これを年上のちょっと抜けた「あらあら、まぁまぁ」が似合うお姉さんがしたら、すかさず求婚してしまうぐらいの破壊力がある筈なのだが、キャサリンさんのそれは何かが違う。

 ここで『何か』と誤魔化したが……そうだなぁ、俺から語れる事があるとしたら、ただ手を合わせると言う動作だけなのに、その風圧は凄まじかったとだけ言っておこう。頭のいい諸兄ならこれだけで俺の言いたいことは伝わる筈だ。


「あ~らぁ~!仕事速くなったわね」

「いえ、まだまだです。それにこれは右も左も分からなかった俺に、丁寧に指導して頂いたキャサリンさんのお陰です」

「あらあら、嬉しい事言うわねぇ。お姉さん嬉しいわ~」

「いえ、事実なので」

「ふふふ。なら、有難くその言葉を受け取っておくわぁ~」

「はははっ」

「ふふふ~」


 と、まぁご覧の通り良い感じだ……って、BA☆KA!


 いや、違う。ついつい『つ〇だ☆ひろ』みたいな勢いでノリツッコみしてしまったが、違うんだ!そうじゃない。コレジャナイんだ!

 職場的には最高の環境であることには異論はない。やっている仕事も楽しくなってきたこの感情も否定はしない。素晴らしい上司に恵まれた事も感謝しよう。

 そんな素晴らしい職場ではある……だ!が!ここは相手が違う。違うのだよ!


 ここで談笑する相手は杏子であってほしいのだよ。

 決して、キャサリンさんを悪く言うつもりはないのだが、誰が筋肉ダルマとキャッキャウフフをしたいだろうか?否だ!断じて否だ!

 俺は女の子とキャッキャウフフのイチャイチャムフフをしたいだけなんだよ!女の子を欲望のままに『ら、らめぇぇえええええ!!』とか『しゅ、しゅごいのぉぉおおお!!』と言わせてみたいだけなんだよぉ!!女の子の軟肌を蹂躙したいだけなんだよぉぉおおお!!!



 だが、誠に遺憾ながら、俺がキッチンで、杏子はホールなので、仕事中は個人的な会話などほぼ出来ない。

 それは杏子の真面目な性格もその原因の一つなのだが、会話らしい会話はほぼない。むしろ、この二か月の間、俺は一番キャサリンさんと言葉を交わしたかもしれない。


 そうだな。杏子との会話といえば、例えば――


「オーダーです。シザーサラダ、カラアゲ、デミオム、ツー」

「了解」

「オムライス、ツー。三卓にお願いします」

「分かりました」


 ――といった、オーダーのやり取り。

 他には――


「金田君休憩に入って下さい」

「了解。黒川は?」

「私はまだ仕事があるので、では」

「あ、ああ」


 ――といった業務連絡ぐらいだ。


 これはどう言った了見なのだろうか?こんなのは、俺が望んだ楽しいバイトライフではない。

 いや、お金を貰っている以上は真面目に働くのは当たり前だ。当たり前なのだが、そうじゃない!そうじゃないだろう!?それだけというのは……悲し過ぎるだろう!?


 後は帰りや休憩で一緒になるかどうかなのだが、休憩は空いた時間に皆が被らない様に時間をズラして取る為あまり一緒にならず、更に杏子は仕事が終わったら直ぐ帰ってしまう。杏子は休憩室で誰かを待つなどした事が無い。

 バイトが同じ時間に終わっても俺はキッチンなので、閉店までの閉め作業をしていると、俺の作業が遅いのかそれとも杏子のレジ閉めや掃除が早いのか、そこは分からないが、どうしてもキッチンの掃除やらに時間がかかってしまう。

 そして、仕事が終わり上がる時には、当然の様に杏子がいない。もしくは女性の先輩の車で一緒に帰っている。


 どうしてこうなった!?


 ここはもっとほら?「外暗いから送っていくよ?」とか、休憩時間一緒になって色気のある会話があるとかさ、他には「あっ、帰り道同じだし、途中まで一緒に帰る?」みたいな事があってもいいんじゃないのか!?

 そんなこっちはさ、送りオオカミとかしないしする度胸ないんだからさ、もうちょっとなんかあってもいいと思うのは、俺だけなのだろうか?


 あの校門で会話した時、杏子の事を『ちょろイン』なんて馬鹿にしたが全くもって違った。誰だよ?杏子を『ちょろイン』とか言った馬鹿は?

 全然ちょろくないんだよ!ガードが固過ぎだよ!この人!あんな浅はかな考えしか出来ない、あの時の俺をぶん殴ってやりたい。もう「これだから童貞は……」と罵ってやりたい!

 いや、言い訳する様であれだが、こっちも頑張ってメールするし、バイト行く時一緒になったら日常会話だが会話はするんだ。するんだけど……これでいいのでしょうか?田中師匠?

 ここはエロゲの世界で間違いないのでしょうか?神様?もっと、エロゲの様にサクサクとフラグは立たないものなのでしょうか?




*****




 そんな俺の心が悶々としている時、ある事件が起こった。


「か、金田君!た、大変です!」

「お、おう。どうした黒川?あ、あれだ。ひとまず落ち着け?な?」


 久々に仕事中、杏子に仕事関係でない言葉を投げかけられて、俺は焦ってしまった。

 落ち着けと言いつつ、自分も落ち着く時間を稼ぐ。だが、杏子の言葉の続きを聞き、落ち着いていられる状況ではなくなる。


 それは――


「あの、色、色部君達が店に……」

「透が!?」



 ――そう、それは我らが主人公である、色部透の襲来だった。




 *****




 さて、では今の状況を説明しよう。


 透とヒロイン達――透ハーレムの来訪により、杏子はホールで戦力外となり、店の奥で在庫整理などのホールに出なくてもいい仕事をしてもらった。

 俺もキャサリンさんが『友達が来ているなら、少し話して来てもいいわよ~』という言葉を有難くも頂戴したので、休憩に入り透のいる席へとお邪魔した。


 お邪魔したのはいいのだが、ここのメンバーは、透と『きみとも』ヒロイン達であり、男女比がおかしい。そだな「男、女女女女おんなぁぁぁああああ!!」って感じだ。

 なんだろうな?この圧倒的リア充オーラ。

 ここまでくると逆に笑えてくるな。とりあえず、笑っておくか?HAHAHA!……はははっ……ははっ……はぁ…………いや、無理だ。

 普通に笑えない。全くもって笑えない。一ミリも笑う要素なんてない。

 純然たる殺意しか湧かない。今なら視線で人を殺すことだって出来る。なんなら目からビームだって出せる筈だ。なんてたって俺は主人公の親友なのだから、それくらいできる筈だ、うん。


「で、透達はなんでここに居るんだ?」

「いや、それが久しぶりに茜とデートしていたら、桜と会ったんだよ」


 いやいや、妹と遊びに行く事はデートじゃないからな?まぁ、シスコン透に対して、口に出して言わないけどさ。

 ほら?俺達の話を聞いていたのか、茜が「もう、デ、デートだなんて……」とか満更でもない感じで、両手で頬を包みイヤンイヤン言っているし、それを見て、腹黒凛は体から負のオーラ出しているし……俺はこれに関してノータッチを貫こう。


 藪を突いたら、蛇どころか悪魔の大公爵様が出てきそうだからな。


「それで?」

「そうしたら、桜と凛に会ったんだよ」

「……ほう」


 そんな、ほいほい知り合いに会うものなのか?いや、ここはゲームの世界だから在り得るのか?もしやそんな都合の良い乱数調整的な事がされているのか?

 桜を見ると、ついて来たはいいが、誰と何を話したらいいのか分からないのか、頬を膨らませてジュースを飲みながら、ちょっと不貞腐れている。

 そんな顔を見ていると、その美味しそうな頬にかぶりつきたいが、残念ながら、今はその時ではない。


 まぁ、その素直になれないアホの子である桜は、偶然の出会いに嬉しくなって、ついてきたのかもしれないな。だが、凛は茜の後をつけて、出るタイミングを見計らっていた可能性だってある。

 凛はヤンデレ気質あるしな……うん、ここは何も気付いていないという事にしよう。それがみんなの為だろう。


 ほ、ほら?友情ってさ、何でヒビが入るか分からにしな。


「折角だし、一緒に遊ぶ事になってね。それで一緒にショッピングしていたら、そこで唯姉ちゃん達と会ったんだよ」

「……ほ、ほう」


 唯と椿は二人で会話している。

 美人二人は会話しているだけでもよく栄える。見ているだけで幸せになれそうだ。

 図書室で椿に確認したが、やはりこの世界でも二人は仲が良いのだろう。俺の視線を感じたのか、唯は笑顔で手を振ってくれる。


 くそっ可愛いなッ!流石は(絵師さん)に愛されているだけはある。


 そして、俺の方を全く見ようとしない椿ではあるが、若干頬が赤い事から、あの件を引きずっているのかもしれない。二か月経ってもこの調子なのには少し寂しく思うが今はそんな事はいい。

 ただ今俺が思うのは、是非とももう一度足元に投げ飛ばして欲しいという事だ。痛いのはあまり得意ではないが、ぶっちゃけ「おパンツ様を拝ませて欲しい」という純粋な好意だけだ。


 というか、透の話を聞くと改めて思うが、これはアレだ『これなんてエロゲ?』だな、いや『きみとも』っていうエロゲでしたね、ええ。

 本当になんというヒロインとのエンカウント率なのだろうか。なんという圧倒的主人公補正。某RPGの始まりの街の草むらにいる、スライムさんより何気に高いよな。

 誰がこんなピーキーな設定にいじったのかしら?お兄さんビックリよ?


「それで、皆でボーリングをしたんだ。少し休憩しようと思ったら、丁度良い所にカフェがあったから、ここに入ったって訳だね」

「……マジかぁ」


 俺が汗水流して働いている時に、透さんはめちゃくちゃリアルを充実させていたと言う訳ですね。

へぇ、俺なしで?主人公の親友である俺なしで……ねぇ。

 なんだ?一枚絵のCGイベントでもしていたのか?俺なしで?流石はリア充。流石は主人公。流石はイケメンだ。


 くっそぉぉぉ滅んでしまえぇぇえええ!!!!!


「はぁ……」


 そして、ここまでヒロインを集めて、キャッキャウフフしても足りないのか、最後のヒロインである杏子を回収する為、偶然ここに来たという訳だな。

 これはもう、(ディレクターさん)が導いたとしか思えないな。こんな偶然ありえないからな。もしくは、(シナリオライターさん)かな?いやもう、どっちでもいいけどさ。

 神の仕業って事だろうな。


 状況を整理すると、俺はこんなイベント知らないから、ここで新規シナリオ的なものでもあるのかもしれない。

 もしくは、ヒロインの誰かの重要イベントか?透は誰か特定の相手と付き合っている様には見えないので、今がまだ『共通パート』だと仮定すると、皆が一緒に居るイベントCGでもあるのだろうか?

他に考えられるのは、俺がバイトを始めたせいで起こってしまったバグイベント。もしくは、本当に偶然という可能性もある……のかもしれない。

 それとも俺がバイトに勤しんでいたこの二ヶ月で、透は誰かのルートに入ったのか?たった二ヶ月でか?いや、透からすると二ヶ月もあったと言うべきなのか?


 くそっ!分からない。やっぱり情報が足りないな。


「…………」

「ん?久?どうかしたのかい?それより、バイトしているのは知っていたけど……ここだったとは思わなかったよ」

「あ、ああ。いや今更だが、内緒だぞ?……ほら、知り合いにバイト先に来られるのは、恥ずかしいからな」


 透に当たり障りのない言葉を適当に返すが、さてさてこれは大問題だ。

 とりあえず杏子をどうするかを考えた方が良いのか?それとも、これは流れに身を任せるべきなのか?

 今はそれほど忙しくないから、杏子は休憩室に避難する事は可能だが、これが忙しくなってくると、ウエイトレスとしてここの可愛らしい制服で、こいつらの前に出なければならない。バイトしているのだから当たり前だが……問題は透だ。


 普段きっちりしている杏子が、ここの可愛らしい制服に身を包んで、恥ずかしそうに作業する所を、透が見たらどう思うのだろうか?

 俺は勿論、雲を突き抜け天を突く勢いで杏子への好感度が上がった。これが田中師匠の言っていた『ギャップ』だと肌で感じた。だって、最高に可愛かったからな。次の暗転でいきなりHシーンに突入しても、何も問題ないくらいに可愛かったからな。

 俺がそこまで可愛いと感じたのだから、もしここで透にその姿を見て、惚れてしまったらどうしよう?

杏子は本当に性格も良いし可愛いし、透が杏子と付き合うルートがあるのだから、考え過ぎという事はないだろうが……それはなんか嫌だな。

 別に俺は杏子と付き合っている訳じゃないけど、嫌なものは嫌だ。

 となれば、最善は透達に杏子がここでバイトしている事を隠し通す方向だな。

 そうしたら、透は杏子の姿を見る事はないし、杏子に恩を売れるという少し邪な考えもある。ここはキャサリンさんにお願いして、杏子を避難させた方が良さそうだな。


 そんな事を考えていたら、ドアからお客様が入ってくる。


「いらっしゃいませ!『ルーエ』へようこそ!」


 先輩の声でそのお客様を見ると、そこには――


「おーほっほっほ!わたくしがいらっしゃったわよ!」


 ――そう、そこには『おーほっほ』と高笑いする、金髪ドリルと護衛らしき黒服がいた。

 流石は登場キャラ全員がバグっていると定評のある『きみとも』だ。モブキャラにもぶっ飛んだ奴がいるんだな。

 こんな所にも気を抜かないとは、作品への愛を感じるぜ!


 思考が明後日の方向に飛んでしまった俺と違って、お客様の対応をしていた先輩は、その金髪ドリルのキャラの濃さに一瞬固まった後、直ぐ再起動し、にこやかに笑いながら接客する。

 先輩のプロ根性マジパねぇっす!!


「何名様でしょうか?」

「見て分からないかしら?」

「申し訳ございません……三名様ですね?」


 その返しにも先輩は動じない。流石はキャサリンさんの居城だ。

 先輩も「これぐらいの事なら問題ない」と言わんばかりに、クレーマー対策がしっかり出来ている。


「違いますわ。高貴なるわたくし一人と、犬二匹ですわ」


 マジか?そんな返しがあるのか?これは予想外だ。

 流石の先輩もこの返しには……。


「誠に申し訳ございません。当店はペットのご同伴方はお断りしております」


 凄まじいカウンターだぁあ!!先輩超スゲぇっす!マジリスペクトっす!

 流石これには金髪縦ロールと言えども、返す言葉はないだろう。


「そうですの?でしたら、高貴なるわたくしだけでよろしくてよ?」

「畏まりました。高貴なるお客様、お一人様ですね」


 先輩は最後の最後まで、相手にやり込まれる事なく完璧な笑顔でその場をのりきった。

これが本物の接客というやつなのか?俺には「この接客をやれ」と言われても、決して真似出来ないだろう。

 接客のなんたるかを――いや、深淵を少し垣間見てしまった。


「すまん、透。話は途中だが、お客様が入ったからキッチンに戻る」

「分かったよ。また今度バイトについて詳しく聞かせてよ」

「ああ」


 俺はその言葉に席から立ち、キッチンへと戻る。

 さぁ、まずはキャサリンさんと死闘(交渉)だ。




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