第73話 運命は再び交わる
自分の身に何も起こらないことを不思議に思ったミカが目を開ける。
彼女が目にしたのは、魔物の前に立ち塞がる一人の青年の後ろ姿だった。
如何にも旅人といった風の身軽な服装。革鎧を着込み、背には大剣を背負い、両手には細身の剣を一本ずつ持っている。
木漏れ日を浴びて藍色に輝く黒髪が風に揺れている。
青年はポイズンアイビーとの距離を一気に詰め、手にした剣を十文字に振り下ろした!
ざしゅっ!
体を十字に切り裂かれたポイズンアイビーは力を失い、ばらけてその場に転がった。
青年は手にした剣を腰の鞘に戻し、ミカの方に振り向いて手を差し伸べてきた。
「大丈夫ですか?」
「……あ、ありがとう」
ミカは差し伸べられた手に掴まり、立ち上がる。
青年はにこりと微笑んで──
その表情が、急に変化した。
目を見開いて、ミカの顔をじっと見つめている。
「……あの、何か?」
小首を傾げるミカ。
青年は掴んでいるミカの手をぎゅっと強く握った。
「……ミカさん?」
「え?」
ミカの訝りは、次の瞬間驚愕に変化した。
青年が、いきなりミカの体を引き寄せて抱き締めてきたのだ。
「ミカさん!」
「え、ちょっと、何? 痛い……」
ミカは身を捩って暴れた。
青年は体を離し、ミカの両肩を掴んで、言った。
「ずっと君を探していたんだ。ようやく……ようやく会えた!」
「?……?」
「僕のこと、覚えていない?」
青年は微笑んで、自分の胸元に手を当てた。
「アレクサンダーだよ」
アレクサンダー。
その一言に、ミカはハッとした。
彼女の心の底に閉じ込められていた記憶が、一気に蘇る。
忘れるはずがない、想い人の名前。
彼女の目の奥が、一気に熱くなった。
「……アレ、ク?」
彼女の問いかけに、アレクはこくんと頷く。
ミカの目から、ほろりと涙が一粒零れて落ちた。
「アレク!」
彼女はアレクに抱き付いた。
「今まで何処にいたの……私、一人で淋しかった! このまま一人で暮らさなきゃいけないのかって、思ってた」
「ごめん。君を探して世界中を回っていたんだ。そのせいで、此処に来るのが遅くなってしまった」
アレクはミカを優しく抱き締めた。
「もう、離れない。離さないよ。僕たちはずっと一緒だ」
「……うん」
アレクの胸に額を付けて、ミカは頷く。
顔を上げて、上目遣いにアレクの目を見て、言った。
「お願い……キス、してくれる?」
アレクはにこりとした。
「いいとも」
唇を重ねながら、ミカは思った。
アレクの温もりを感じる。それが何だか不思議なようで──とても、懐かしいと。




