第61話 デュラハンは決意する
扉の奥には、小さな部屋があった
生活に必要な家具が揃えられた埃っぽい空間。確かに人が此処で暮らしていたであろう痕跡を残した静かな場所。
その中に、ミカはいた。
彼女はベッドの上に座り、ぼんやりと前を見つめていた。
着ている服は無残に引き裂かれ、ただの布切れと化して彼女の体に引っ掛かっている。
全裸と遜色のない姿の彼女に、アレクは目を見開いて息を飲んだ。
「……!」
慌ててミカの傍に駆け寄り、彼女の肩を掴んで揺する。
「ミカさん!」
「…………」
呼びかけると、ミカはぴくんと反応を示した。
前を向いていた彼女の視線が、ゆっくりと動いて、アレクの顔を捉える。
「……アレ、ク?」
口の中を怪我しているのか、話し方がたどたどしい。
「どうして……アレク、が、此処にいるの?……」
自分が裸でいることをまるで気にしていない様子だ。
アレクはミカの様子に、表情を歪めて奥歯を噛んだ。
ミカが此処で乱暴されたであろうことを察したのだ。
何てことを……!
アレクは腹の底から怒りが湧いてくるのを感じ取っていた。
今すぐフリーを追いかけて、制裁を加えてやりたい。その思いを堪えながら、彼は着ていた上着を脱ぐ。
それをそっとミカの肩に掛けてやると、ミカは小さな声で、言った。
「……私……汚されちゃった……」
ぽろり、と涙が一粒、頬を滑って落ちていく。
「汚されちゃったよ……!」
「……ミカさん……!」
アレクはミカを両腕で抱き締めた。
その様子を、レンは複雑な表情を浮かべて黙って見つめていた。
「私は天冥騎士団の詰め所に今回のことを報告しに行く。お前たちは先に帰っていろ」
教会を出たところで、レンはアレクたちと別れて天冥騎士団の詰め所がある方へと去っていった。
上着を着せたミカを抱き上げたアレクは、旅館を目指してゆっくりと歩き始めた。
ミカは嫌なことを忘れようとするかのように、アレクの腕の中で眠っていた。
その表情は穏やかで、アレクが傍にいることに安心している様子だった。
一方、アレクの表情は暗い。
ミカを守ってやることができなかった。その思いが、彼の顔に暗い影を落としていた。
……僕は、どんなに避けられてもミカさんの傍にいるべきだったんだ……
自分の腕の中にいるミカに視線を落とす。
もう、離れない。離すものか。絶対に。
自分に言い聞かせるように決意の言葉を繰り返し、口元を引き締める。
頭上を横切っていった鳥の群れが、彼の思いを運んでいくかのように行く先に向かって飛んでいった。




