第58話 殺劇の舞台は上がる
「此処だよ」
少年の案内でアレクが辿り着いたのは、街の外れに建っている寂れた教会だった。
壁には蔦が這い、ステンドグラスは曇っている。入口を閉ざしている扉には何かで殴り付けられたような傷が付いており、塗装が剥がれていた。
建物のてっぺんには釣り鐘があるが、使用されている痕跡がなく、完全にただの飾りと化している。
成程……使わなくなった教会を溜まり場にしているのか。
アレクは少年の横を通り過ぎ、入口の扉に手を掛けた。
扉は重たく、ぎっと軋み音を立てながら内側に開いた。
中には、椅子が整然と並んだ教会らしい光景が広がっていた。
部屋の広さはそれなりにあるが、足場の大部分が椅子に占拠されているため広さはあまり感じない。
ステンドグラスから差し込む七色の光が室内を虹色に照らし、古めかしいながらも厳格な雰囲気を醸し出している。
部屋の最奥にある教壇の後ろには、古い十字架が誂えられている。手入れはされていないようで、元は綺麗な金色をしていたであろう表面は曇っていた。
アレクは静かに部屋の中を進んだ。
開きっぱなしだった入口の扉がばたんと閉まる。
と。それを待っていたかのように、何処からか声がした。
「待ってたぜ、お兄さん」
教壇の両脇にあった小さな扉が開く。
そこから、太い木の棒を担いだ男が姿を現した。
「俺たちの復讐の舞台にようこそ。あんたには、これからたっぷりと地獄を見てもらうぜ」
「……ミカさんを返せ」
アレクは男を睨み据えて、低い声で言った。
男は肩を竦めた。
「あの小娘なら、ボスと一緒にいるぜ。今頃お楽しみの最中なんじゃねぇか? 羨ましい話だよなぁ、俺もやりたかったぜ」
「……!」
下品な笑いを零す男との距離を一気に詰めるアレク。
男の襟首を掴み上げ、声を荒げた。
「貴様、覚悟はできてるだろうな!」
「それはこっちの台詞だ。俺がわざわざ一人であんたの相手をすると思ってたならおめでたい奴だぜ」
男は指を口元に当てて、指笛を鳴らした。
甲高い音を合図に、扉から出てきたのは二十人ほどのならず者たち。
誰もがナイフや棍棒などの武器で武装している。
男は襟首を掴んでいるアレクの手を振り解くと、声を張り上げた。
「アンデッドは大人しく動かねぇ死体になってりゃいいんだよ! ばらばらに解体して犬の餌にしてやるぜ!」
わっと声が上がる。
殺到してくる男たちを真正面から見据えながら、アレクは拳を構えた。
ちらり、と男たちが出てきた扉に目を向ける。
あの奥にミカさんがいるはずだ。こいつらを片付けて、助けに行く!
待っていて下さい、ミカさん!
奥歯をきりっと噛み締めて、彼は大きく一歩を踏み出した。




