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ホテル・ミラージュで休息を  作者: 高柳神羅
32/74

第32話 大人になりたい

 ぼふっ、と布を叩く音が時計の音に混じって聞こえてくる。

 ミカが枕を拳で叩いている音だ。

 部屋に駆け込んでから、彼女はずっとこの調子であった。

 ベッドに突っ伏し、八つ当たりのように枕を叩き続けて。

 声にならない声を上げていた。

 その胸中にあるのは、悔しい、という思い。

 レンに子供と真っ向から言われたことが、相当堪えているようだった。

 ……私は子供だけど……それは分かってるけど……

 アレクの前で、それを言われたくなかった……!

 悔しさで、涙が滲んだ。

 彼女は、生まれて初めて。

 大人になりたいと、心の底から思ったのだった。

「……ミカちゃん?」

 廊下の方から、声。

 畳んだタオルを持ったリルディアが、部屋の中を覗き込んでいた。

「アレクちゃんに言われて来たんだけど、大丈夫? 何があったの?」

「……リルディア」

 ミカは伏せていた顔を上げて、涙で頬を濡らした顔をリルディアへと向けた。

 リルディアは怪訝そうな顔をしながら部屋へと入ってくる。

 タオルをテーブルの上に置き、ミカの隣に腰を下ろした。

「泣いたりなんかして、せっかくの可愛い顔が台無しじゃないの。どうしたのよ」

「…………」

 ミカは身を起こして、リルディアの横に座った。

 床に目を向けたまま、涙を拭おうともせず、小さな声で言う。

「……アレクは……私が傍にいると迷惑なのかな……」

「はぁ?」

 眉を顰めるリルディア。

「何で? そう思うの?」

「私は子供だから……アレクとは釣り合わない……」

 ミカは先程レンに言われたことをそのままリルディアへと伝えた。

 それを聞いたリルディアが、呆れたように溜め息をつく。

「あのねぇ……ミカちゃん。それ、アレクちゃんが言ったわけじゃないんでしょ」

 ミカの背に手を添えて、彼女の顔を覗き込んだ。

「アレクちゃんが言ったんじゃないんだから、気にすることなんてないわよ。そんなの後から来た女の嫉妬とでも思って横に流しちゃいなさい」

「……嫉妬……」

「そうよ。その女はね、きっと貴女がアレクちゃんとデートしてきたことが気に食わなかっただけなのよ」

 大体ね、とリルディアは笑った。

「アレクちゃんが貴女のことを迷惑だと思ってるなら、わざわざあたしを捕まえて此処に様子見に来させたりなんてしないわよ。だから大丈夫。アレクちゃんは、貴女のことをちゃんと大事に思ってくれてるわよ」

 だからもう泣くのはやめなさい、そう言われ。

 ミカはぐすっと鼻を鳴らしながら、手の甲で涙を拭ってこくんと頷いた。

 リルディアはミカの肩を抱いて、自分の方に抱き寄せた。

「恋に歳の差なんて関係ないわ。結局は好き合った者勝ちなのよ」

 好き合った者勝ち。

 ミカは、街にいた時のアレクの様子を思い出した。

 一緒に食事をして、ならず者から守ってくれて、手を繋いでくれて。

 面と向かって好きだと言われたわけではないけれど、そこには確かに、自分に向けられている愛情があった。

 その愛情は、ひょっとしたら親が子に向ける愛情のようなものなのかもしれないが。

 確かに、彼の愛情は存在していたのだ。

 少なくとも、自分は彼に嫌われてはいない。

 そう思うと──少しだけ、心が軽くなった。

「……ありがとう、リルディア」

 ミカはリルディアに言った。

「私、諦めない……私は子供だけど、アレクに傍にいてほしいって思われるような、女の子になる」

「その意気よ、ミカちゃん」

 リルディアはミカの頭を撫でた。

 壁の時計に目を向けて、言う。

「ほら、そろそろ夕食の時間よ。御飯食べていらっしゃいな」

「うん」

 ミカはぱっとベッドから立ち上がって、ぱたぱたと部屋から出ていった。

 リルディアはふっと小さく息を吐いて、テーブルに置いたタオルに手を伸ばした。

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