第26話 少女は死を求め青年は生を乞う
アレクはミカに色々な話を話して聞かせた。
この世界のことや、自分のことなんかを。
彼は今の旅館に百年勤めており、その間に色々な出会いや別れを経験してきたと、懐かしいものを見るような目をして語った。
毎日異なる世界から訪れる、世界渡りをする旅人たち。
今でこそ旅館が賑わうほどにいる彼らも、最初の頃は片手で数えられるほどしかいなかったんだよと言って笑うのだった。
死者の百年は刹那の出来事だ。
彼にとって旅館で過ごしたこの百年は、駆け抜けるような日々であったことだろう。
ミカはアレクがする話を、頷きながら黙って聞いていた。
彼女にとってアレクが語る話は、まるで与えられた宝物のように輝いたものばかりであった。
自分しか知らない、アレクのこと。
それを教えてくれているという事実が、彼女に大きな満足感と優越感を与えてくれていた。
人間は、何と貪欲な生き物なんだろうね。
ひとつのものを手に入れるために足掻いて、努力して、手を伸ばして。
そんな必死に生きる生き物だからこそ──美しいのだろうと、私は思うよ。
「ミカさんは……怖いとは思わないんですか? 僕のこと」
彼は、急に真面目な顔になってミカに問いかける。
怪訝そうに目を瞬かせる彼女に、続けた。
「僕は人間ではない、怪物です。生きた人に恐れられることはあれど、好かれる資格なんてないと思っています」
彼は首輪をついとずらして、首の継ぎ目をミカに見せた。
彼が命の温もりを持たぬ死者であることの証──
ミカはそれを、複雑な表情をして見つめている。
彼女にとってアレクが人間でないことは、既に承知の上の事実だ。
自分とは住む世界が違う存在であろうことは、薄々と感じ取っていた。
それでも。
ミカはううんと首を振った。
「……アレクは、アレクだから」
自分の心の中にある彼への想いを形にするように、一言一言をゆっくりと口にする。
「例えアレクが怪物でも、優しいアレクだってことに変わりはない。……大体、人間であることってそんなに大事なの?」
彼女は目を伏せた。
「人間の方が……よっぽど、怖い生き物だって思う」
握られた拳が、きゅっとワンピースのスカートを掴む。
「私は……アレクと同じになりたい。アレクが見ている世界を、一緒に見られるようになりたい」
「……ミカさん」
アレクはミカの手に目を向けた。
生々しい傷痕の付いた手首を見て、彼女がこの世界に来る前に感じていたであろう絶望を感じ取る。
きっと彼女にとっては、自分が生きた人間であることなど希望でも何でもないのだろう──
そう、思うと。
彼は、自然と彼女の手を握っていた。
びくりと身を跳ねさせるミカ。しかし構わず、彼はぎゅっと手に力を入れて、ミカの手を強く握る。
「……僕は、生きている貴女の方が羨ましいと思っています。怪物になんて、なるものではありませんよ」
「…………」
ミカは握られた手をそっと握り返した。
温もりはなくても、しっかりとした手の形がそこにある。それを感じられるだけで、嬉しかった。
それから二人は、無言のまま並木道を歩いていった。
次第に近付いてくる街の大通り。行き交う人の群れと、賑わい。
まるで離れないようにと互いに願うかのように。
二人は手を繋いだまま、大通りに足を踏み入れた。




