第19話 少女、お洒落をする
試着室から出てきたミカを見て、リルディアは両手をぽんと叩いて感激の声を上げた。
「可愛い! やっぱりあたしの目に狂いはなかったわ!」
「…………」
ミカはもじもじと自分が着ているワンピースのスカートを弄りながら、傍の鏡に映っている自分の姿を見た。
純白の清楚なデザインのワンピースを纏った少女が、じっとミカのことを見つめ返している。
低いヒールの付いたサンダルを履いた足は、白くほっそりとしていてまるで自分の足ではないようだ。
そんなことを考えながら、彼女はリルディアに感想を述べた。
「……私じゃないみたい」
「ほら、言ったでしょ。貴女は可愛いんだからもっと自信を持たなきゃ駄目よって」
リルディアはミカに近付いて、彼女の髪を撫でた。
「けど、この髪型がちょっと暗く見えちゃうのよねぇ」
言いながら、傍の棚に移動する。
そこに陳列されていた白いシュシュをひとつ手に取り、それでミカの髪をアップにして結い上げた。
「うん。こっちの方がいいわ。やっぱりうなじは見せるべきよね」
指先でうなじをついと撫でられて、ミカは思わずびくっと肩を竦ませた。
リルディアは傍に佇んでいた店のスタッフを呼んで、ミカの肩をぽんぽんと叩きながら言った。
「これ、このまま着ていくわ。お会計お願いできる?」
「ありがとうございます」
失礼します、と言ってスタッフはミカが着ている服に付いた値札を外し、カウンターに行った。
リルディアは持っていた鞄の中から財布を取り出して、ミカに笑いかけた。
「これで世の男たちが黙ってないわ。アレクちゃんもきっと貴女に釘付けよ」
「……そう、かな」
「そうよ。ほら、せっかく可愛くなったんだから笑って笑って」
ミカは両手の人差し指で口の端を引っ張って、鏡の中の自分相手に笑いかけてみた。
ぎこちない笑顔を浮かべた自分の姿は、やはり何処か他人のもののように思えて。
生まれ変わったような、そんな気分になった。
リルディアは会計を済ませ、小さな袋を持ってミカの元に戻ってきた。
この袋の中には、ミカが今まで着ていたシャツとズボンが入っている。スタッフがわざわざ詰めてくれたのだ。
「それじゃ、行きましょ。街の男がどれだけ貴女に注目するか見ものね。楽しみだわ」
言って、ミカの手を取って歩き出す。
二人は太陽の日差しが降り注ぐ明るい大通りを歩き始めた。
リルディアの言った通り──
すれ違う人々から視線が注がれるのをミカは雰囲気で感じ取っていた。
殆どは妖美が形になったような容姿のリルディアに向けられている視線なのだろうが、一緒に注目されていると考えると、恥ずかしいような嬉しいような複雑な気分になった。
自分のこの格好を見たら、アレクは何と言うだろう。
似合うよ、可愛いねと言ってくれるだろうか──
そう言ってもらえたら嬉しいなと思いながら、彼女は涼しくなった肩で風を切りながら大通りを歩いていった。