第42話 人探し
魔女の人探しは単純である。痕跡を追うのである。
「これはまだ、魔導兵の人達には言っていない事です。いずれ気づく人も現れるでしょう」
ペルダンは呆然としている。
「魔力は全てに流れています。そして一人一人、その波長は異なっている……思い出して下さい、その少女の事を」
ペルダンは思い出す、あの燃えるような赤い髪を、あの美しい茶色の瞳を、あまりにも優しい心を持ったエルフの少女を。
「思い出した。しっかりと」
リーズはペルダンの額に手を当てる。
「エルフは魔導適性が高い……彼女の魔力は微量ですが、貴方の中にもまだ存在しています」
彼女は手を離した。
彼等はシャトーの門前にいた。一部の兵士はこれを見てにやけたりした。
第九軍はこの土地に暮らす職人達にさまざまな物資の供給を依頼し、経済を活性化させようとした。兵士の多くが真新しい外套を着用している。
リーズは辺りを見渡す。
その時、厩舎の方向から騎兵がいくつかやってきた。
「大佐、こちらも準備が整いました」
彼等はカリーネの捜索の手助けをする予定である。
「上を行きます」
リーズは槍にまたがるとペルダンの手を取った。
「なっ…」
「行きましょう。それほど遠くではありません」
魔女はペルダンと共に空を飛び、西に向かった。地上では騎兵隊が彼女達を追う。
移動中は、カリーネと勇者の話をしていたという。
馬よりもはるかに速い速度で移動し続け、5時間が経った。
「そろそろ戻ろう……」
「いえ、反応が強くなっています。あと少しで」
地平線に人の群れがある。ペルダンは目を凝らして見るがよくわからない。だがその数の異様さは一目でわかるほどであった。
凄まじい速度で移動しているため、一瞬のうちに距離が狭まる。
リーズは高度を下げて上空を通過した。
「バール・カンパーニュの戦列歩兵!」
ペルダンは叫んだ。
そして、リーズも大きな声で告げた。
「あの中にいます!」
「何⁉︎ いけるか?」
「はい! チャンスは一度です」
リーズはペルダンを連れてバール・カンパーニュの軍隊の中心に向かった。
2人は目標のすぐ近くに降りた。目の前に降り立った2人に兵士たちは唖然とし、固まっている。
銃を構えようとした数人の兵士を魔女は魔力を流して吹き飛ばした。
ペルダンはすぐに例のエルフを発見した。燃えるような赤い髪は全く色褪せずに、視界にある。
「カリーネ!」
少女は振り返る。だが、手は縄で繋がれていた。
リーズは魔力を器用に使い、兵士の1人から銃剣を奪い取るとエルフの手を縛っている縄に投げた。
縄は解け、ペルダンは彼女の手を取った。
エルフのそばにいた、1人の男は叫ぶ。
「貴様、ペルダンかァ!」
小太りの、目の細い王国の貴族。
セダンの地でペルダンとその部下、そして2人の民間人を不当に捕らえた男である。
「やはりお前、俺の事を知っていて……」
カリーネはペルダンの手を振り払い、最大限の力を込めた拳で、その貴族を殴りつけた。
貴族の男は気絶し、倒れた。
「2人ともこっちへ!」
リーズの声に反応し、2人は魔女の元に走る。
「何をしておるかァ!」
バール・カンパーニュ軍、つまりバール軍の将校が叫び、突っ立っている兵士たちに檄を飛ばした。
「目標ォ! 王国軍の2人とエルフの女! 銃剣構えぇ!」
周辺の兵士たちは3人を囲み、銃剣を構えた。
だが、すでに彼女達は足が地面から離れていた。
「突撃ィ!」
バール軍の兵士達の銃剣は互いにぶつかり合ったのみで、3人に突き刺さる事はなかった。すでに彼女達は上空にあった。
リーズは来た時よりも高速で司令部に向かった。
途中、騎兵隊にバール軍の事を告げた。騎兵達は詳しく偵察してから戻ると言って、別れた。
バール・カンパーニュの大軍の事を聞いたアンブールは直ちに全部隊に召集をかけた。
この時点で、第九軍は9個師団と4個の騎兵師団を持っていた。新鋭の3個師団を新たに加えている。
兵数は20万を超えていた。
第九軍司令部はこれまでの調査結果と現在の状況を王都に伝える事にした。それも魔導兵を用いて半日以内に伝えるのである。
王都では、膠着状態にある東部戦線は現状維持が最善だという考えが大半を占めていた。そこで、舞い込んだ報が西の脅威の再来である。
司令部の考えはやはり一貫していて、西部での第九軍の戦闘は全て魔王軍打倒のための足がかりという考えであった。今回も、増援は見込めない。
偵察の結果、バール軍は歩兵が24万と騎兵が7万という史上最大規模である事がわかった。またも数的不利に第九軍は陥った。
アンブールと第九軍司令部ではこの事態をある程度は予測していたため、各軍団への命令は円滑に行う事ができた。だが、本格的な作戦の通達は王都からの返事が届いてからという事になった。
魔導兵による伝令を王都に向かわせてから2日後、王都からの返事がやってきた。
内容は東部戦線がしばらく膠着状態にあり、兵器、兵力の面で攻勢に出る事は不可能な事をあげ、魔王軍を打倒するためにも「西方の憂いを断っておく必要がある」と書かれていた。そして最後に「バール・カンパーニュが保有する戦力を無力化し、場合によっては占領も視野に入れた行動をせよ」とあった。
この解釈の余地を残した回答を見て、アンブールはバール国への本格的な侵攻を決心した。
第九軍の軍団長、師団長を集め10月23日に会議が開かれた。アンブールは自らの考えを伝え、皆賛同する意を示した。ただし、バール国本土への侵攻計画は新たに「バール侵攻作戦本部」を設置し、一月以内に種々の情報を集め作戦計画を立てさせる事にした。
まずは西の平原のバール軍31万を駆逐しなければならない。
第13次王国・バール戦争が始まろうとしていた。




