第37話 秋の訪れ
二日の偵察で、エルヌ川が豪雨によって氾濫していた事が判明した。これが魔王軍の進行を遅らせた事は明らかだが、防衛はセーヌ川とその支流で行われるため、王国軍に影響はない。
十月四日になっても、王都東側の魔王軍に攻撃の動きは見られない。一方で、王都より北側のセーヌ川東岸にも魔王軍が到達し始めた。
ジョフルの考えでは、魔王軍の目的は王都や、工業都市ケルクヴィルなど主要都市の攻略にあり、その間にある農村地帯などは攻撃を受ける可能性は低かった。
事実、偵察結果が正しいなら、ケルクヴィルと王都の間を守る第二軍、第三軍正面の魔王軍は11万人と、戦線の広さに比べて少ない兵力が配置されていた。
十月七日、ケルクヴィル軍と第一軍の正面にも魔王軍が到達した。敵兵力はおよそ20万と見積もられた。
しかし、魔王軍の数が合わない。ケルクヴィル方面は20万、王都正面に18万、その間に11万の計49万である。ジョフルの考えでは、少なくとも31万の兵力が王国東側のどこかに存在しているはずであった。
フレマルは、あれだけの兵力を支える兵站を維持するのには15万が必要だと考え、のこる16万人は後方予備だという報告を、王城に行った。
最終結論は九日に出された。
ジョフル率いる王国野戦軍総司令部は、この不明の31万に対する術として、予備軍団を使う事にした。
先日編成した第一予備軍団に、第六、第七、第八軍からも師団を引き抜いて、第二予備軍団を編成する。第一予備軍団はケルクヴィルから南南西に40ディスタ、第二予備軍団は王都から北西に30ディスタの位置に配置する。これらは、敵が不明の31万を投入した際に、その戦域を担当する王国軍に編入して対抗するというものであった。
十月に入り、王都方面では短い秋の季節となった。次第に一日の平均気温も下がり、樹木は色づき、日照時間も少なくなっていく。だが、ロアール川より西は東に比べて、秋の訪れは2週間程遅い。
ロアール川より西は、西風が十月の半ばまで吹き、北からの冷気をふせぐためである。
強大な魔王軍が目前に迫っているにもかかわらず、王都の住民たちはいつもと変わらぬ日常を過ごし、王族と中央諸侯も疎開の可能性は否定した。
つまり、彼等は、魔王軍は王国軍によって打ち負かされると考えていた。
ただ、王都内の工場については、疎開が行われている。既に100名の工員と2つの工場が移転し、魔王軍に備えていた。
親衛隊は、機関紙の発行を開始していた。王と軍の許可も得ている。
十月九日に第1号が配布された。その内容は『ポワチエの四将会談』である。西の勝利が近い事を強調し、国民の士気を高める内容になっていた。
私は親衛隊の組織をより強固なものにする為の活動をしていた。各部隊長の声を聞いて訓練内容を変更したり、小隊や中隊同士で模擬戦を行わせた。
そして、十月十一日。
4日連続で晴天であり、川の水深はかなり浅くなっている。防衛線の構築は完了していた。
この日の明朝は霧があったが、日が上がる前に風が吹き始めた為消え去った。視界は良好で気温も涼しく、風も吹き、過ごしやすい一日になるはずであった。
魔王軍による攻撃が開始された。王都正面の防衛線に砲弾が降り、銃撃が加えられた。
砲声は防衛線から5ディスタ離れた王都外縁まで聞こえていた。
王都防衛の要である第四軍の軍司令官、九人の騎士長ロンサンは既に覚悟を決めていた。
「ロンサン卿、攻撃が開始されました」
「そうか……陣地の様子は?」
「各陣地は堅牢、敵の侵攻を押しとどめております」
「よし、部隊の状況を逐一報告させるように各軍団に徹底させろ」
「はっ」
伝令はすぐさま司令部を出た。
ロンサンは、この王都防衛戦が勝利に終わった後には卿の地位から退く事を王に告げていた。
副官と参謀達も彼の意思を汲み取り、王に勝利を献上する為、ロンサン翁の為、全身全霊をかけるつもりであった。
王国歩兵は敵が川に達するまで射撃を控えていた。それまでは砲兵のみが魔王軍に弾を送り込む。
第四軍の担当正面は、発砲による白煙で覆われていた。東岸からは、魔王軍が川面に駆け下り、木製の小舟を出して西岸に向かう。小舟には10人ほどが乗っていたが、王国軍の多砲身斉発砲と小銃の射撃によって殆どが川の半分を渡ったほどで死傷した。
しかしながら、魔王軍の兵士はセダンと同様に優秀であった。彼らは決して攻撃の手を緩める事はなく、砲撃を王国軍の防衛拠点に集中し、確実に対岸へ渡った。戦闘開始から一時間後には、第四軍中央に橋頭堡を築いたが、これは王都から5ディスタも離れていない位置である。
魔王軍の橋頭堡は東西に50レヒ、南北に80レヒの広さがあった。西岸にたどり着いた兵士達は王国兵と戦闘をしながら、川に橋をかけようとした。
この地区を担当していた王国軍第六十師団は予備兵力を全て投入し、この橋頭堡を排除しようとした。




