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第29話 第十一軍団

 砲煙が戦場を包んでいた。各種銃砲の煙によって、兵士の視界を一時的に奪っていた。

 この戦場では黒色火薬しか使われていない為である。白い煙によって覆われる情景は、セダンを経験した王国兵達にとっては、霧の悪夢が呼び覚まされるものだった。が、この場合は湖のある北側からの風によって流され、煙は南に流れていった。

 また、数日前に雨をもたらした雨雲も去り、空は晴れ渡っていた。川の水量が増えた事が雨の影響といえる。


 最前線の二本の塹壕にいる兵士達は、ほかの王国兵から尊敬を集めた。

 士官達は、兵の士気を高めるための言葉を叫んだ。


「貴様らは最初に敵に弾を撃ち、最初に突撃して誰よりも最初に、敵の腹に銃剣を突き立てる!」


「我々が最初だ!」


 また、ある士官は。


「撤退は許されない! 後ろには故郷があるのだ!」


 と言った。

 彼等の士気は最高潮に達していた。





 第十一軍団はコンティノン橋を占領するべく、早朝から行動を開始していた。

 諸侯軍の主力は回廊の東側にいるため、戦闘はほとんど起きないはずであった。だが、諸侯は橋の西岸に兵を配置していた。

 この辺りは王国軍の油断であり、諸侯軍は包囲される可能性を下げるために、一般的な対策を講じたまでである。

 偵察を十分に行なっていなかったため、第十一軍団は待ち伏せを受けた。すぐに隊列を組み直し応射した。双方の最前線の部隊が百レヒほどまで近づいた時、諸侯軍の方から突撃を開始した。

 第十一軍団の中央最前列の連隊は潰乱を起こして、後方の部隊に助けを求めた。


 目的地であるコンティノン橋から西にニディスタの位置で始まった戦闘だが、二時間が経った頃には三ディスタまで遠のいていた。予想外の苦戦を強いられたため、軍団長のマクシム・ド・ラカーズは一度体制を立て直すことにした。だが、アンブールは許可しなかった。すでに諸侯本隊との戦闘が始まっており、第十一軍団はコンティノン橋の占領だけでなく、その後も邁進して諸侯本隊の後背を突くべしとの事であった。

 八時頃には、双方向き合った状態で銃声が止んだ。

 ド・ラカーズはこの気を逃すまいと、斥候を出し、騎兵隊を悟られないように敵の側面に回した。数は七千騎であった。彼らは軍団のために敵の兵力をまず掴もうとした。

 斥候と騎兵隊の報告により、九時を過ぎてようやく敵の様子がわかった。


 敵は二万にも満たない事が分かると、攻撃を再開し、側面から騎兵でもって強襲した。また、敵左翼の戦力が不足気味である事も判明したため、そこに攻撃を集中させた。

 三十分も経たないうちに諸侯軍は撤退した。敵が撤退で混乱しているうちに騎兵隊は橋に急行し、コンティノン橋を確保した。

 十時になると、橋の占領は確実なものになった。多くの諸侯軍兵士が降伏するか、西へ武器を捨てて逃げ散った。

 二千ほどの諸侯軍兵士が川を渡り東岸の諸侯本隊に合流しようとしたが、ほとんどが激流に呑まれ、無事に渡りきったのは百人にも満たない。

 一方で五百ほどの諸侯軍兵士は、ロアール川の西岸で戦闘を継続した。彼らは全周防御の円陣を敷いて、攻撃を退けた。


 第十一軍団軍団長マクシム・ド・ラカーズは、残存する敵兵の排除を第十一師団麾下の第四十三歩兵旅団に任せて、軍団本隊に橋を渡らせる事にした。





 すでに二度、諸侯軍は第七軍団と第三十四軍団が守る陣地への攻撃に失敗している。

 だが、王国軍の反撃も失敗していた。各軍団の騎兵師団を北側の森から進出させて敵側面を突いたが、簡単に跳ね返され、四千の被害を出して撤退した。森の西側まで到達した第七軍団の第七騎兵師団は第十一軍団と合流した。ほとんどの騎兵が慣れない森林の移動で戦闘する前から疲弊してしまっていたようである。


 第九軍所属の全ての軍団が、諸侯軍本隊と会敵した。だが、諸侯軍の数の有利は覆らなかった。

 諸侯軍も、傭兵と召集された農民たちがほとんどであった。ただ、経験豊富な職業軍人と呼ばれる士官たちの数は諸侯軍の方が多いのは、確かである。

 正午になり、各前線は膠着状態になった。

 この時、王国軍の側から諸侯軍に対して降伏を推奨するための軍使を派遣した。が、これは拒絶される。


 そして、第一魔導連隊に命令が下った。




 回廊南側に、湖がある。その湖の東岸の集結地に三十人の剽悍無比な魔導兵が揃っている。司令部を置いていたシャトーにあった中世の長槍を全員が装備している。

 それぞれが前装式の銃を三梃、右肩から斜めに革製のスリングでかけ、左肩からは散弾銃を下げている。長槍は左手で支えている。

 この日は陽もあり、とても暑かったが、魔導兵達は厚着をしている。通常の王国の青と赤の軍服に、さらに紺色の外套を着ている。頭には大きく重たく、金のモールで装飾がされたシャコー帽をしている。紫のポンポンも二つ下がっていた。

 南側からの風が彼らの衣服と周辺の草木を揺らしていた。

 そして、どういうわけかディシプリンが音頭を取っていた。


「アンブール卿より命令が下った! 貴様らが出撃するのは五分後だ! 準備はいいか!」


「「「はい!」」」


「あ、あのぅ……」


 リーズは気まずそうに話した。が、ディシプリン中佐は構わず続けた。


「歓喜の瞬間だ! 初陣だ! 目標は敵将校の捕縛、又は殺害、そして諸侯貴族を捕らえる事!」


 魔導兵に要求されたのは、通常兵科に任せる事のできない事である。


「全軍の窮地を救うべく! 我等は突撃するのだ!」


「あの……」


 リーズは口達者な中佐に少しばかりの嫌悪感を抱き、半ばあきれていた。



「先頭は私が行くので、離れずついてきてください」


 リーズが飛び立つと、魔導大隊全員がそれに続いた。


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