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第28話 提案

 第三十四軍団の軍団長、ロジェ・ロベルティ代将は第九軍司令官アンブール卿への不満を抑えきれずにいた。

「ポワチエの四将会談」において、諸侯軍を迅速に殲滅し、諸侯領地の占領という目標が示され、各軍団長も納得した。

 だが、ここ数日のアンブールからの命令には迷いが見られた。敵の位置がわかった事で移動命令が発せられたが、肝心の攻撃に関しての命令はなかった。

 最初の目標である“諸侯軍の殲滅”の達成に向けての作戦的努力が欠如していると思われた。


「奴はどこで包囲をするつもりなんだ⁉︎」


 ロベルティは叫んだ。副官は彼に冷たい視線を送る。

 敵を殲滅するとなれば、包囲戦しかない、と彼らは考えていた。が、数的に王国軍は劣勢であり、包囲を実現できる地形と状況は限られていた。


「……代将は、どちらが適切だと思われますか?」


「地図を見せろ!」


 副官が地図を広げ、一通り目を通すと、ある一箇所を指差した。


「コンティノン橋の東! この回廊だ!」


「なるほど、同意します」


 コンティノン橋を南にニディスタ行くと大きな湖がある。東西に八ディスタの広さがあった。また、橋を渡り、北に一ディスタ行くと森林地帯がある。湖と森林地帯は街道を挟むようにしてあった。

 街道を中心に南北三ディスタ、東西八ディスタのひらけた地形は王国軍から“回廊”と呼ばれた。




 二十五日の早朝に、アンブールにもたらされたジョゼフ=フランソワからの提案は、有効なものに思われた。

 アンブールと参謀達は数時間の協議を行った。

 七時ごろに、第三十四軍団からの伝令が到着した。

 ここに書かれていたのも、ジョゼフ=フランソワからの提案とほとんど変わらないものであった。

 ここに、“コンティノン橋の東岸における包囲戦”を行う事が決定された。

 すぐに各軍団に伝令が飛んだ。

 どの軍団長も作戦には肯定的であった。ただ、諸侯軍の背後に回った第十一軍団の軍団長マクシム・ド・ラカーズは初めから包囲戦をやる腹積もりだった。この時点でようやく、移動後の明確な命令が与えられていなかった事に気付き、戦慄した。


 二十五日の昼過ぎから、第七軍団はさらなる撤退を開始した。最終的な位置は回廊の東であり、蓋になるように布陣する予定である。



 二十六日、第七軍団がロアール川西岸に放っていた騎兵偵察の一隊が、敵と接触した。彼等は踵を返してコンティノン橋を渡り、軍団司令部に報告した。

 諸侯軍は騎兵を先に東岸に放ち、回廊内の偵察と梅雨払いを行った。既に七ディスタ東方に第七軍団は退いていたため、本格的な戦闘は起きなかった。


 十一時、移動を終えた第七軍団の兵士達は、ただひたすらに塹壕を掘った。六本の塹壕を彼等は掘った。

 二本一組で、二つの塹壕の間隔は二レヒである。さらに後方の塹壕とは五十レヒの間をとってあった。

 幅およそ百レヒの陣地が構築される。

 二時ごろに第三十四軍団も移動を完了した。彼等はポワチエを経由せず、近道をして回廊に到着した。彼等もまた、第七軍団の横に並び、塹壕を掘った。


 二十七日になり、ようやく全ての塹壕が完成した。諸侯軍は橋を渡り終えるまで、前進を控えている様子だった。

 回廊内に騎兵偵察を放ち、諸侯軍の動きを完全に捉えようとしたが、諸侯軍騎兵による妨害で不可能になってしまった。






 ディシプリン中佐は、アンブール卿に対して直接意見を述べていた。


「今作戦で最も重要なことは、どうやって敵を殲滅するか、です! 確かに、アンブール卿と参謀の方々が考えられた作戦は、包囲を完成させるには十分なものでしょう……」


 ディシプリン中佐は魔導兵を使ってもらいたかった。魔導兵の使用は王国軍の負荷を軽減するものである、と彼は考えていた。


「ですが、決定力に欠ける! どのようにして敵を殲滅するのでしょうか⁉︎」


「言いたい事はわかったが、魔導兵はそれほどに強力なのかな?」


 ディシプリン中佐はセダンでのリーズ大佐の闘いぶりと、先日のベルトワーズ大尉の一件を語った。

 どちらも戦闘というより、虐殺に近いものである。


「私は諸侯や貴族を嫌っているが、そこまでする必要があるだろうか」


 彼の参謀達も難色を示した。

 彼らの否定的な意見は、この国と時代特有の騎士道精神からきたものである。この世界においても、敵の主戦力を無力化させる事が、戦争の目的の一つに移り変わり始めていた。が、それ以上に騎士道精神は彼らの心理に根付いており、それがこの戦場においても発揮されていた。

 つまり、敵への敬意と慈悲である。


「今日はここまでとしよう」


「……しかし、それでは諸侯を」


「魔導連隊は待機しておくように」


「はっ……」


 アンブールは選択肢として、魔導兵の使用を考えている様子だったが、ディシプリンは半ば諦めていた。





 ディシプリンから話を聞いたリーズは、伝令の任務に支障が出ないよう、部隊員の選抜を行った。

 第一から第三大隊の中からそれぞれ引き抜き、特別突撃大隊を組織した。隊長はリーズ自身が務めるようである。

 ディシプリンは、リーズから特別突撃大隊の話を聞いてようやくアンブールの考えが理解できた。九人の騎士長ヌフ・シェフ・デ・シュヴァリエの一人に、魔導兵の有効性が理解されたと喜んだ。


 そして二十七日の午前七時、諸侯軍軍楽隊の音色が王国兵達の耳にも聞こえてくるようになった。

 いよいよ、戦闘が開始される。

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