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第25話 魔導兵と散弾銃

 第九軍の話を聞いた魔導兵候補生担当のディシプリン大尉は、魔導兵の実力を発揮する機会が来たという事で、小躍りして喜んだ。

 すぐにリーズに相談した。実は魔導兵候補生の履修課程は未だに修了していない。だが、リーズは承諾した。

 大尉は意外に思ったが、リーズに言わせれば、すでに候補生達は十分な実力を持っているという。


 魔導兵も含めて、様々な新兵器や新戦術が第九軍では使用された。これはのちに起こる魔王軍との戦闘を有利に進めるべく、兵器だけではなく戦闘技術的な面でも肩を並べようとしたからだった。

 リーズが悩んだのは、魔導兵の装備についてである。通常の歩兵装備とライフルを持たせようとしたが、それだけでは魔法使いの能力を最大限まで引き出す事が難しい。

 ディシプリン大尉の方から、装備については助言があった。リーズのセダン平原での戦闘と、候補生への講義の際に見せる魔法を見て、彼は魔法使いの強力さを誰よりも理解していた。それに軍人である彼は、当然だが、リーズよりも装備については詳しかった。

 騎兵以上の機動力に、砲兵並みの打撃力、さらには銃撃も砲撃も跳ね返す歩兵以上の防御力を持つ魔法使いは、発展性の高い兵科である。また魔導刻印によって、兵器の能力を底上げする事ができた。


 すでに教練の初期の頃に、大尉は魔導兵にあった兵器の製作を打診していた。書類を受け取った王国軍の参謀達は一旦は取り下げたが、セダン以降の撤退戦の混乱で兵器研究所に書類が届いてしまった。

 さらに、その書類がよりによって人格破綻者ドクタービザールの目に留まった。

 すでに彼には新式ライフル製作の依頼がされていたが、この仕事もこなす事にしたようである。

 ビザールライフルと並行して作られたこの魔導兵用の銃は、鳥撃ち銃を改良したものだった。

 すでに考えは固まっていたようだったが、魔導刻印の登場によって、彼は完全に銃を完成させた。


 王国で貴族達が使用していた鳥撃ち銃は、いわゆる散弾銃であった。彼はこれを強力で頑丈なものになるように、工夫を加えた。

 まず、銃身を水平二本にした。彼が開発したピストルの中に、五連装のものがあり、それを応用したのである。このピストルは失敗作として歴史に残ったが、一部の機構は特筆すべきものだった。

 さらに、紙製薬莢の底部に雷管を取り付け、撃針をぶつけるだけで発砲できるようにした。

 実包は紙製の薬莢の為、発砲後は殆どが燃えてしまう。雷管は金属製のため残る。

 これらは新式のビザールライフルと同一の仕組みであった。

 だが、何度か試験をした結果、うまくいかなかった。魔王軍の技術を見よう見まねで作った雷管の為、三発に一発は不発になった。さらに、装填する際に紙製の薬莢が破れて、火薬と散弾が散らばってしまった。雷管が動作しなかった場合、紙製の薬莢が薬室内に押し込まれて、その後の射撃が困難になる事もあった。

 そこで、全体が真鍮製の薬莢を使用した。底部に段差リブを作った事で、前述のトラブルが減少した。また、それらが起こった際にも次弾の射撃が滑らかにに行えるようになった。

 薬莢の先端は紙で塞がれた。


 装填は銃身を折って薬室を開く、いわゆる中折式だった。引き金を引くと撃鉄が落ち、散弾が発射され、薬室を開き薬莢を取り出す。銃身を折って薬室を開いた際に、撃鉄が起きるようにしていた。


 威力については、使用する散弾の種類にもよるが、百レヒ先の鳥を撃ち殺せる程度である。

 これは、リーズの戦闘時の距離から、魔導兵は敵に対してかなり肉薄するものと、ビザールとディシプリンが理解していたためであった。


 この散弾銃の原型になった鳥撃ち銃は、貴族や貴族出身の将校が持っていたものである。この鳥撃ち銃専門の工房もあったため、ある程度の仕様書を渡すと、わずかに二週間で完成した。

 新式のビザールライフルの設計が完了するまでは、王都内の銃器工房は、民営も国営も含めて全てこの散弾銃の製作を行った。





 対諸侯戦役において、王国軍が最も苦労したのは兵器調達である。

 この時点では、新式のライフルはまだ完成していない。その上、王国軍はセダンでの戦闘、特に第一次セダン攻防戦において、多くの銃と砲を放棄した。

 それぞれ必要数は、歩兵および騎兵用の銃を十三万挺、各種野砲は三百門である。騎兵には銃だけでなく、サーベルや長槍なども必要であった。

 また、弾薬は銃の場合は、一人につき最低でも三十発、砲弾は一門につき、最低百発とされた。

 銃は、王国軍の倉庫にあった在庫を全て出して、六割に行き渡るほどだった。そこで、王都とその周辺に暮らす住民から銃を徴収した。一割は現役の王国軍と諸侯軍だったため、銃を保持していた兵士は必要者の九割程度になった。

 砲は、多砲身斉発砲ミトラィユーズも含めて、軍が保有していたのは百九十門であった。これは、海軍の六十八門戦列艦の砲を取り外して使用した。この砲は、すでに王国軍で使用されていたものと同じであったので、融通が利いた。


 これら以外の衣服や食料は、商人に頼った。東は魔王軍、西は反乱を起こした諸侯によって街道がふさがれ、国外との交易ができなくなっていた。

 そのため、豊富な代金を渡せば、喜んで商人たちは兵站の大部分を担ってくれた。この王国軍と兵站を担う商人の関係は、魔王軍との戦争においても継続された。





 魔導兵の指揮官については実戦経験もあり、最も魔法の使用年数が長いリーズが選ばれた。

 魔導兵部隊はわずかに百二十人だが、偽装も兼ねて“第一魔導連隊”という名称が与えられた。連隊という事で、指揮官であるリーズには「大佐」の階級が与えられた。


「これより、君たちは実戦に出ることになる」


 ディシプリン大尉から召集がかかり、候補生たちは兵舎の前に整列した。新しく与えられた連隊旗と、国王家の旗が翻っている。


「羽の生え変わった雛鳥は、飛び立たなければならない。君達には王国の翼が与えられたのだ。王のために、そして王国に暮らす家族と兄弟達の為に、存分に戦ってくれ」


 彼は短く敬礼をした。今度はリーズが話す段取りになっていた。

 しかし、沈黙が続いた。


「最後に、魔術刻印の復習をしましょう」


 その場にいた王国兵は顔を見合わせた。


「認識票を」


 候補生達は首に下げた認識票を手に取った。人差し指ほどの長さの、鉄の薄い板である。これには出身地と認識番号、兵士の名前が記されていた。


「最後に教えた物を思い出してください」


 候補生達は認識票を握りしめて、集中した。

 魔術刻印を打ち終わったものから、認識票を再び首に下げた。およそ一分で、全員が動作を終えた。


「これで、貴方達は一人前の魔法使いです。お疲れ様でした……これからも、よろしくお願いします」


 リーズは頭を下げて、大尉に目線をそらした。

 大尉は魔導連隊に武器の受け取りを行うように言い、魔導兵は全ての準備を済ませた。

 十四日深夜、第一魔導連隊は第九軍の集結地に向けて出発した。先頭はリーズである。


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