第22話 魔導兵
この日のうちに、事態は街道を通っていた騎兵伝令に伝えられ、彼はちょうど付近にいた九人の騎士長のアンブールに伝え、さらにジョフルにも伝えられた。
しかし、ピレネー大隊は逃亡をはかった。
彼らは日に二十九ディスタという速度で、故郷がある王国西部、ピレネー山脈の西端をめざした。逃げ切るためには、王都の南側を通らなければならない。さらに王都の手前にはいくつかの河川が流れていた。
ジョフルは王都にこの事を伝えて、河川の警備に当たるように伝えた。
この時、王都にいたのは近衛兵一万と、王国臣民の徴兵によって集められた新兵達である。
ペルダンが発見された翌日の昼ごろ、新兵達に集合命令がかかった。
近衛の将軍が、彼らに演説をした。
「君達は、我らが王のために集った。敵を討つために集った。私としては君達に最大限の訓練を施して、並みの王国兵同様の練度にしたい。否、敵はその時間を与えてはくれないのだ。精神は強いか? 勇気は高まっているか? 例えそれらがなくとも、戦友と共に成長せよ。敵はすぐそこまで迫っているのだから」
兵達がどう感じたかはわからないが、兎も角、彼らは河川の警備にあたった。
その数十万である。
初期に徴兵された連中は、装備の面では運が良かった。一応はライフルと銃弾とその他、王国兵と同水準の装備を受け取ったからだ。しかし、これ以降は生産が追いつかなかった為、必ずしも良質なものは受け取ることが出来なかった。そもそも、軍服以外には何も支給されない者もいた。
二百万、という数は王国以外の国でも例のない数である。これほどの規模は、この世界では魔王軍を除き初の事のようだ。
王都周辺の降雨量はまだ少ないため、移動は迅速に行えた。
結局、大隊は二日後に王都外縁から八ディスタ北のザラ川を警備していた部隊によって捕らえられた。
翌日、セダンで敗北した王国軍が王都に入り、さらに八日経ち、全ての部隊が王都に帰還を果たした。
既に雨は止んでいたが、平原は以前、泥濘でまともに交通の便が悪いことだろう。
問題は、西の諸侯たちである。
なにやら独立の動きが見られるという。本来、強力な少数精鋭な王国軍によって諸侯達とのバランスを保っていたが、魔王軍との戦闘ですっかり疲弊してしまった。
東西諸侯の被害の差は著しい。西の諸侯達にどの程度の情報が渡っているのかわからないが、魔王軍の強さは伝わっているようである。彼等が王国から独立すれば、魔王軍と協力して王国を攻め立てるかもしれない。と、王都の首脳陣は考えていた。
建国千二百年のこの国は、これまでにないほどの危機に陥っていた。
王都に入って数日の休暇を言い渡された王国兵達だが、大通りに出て呑んだくれるような事はせず、食べて寝るだけの生活をした。もはやそれほどに気力が削がれていた。
魔王軍との戦闘は、兵士達にとってもショッキングな出来事だったようである。
王都に暮らす臣民の家々には、手紙が届いた。徴兵である。
王都郊外の小規模な街には、王都以東の焦土作戦によって住処をなくした住民達が押し寄せていた。多くの宿が金を取らずに、彼らを泊めてやった。王国がそれらの代金を支払ったようである。
私はこの時期を利用して、野望を達成しようと考えた。すなわち、魔法の軍事転用。リーズとまでは行かなくとも、腕のいい魔法使いを複数人で組織的に使用したい。
兵科としての魔法使い、これでは少々語呂が悪いという風にリーズに言われたので、“魔導兵部隊”を創設する事がひとまずの目標である。
兵器はあの人格破綻者に任せておこう。私はその方面には詳しくないのだ。
まずは、魔導適性のある人間を探すところからである。いちいち、リーズが集められた人々を見て判断するのは効率が悪いし、そもそも二百万人も徴兵するので不可能な話である。
ここでも、リーズは魔術刻印を使用した。
魔術刻印を記した木版を、徴兵を担当する将校達に配った。これを徴兵対象者に近づけると、魔導適性のある場合は発光した。
“王国臣民の徴兵”は、わずかに三週間で集結を完了した。鉄道もないこの世界で、三週間である。
この徴兵によって集められた兵士達には王国東側の河川帯の防御を命じられた。問題は、これらの河川は川幅が狭く、大規模な部隊をせき止めるには不十分な事だ。
南西のセーヌ川はピレネー山脈から流れ出て、北のルシオン湾に流れ込んでいる。
王国の大地を南北に縦断しており、川幅も広い。防衛に使うにはちょうど良いものであった。
徴兵された中で魔導適性検査を受けたのは、三十万人である。そして、適性が認められたのはわずかに百二十名であった。
このうち、三十歳以上は一人しかいない。リーズによれば魔術というのは若ければ若いほど習得が早く、上達しやすいのだという。
彼らは王国の兵舎を借りて、教育を受けた。
王国から与えられたの期間は一ヶ月、この間に魔導兵部隊を完璧なものにしなければならない。




