第20話 兵器製作
魔王軍は総勢八十万になった。
一方、王国軍は九万である。王国唯一の救いは、既に徴兵が開始され、二百万の増員が決定している点である。
だが、兵卒でも教育には最低一ヶ月は必要である。さらに、彼等に着せる軍服と武器弾薬を用意しなければならない。しかも、騎兵には馬と馬具ーーそれに全ての軍で共通だがーー戦闘行動をするにはそれらを賄える兵站が必要になる。
王立兵器研究所では、兵器の面で兵站と生産の負担を軽減しようと考えた。
兵器を作るには、原料とその輸送、そしてそれを加工し材料を作り、さらに加工して様々な部品を取り付けてようやく完成する。原料と、輸送に関しては兵器研究所ではどうにもならない為、材料加工をなるべく単純化しようとした。部品の数を減らし、単純な形にする事で生産性の向上を狙ったのだ。
ここで、魔術が活かされた。
例えば銃身を作る際、材料の硬度を下げる刻印を打って加工し、作業時間の短縮に繋げた。魔術刻印はリーズが書いたものを、職人が寸分違わぬ制度で金型にし、それを鍛造で材料に刻印した。また鍛造も、魔術印を利用して自動化する事に成功し、プレス加工に昇華させた。
さて、王国のライフルである。
ライフルと呼んではいるが、銃身内にライフリングは無い。厳密にはライフルでは無いのだ。前装式のホイールロック式である。このホイールロック式という点火方式は、Drビザールによって旧式のものになった。
彼は魔術刻印の登場によって金属材料の硬度や弾性などが上昇した事、また工作機械も一部は自動化できた事に着目した。
着目した、とは言ったが魔術刻印を工作機械に取り入れたのはビザール自身である。
そして彼は現実で言うところのパーカッションロック式のライフルを構想した。
だが、鹵獲されて手元にあった魔王軍のライフルを見て、彼はさらに考えた。
金属薬莢と、レバーアクション式の後装式のライフル。これは王国でも作れるものではないだろうか。と考え、図面を書き、構想からわずかに二週間で試作品製作に取り掛かった。
だが、実際に作ってみると部品の精度が悪く、後尾からガスが漏れて危険な代物が出来上がった。
さらに金属薬莢は、プレスを八回する事で完成する為、従来の紙製薬莢よりも生産効率は下がる事になった。人格破綻者はこの最初の試作品達をかねがね「新式ライフル開発における最初の失敗だった」と言っていた。
レバーアクション式自体、見るのは初めてであるはずの彼はさらに改良を加えた始めた。魔王軍ライフルの発射と廃莢するための部品数を減らす改良も行った。その過程で、どういう思考をしているのか訳が分からないが、ボルトアクション式を考えついたという。
どんどん考えつくのは良いが、王国軍の方からライフル開発を急かす書類が何度も送られてきた。
ビザールは最初の試作品に少々手を加えて、要望に応えた。
この新式ライフルは、開発者のビザールの名前を取り、ビザール銃と呼ばれた。
このライフルは、トリガーガードと一体化したレバーを下げると薬室が開き、そこに紙製薬莢を入れ、レバーを元の位置に戻すと、薬室が閉じて射撃動作に移ることが出来る。
従来の前装式ライフルが、装填に三十秒を要したのに対して、このビザール銃は五秒以内に装填する事が出来た。また、銃床に革製のホルダを着ける事でさらなる装填時間の短縮が望めた。
試作品で問題になった後尾から漏れるガスだが、薬室を閉鎖する部品の上にカバーを取り付けて漏れたガスを右下方に流す事で一旦は解決した。
薬莢については先に書いた通り紙製薬莢だったが、尾部には金属製の雷管があり、半金属薬莢と呼ぶものもいた。
あくまでコピー品だが、ライフルを設計して生産に至るまでの日数は僅か四十日である。
兵器研究所と各地生産工場など王国軍需産業が一丸となって取り組んだからこそ、出来得る事であった。
ビザールがライフル開発を開始した最初の一週間は、例の大雨が王国東部の広い地域に降り注いでいた。
王国軍はさらなる撤退を行なっている。
第一次セダン攻防戦では、新兵器が投入された。この兵器の為に作戦決行を三日に渡り遅らせたが、結果が良かったわけではない。
この兵器は多銃身斉発砲と呼ばれるもので、その言葉の通り、多数の銃身を束ねたような格好をしている。
従来の王国のライフルは歩兵が扱う為、重さにも制限がある。そのため銃身の厚さも制限があり、その強度に見合うだけの火薬量しか扱えなかった。
だが、この多銃身斉発砲は砲兵が扱うもので、銃身はそれぞれ歩兵が扱うライフルよりも頑丈で重かった。その為火薬量を増やす事が出来、また銃身も伸ばす事が出来たため、およそ九百レヒという長射程を実現した。
これもビザールが開発したものである。
この兵器について、私としてはもう少し書きたいが、それよりもこれを扱う部隊に起きた事を先に書く。
彼らは第一近衛旅団第三試験中隊という部隊で、多銃身斉発砲八門を運用している。
さらなる撤退が下命されたその日、中隊長は街道を通らない事を決めた。
どうせこの泥濘である。街道の渋滞は目に見えていた。現在の上司であるアンブールもこれを許可した。馬が六頭がかりで引っ張って行く。弾薬は砲兵が背中に背負って移動していた。
初日の移動が終わり、テントを張り、野営する事になった。交代で歩哨を数名立たせてあとは食事や睡眠をとる。
深夜である。一等兵が歩哨に立っていたが、オートクロークという伍長も一緒にいた。一等兵は教育期間を終えて、軍に入って一ヶ月だったので新兵であった。伍長はなかなか寝付けず暇だった為、話し相手を求めて彼の元にやってきた。雨が降りしきる音で間近でなければ声が聞こえない。
特に異常もなく、次の兵に交代しようとした時である。
西の藪から物音がした。
「誰か?! 所属と名を名乗れ!」
二人は銃剣を藪に向けた。紙製薬莢は雨で湿気って動作しないかもしれない。




