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第11話 魔女の講義

 攻撃が決定されたが、開始は明後日である。

 どうやら、王都兵器廠から新兵器と、それを運用する部隊が到着するのを待っているという。侍従に何か知っているか、と聞いたがかぶりを振った。

 王の侍従の息子の青年は、すっかり私の侍従として使えている。彼自身がそう名乗っていて、名を聞いても「私はあなたの侍従です……名はありません」

 としか言わない。

 仕方がないので、侍従ションボと呼ぶ。


 この期間で私は魔法について、深く知る事に努力した。無論、他の任務も並行して行なっている。


「魔法の基本は三つあります」


 私の部隊が、指揮所として使わせてもらっているテントでスペースを作り、リーズに講義をしてもらった。


「物体の動きを変える事、物体を作り変える事、そして、魂を操る事」


 メモを取りながら、聴いている。また、侍従ションボも私の隣に座り、講義を受けている。


「ですが、この全てを行えるのは私が知っている範囲では、五ないしは七人ほどです」


「リーズはどれくらい出来るんだ?」


「私は……」


 しばらくの静寂が訪れる。


「話を逸らさないでください」


「すまない」


「魔法使いと一般に呼ばれる人、全員が出来るのが、物体の動きを変える事です。例えば……」


 少女は、王国軍が銃弾として使用する、鉛弾を左の手のひらに置いた。

 リーズは特に何かしたわけではない。が、鉛弾は彼女の手を離れ、空中に浮かんだ。


「うおお!」


 侍従ションボが驚く。


「魔法使い全員が出来るのか? 本当に?」


「はい。これが出来なければ、魔法使いとは呼ばれません」


 言われてみればそうだ。


「どうやったんだ?」


「魔力、としか言いようがないですね」


 不思議だ。


「一つ飛ばして魂を操る、というのは、勇者様を復活させた時行ったものです……ここでの実演は難しいですね」


 この話題になると、やはり彼女は少し俯いた。かなりの罪悪感なのだろう。


「最後に物体を作り変える事」


 リーズは空中に浮かぶ鉛弾を両手で捕まえた。


 拳を作り、力を込める。


「鉛を、水にします」


「え?」


「は?」


 二人で顔を見合わせた。


「ちょっと! こっち見てて下さい!」


 拳を開くと、鉛弾は無くなっていた。代わりに水が溢れ、リーズの小さな手からこぼれた。


「あっ! 絨毯が!」


「気にしなくて良い」


 もともと土足で歩いても良いように作られている。濡れたところで、問題ではない。


「今のはどうやったんだ」


「この世は全て原子アトゥムで作られています。そして物体は性質ごとに原子アトゥムの種類が違います。原子アトゥムは、これを構成する陽子と中性子ドゥスティプス・デ・グランスの数によって性質が決まります」


 少し混乱した。だが、元の世界で死ぬ少し前、原子の存在と、それを形作る陽子と中性子についての発表がされた事は知っている。


「そして、魔力によって陽子と中性子ドゥスティプス・デ・グランスの数を変え、原子アトゥムの性質を変えたのです」


 王国の文化、科学は銃の精度や仕組みをみれば、どの程度なのか判断できる。そして私はこの世界の時代を、元の世界のナポレオンより以前だと考えていた。が、これはひょっとしたら、王国が他より劣っているだけなのではないだろうか。

 しかし、この国が独立を保ち、諸侯を従えているのは、この考えが偽りである事を裏付けている。


「勇者様、今の説明でよろしかったでしょうか?」


「ああ、だいたい理解できた」


 侍従ションボの方を見ると、彼は首を傾げていた。


「聞きたいことがあるのだが」


「はい」


「それらの魔法は、私達が習得する事は出来るのか?」


「ああ、その事でしたら大丈夫です。素質のある人ならば、一定量の魔力を浴びれば使えるようになります」


 これは朗報であった。私が考えていた戦略の一つに、魔法使いの軍事利用がある。未だに魔法使いの攻撃力、防御力は未知数だが、神が魔術革命の可能性を示唆した事で、ある程度の確信は持てる。

 だが、魔術革命とはどういう事だろうか。産業革命は蒸気機関によって産業が飛躍的に発展したが、魔術が飛躍的に発展するというのは、素質を持たない人々を否定しているに他ならない。

 対策のようなものはあるのだろうか。


「もう一つ、素質がない人間が、魔法を利用する方法はあるのかな?」


「そういう場合は、物に魔力を持たせます」


 リーズは続けた。


「物に魔術印を刻印する事で、魔法と同じ効果を得ることができます……」


 その後も講義は続き、半日はテントの中で過ごした。ただ、百聞は一見にしかずで実際に戦場で見るまでは、半信半疑な部分もあった。

 というか、この少女、魔法の基本三つとも使えているではないか。









 それから二日後……。

 再び、セダンの平原に王国軍と魔王軍が相対した。と言っても、王国軍の方は奇襲を仕掛けるつもりである。


「魔王軍め……目にもの見せてやる!」


 あの時の戦場には見られなかった空気だ。殺伐とした、恐怖と緊張と、戦地に行く前の独特の高揚感が多くの兵士から感じられた。浮き足立っていると言えばそれまでである。が、これは寧ろ士気旺盛で精強な兵士達が出来上がったと言える。


 今回は、九人の騎士長ヌフ・シェフ・デ・シュヴァリエのうち、5名しかいない。これに、何故か私も並ぶ形で指揮を任せられた。それぞれ二万の兵を与えられている。

 私は一万二千の大騎兵団を任せられた。歩兵は八千である。騎兵は、重装騎兵以外の、軽騎兵、竜騎兵、槍騎兵、胸甲騎兵が指揮下にいる。また、歩兵は全て軽歩兵である。


 度重なる偵察の結果、敵は包囲に十八万、王国軍側に対して四万を置いていた。敵の兵力は前回の戦いで二十三万であり、残りの一万は我々と同じように偵察や後方撹乱に使っているのだろう。


 王国軍は左から順に、勇者軍、バルション軍、エヴェネー軍、アンブール軍、ショーフォンテーヌ軍、フルロン軍である。このうち、中央のエヴェネー軍とアンブール軍が、包囲を突破するための“釘”を形成し両翼の部隊が敵からの迂回攻撃を防ぐ。

 敵に包囲されている九人の騎士長ヌフ・シェフ・デ・シュヴァリエはボンセル、フレマル、オローニュ、ロンサンの四人だ。敬称は略す。


 歩兵達は相変わらず、整然と隊列を組み歩いた。昨日は雨が降ったため地面は柔らかくなり、どの兵士の靴も泥がつき、水が染み込み、動きづらそうである。風が吹くたびに、背の高い草についた水滴が舞い上がり、兵士の服を濡らした。各所に水溜りがあり、転倒するものもいる。


 が、王国軍は歩き続けた。








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