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プロローグ

 寒さの厳しい農村に生まれ、帝国の没落を見届け、革命に燃え、同志とともに偉大なる指導者達の下、新たな国家に夢を見た。そして、今度は世界へと目を向けた。私の青春はこの国とともにあった。


 二十数年が経ち、私は陸軍の少将として師団を率いる事になった。2万人の部下を持ち、戦史を調べ、戦術を磨き、戦争へと備えた。

 が、ナチスドイツの台頭と赤軍内部の軋轢は大弾圧、俗に言う大粛清という形で私の目の前に現れたのだ。多くの同志がそうなったように、私も例外ではなくスパイ容疑がかけられた。

 きらめく多数の重たい勲章と、地位を示す肩章と金のモールはこの瞬間、意味をなさなくなった。


 モスクワで取り調べが行われた。


「私は生まれてからこのかた、党への忠誠が揺らいだ事はなく、ヒットラーの戯言に心を動かされた事はなく、そもそもドイツ人とあった事もございません」


 私は癇癪を起こしそうになったが、堂々と証言し、罪状の誤りは訂正し、真実を述べた。しかし、似たような事を言った友人は銃殺されていた。おそらく証言の裏が取れなかったのだろう。そして、私の疑いが晴れる事はなかった。その夜は荒れに荒れた。


 党にとってよろしくない事をやったのだろうか。軍内部で嫌われ者になっていたのだろうか。どれだけ思案しても解決する事はなかった。


「私はどういう人間なのだろうか」


 帰路、車を運転している大尉に聞いた。


「閣下は愛国心のある、よい軍人だと思います……少しだけ他の方よりも短気ですが」


 大尉が全く遠慮なしに言うものだから、変な怒りが込み上げてきた。

 気持ちを抑えるため、葉巻を吸った。


「遠慮なしに言え」


「閣下はこれから銃殺ですから遠慮なく申しますと……」


 ああ、こいつは一言多いな。


「実は将校の中でも無能の類ですよ」


 困惑である。何を言われるかと思えば「貴方は無能」だと? 死に際の人間に言うことか? それに今からでも証拠を揃えて訴えれば無罪になる可能性もあるのに。

 糞みたいな野郎だ。

 いや、私が遠慮なしにと言ったのだった。


「ひたすらにドイツに圧力を加える事を訴えて、日本にも攻め込もうと言ったり、何かあるたびに軍備拡張だのなんだのって……あんたかなり嫌われてるよ」


 ここまで言われても私は自らの理論を訂正するつもりは無い。なぜなら間違っていないから。どの国も共産主義を嫌っているし、友好を装ってはいるが結局は上部だけだ。これらは私の死後、立証されていくだろう。

 ああ、何もかも暗く見える。


 しばらくは無言であった。

 あの厳しい冬の寒さを、この肌で感じられないと思うとなんとも悲しいものだ。


 事故は突然に起こった。

 ひとかけらのパンを持った少年が道に飛び出してきた。


「うおっ!」


 大尉はハンドルを切る。少年には当たらなかったが、私達が乗る車は横転し、木にめり込むように突っ込んだ。そんなに速度を出さなければよいのに。


 頭から血が流れるのが分かった。

 随分あっけないものだが、私の現世の記憶はここで終わる。

完全な自己満足で書いておりますので、急に更新が途切れる場合もあると思います。不快でないのであれば是非読んでみてください。

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