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登場人物
安芸 智
西暦1980年10月10日生まれ/29歳/男
株式会社 舞王の経営管理部、人事課、課長。班に属していないが剣闘士担当。
社長の息子である。現在は荒くれ者は成りを潜めているが、こと戦闘になるとたがが外れることもある。
性格はお人好し寄りで来るものは拒まない。だが、出て行こうとすると泣きついてでも引き留めるもろさがある。
加勢 理
西暦1982年09月15日生まれ/28歳/男
株式会社 舞王の販売購買部、購買課。ヤカタ班の術師担当を兼務。
仕事も含めいい意味でのんびりとしている。つまりは慌てず騒がずマイペースと言ったところ。それでいて、状況が揃えば決断は早いほうである。
大和 文佳
西暦1983年11月06日生まれ/26歳/女
株式会社 舞王の宣伝部、派遣課、ヤカタ班。剣士担当。
幼少の頃から現住所に住んでおり、割合と自然と戯れる事が多く、ややおてんばである。想像力がたくましすぎ、妄想を止められなくなる事がある。
背が低いため中学2年生以降、出来ると感じた事は手を上げて率先して行うようにしていたところ、その全てが癖になっている。
細川 忍
西暦1985年11月16日生まれ/24歳/女
株式会社 舞王の宣伝部、派遣課、ヤカタ班。弓士担当。
人が犯す大抵の事は許す事が着る程おおらかである。現象や事象に対しては許す事が出来ず追求してしまう。
元々身軽ではあった物の大学のサークル活動を経て、忍びがしたであろう事までをこなせる程になった。
角館 勇次
西暦1979年06月24日生まれ/31歳/男
株式会社 舞王の宣伝部、派遣課、ヤカタ班班長。勇者担当。
他人より目立つ事をしたがる。常に人の前に立っていたいともう反面、目立てないと判断するとどんな状況であっても立ち去ってしまう。目立つためであるなら努力は惜しまない。
川戸 冨佐枝
西暦1984年06月21日生まれ/26歳/女
株式会社 舞王の営業部、現地課、TERRA係
押しの強いと言えば聞こえはいいが、口調が強く物怖じしないところがある。性格的には明るく基本的には人見知りしない。
名前で呼ばれると名字を返して念を押すところがある。つまりはあまり名前を気に入っていない節がある。
小埜瀬
株式会社 空間倉庫の倉庫深度課、業務係、業務長。
桃井 美朗
西暦1953年06月18日生まれ/57歳/男
株式会社 舞王の副社長、株式会社 空間倉庫の社長
生真面目であるが、温厚であり、計算高い。仕事の姿勢と同じだが、他者に対して厳しいところがある。
舞台
テーリア営業拠点
株式会社「空間倉庫」で建築したこの星の営業所。
派遣業に登録している各社の営業と空間倉庫のスタッフが常時詰めている。ワームホールで繋がってた場所を拠点としている。
株式会社 空間倉庫
東京都青梅市に本社を置く。倉庫賃貸業を生業としているが、同一宇宙のどこかの惑星と繋がった虫食い穴の管理と運営を裏の仕事としている。
森の深い場所に、ぽつんと集落があった。
前面を含むぐるりと全てにエンデュス王国の紋章が刻まれた一台のTRANSECARZOが、一軒の建物の前に止まっていた。
TRANSECARZOの中程の扉が開くと、複数の人物がおりてきたが、その足取りは重いようである。その中の一人は、御者に送ってくれた礼を述べ見送った。傍らには、トランセグァールジォが止まった建物に入らず付き合っていた人物もいた。
「安芸さん。付き合う必要はなかったのに……」
「そうか。川戸君に気を遣わせてしまったか」
見送った冨佐枝が「さ、入りましょ」と促して智も営業所内に入っていった。
先に入っていた面々は、既に会議室にいた。
「つぅ。痛い……」
「川戸さん。クッションないですか? 問題が……」
「文佳さん、ナイス。私も欲しいです」
「はい? ……あぁ。なるほど。ちょっと待って下さいね」
そう言って冨佐枝は会議室を出て行った。注文を出した本人である文佳と忍はと言えば、椅子に腰掛けておらず座面に正座しているが、それだけではなく前後逆に使っていたのである。どうやら、あの“王の間”での座り方が原因のようである。
しばらくして冨佐枝が戻ってきたが……。
「お待たせしました。ちょっと前が見えませんので各自取って下さい」
「全員分持ってきたの? 助かったぁ。よっ!」
早速受け取ったのは、文佳と忍であることは言うまでもない。忍に至っては、椅子に乗せて座ったようだが仰け反っている。相当に疲れた様子である。
慣れない馬車と謁見での緊張も手伝った疲れで、大分参っているのであろう。そんな一行を余所に椅子を立ったのは勇次であった。
「角館さん。何処に行く?」
「ふん。俺の出番はなさそうだから帰るん、ですよ、指揮官」
なんとか丁寧な喋り方をしてはいるものの、敵意剥き出しの表情であった。
「全員が揃って帰ることになっているのだから、もう少し待って下さい」
「今回は、勇者一行の仕事じゃないんだよな?」
「その通り。だが、営業所での帰還手続きが終わっていない」
「俺は班長だが、今回は違うって事だよなぁ? だったら、関係ないな」
そう言いきった勇次は、会議室を出て行ってしまう。その後を追って智も会議室を出て行くのであった。
「何が気に入らない」
「……全部、だな」
「そうか……」
会議室を出た勇次は、ロッカールームで勇者一行の標準装備に着替え、ロッカールームの外で待つ智を半ば無視し、やって来た時のどんでん返しの場所まで、智が説得するのも聞き入れることはなかった。
勇次がどんでん返しの操作をするに至って、智も諦めたようである。
「おい、ついてくるな」
「そうはいかん。本当に先に帰るつもりか?」
――くそっ! ついて来るんじゃねぇよ。潜らなきゃならないだろうが。
「そ、そう言ってるじゃないか」
「問題になることは分かっているのか?」
「て、てめぇがな」
どんでん返しを潜ってからも智の説得は続いた。やや表情が強ばっているが、勇次からすれば口喧嘩と解釈している様子である。
「それはどうかな……」
「……知ったことか。じゃぁな」
「……好きにしろ」
勇次は捨て台詞を残してワームホールに消えていった。残った智は、溜息を一つ漏らしてその場を後にした。
智が会議室に戻ると……。
「あっ、安芸さんお一人ですか? またですか……」
「文佳さん。やっぱこうなるんだね。……安芸さん。角館さんには本気出しても大丈夫だった筈ですよ?」
「本気って、細川君。殴り合いの喧嘩でもしろと?」
文佳と忍が語るところによれば、自分が目立てない、活躍出来ない依頼には、手続きなどお構いなしに行動している様子である。
「う~ん」
智を迎えた二人とは別に、只一人マイペースに悩んでいる御仁がいるようである。
「加勢。何を唸っている? ……そうだな。君の発言が、国王に期待させてしまったことは理解しているのか?」
唸っていた理に、突然、問いを投げかける智がいた。
「結果から見ると、余計な質問だったかもしれません……。ですが、質問自体は極普通の内容だった筈ですし、ひとまず宗教と研究が絡んでいないことは分かりました」
「それがどうだと言うのだ」
「そうですねぇ……。地球では研究に宗教が絡んでしまっていたため、迫害や刑罰なんかもあったかと。ですがテーリアでは地球と同じ目には遭わないんじゃないでしょうか」
智の問いに答え始めた理だが、理の考えと智の考えに食い違いがあるように見受けられる。
「……なるほど。学者的な見解だが、この後どうするつもりだ?」
「何か、手伝えることがあるのではないでしょうか?」
「今回の依頼内容は……。勇者一行としては管轄外だと考えている」
「エンデュスを見捨てるつもりですか?」
「加勢。今、この勇者一行に学者はいるか?」
何か手伝えることがないものか考えていたような理であるが、智の問いに、何か気が付いたように表情が変わった。
「なるほど……確かにそうなりますね。勇者一行としたらそうなのでしょうが、勇者一行は戦うだけが仕事なのでしょうか?」
冨佐枝なりに勇者一行の有り様を提示して見せたようであるが……。
「……文明を汚染してはならない」
「ん? う~ん。それって……」
智の言葉に、伸びていた忍までもが反応した。
「勇者一行の規則の一つだな。これは、その星で生を受け進化してきた種族を尊重し、その流れに関与してはならないという物だと考えている」
「……難しく考えると、そうなるんですかね」
智の考え方に、少々難しい表情をしながら文佳も加わってきた。
「……では問う。勇者一行がその星の種族と接触することを許可されているのは何故だ?」
「厳密には現地課の人員も当てはまるとは思いますが。そうですね。勇者一行は戦いの専門家に一番近いからでしょうか?」
最初に答えたのは冨佐枝であったのは、営業部、現地課がもっとも現場に近いと考えていたからかもしれない。だが、智がそこについて問うていないことも理解していた。
「悪い奴らと戦うため?」
「……忍さん。それは安直すぎな気が……」
「う~ん」
視線を上に向けながら言葉を口にした忍であったが、あっさりと文佳に否定されてしまい、申し訳なさそうな表情をする忍であった。
「……聞いた話だが、本来は最少の人数でその星に最大の貢献をすることだそうだ。まぁ、万が一に備えて戦術や戦闘技量も上げ、今ではセミプロ程度に至っている訳だがな。でだ、加勢。その星の問題の全てを勇者一行が片付ける必要はあるのか?」
「それはそうでしょう」
「出来ないことでもか?」
「知恵を出し合えば何とかなるんじゃないでしょうか」
「簡単に言うが、本当にそれでいいのか?」
智の質問に、ほとんどの者が“えっ?”という表情を浮かべ即座に何かを語る者はいないようである。
「……今回のような専門知識が必要なことで、あさっての方向になるような知恵でも出すのか?」
理詰めに次ぐ理詰めをする智に、理は直ぐに答えを導き出せない様子であり、他の面々もそこまで詰められてしまうと返答に困ってしまったようである。
「……流石に、そこまで来ると駄目ですね。安芸さんが言いたいことが分かりました。……すいません。趣味的な範囲で発言していたようです」
「安芸さん、格好いいです」
「安芸さんについて行きます!」
一応の結論が出たところで、智の聡明さに引きつけられる文佳と忍であった。
「君たち! 本来の班長は角館さんだろう」
「……そうなんですけど」
少々怒るように言い聞かせている智に、忍はしょぼくれてしまったようである。この辺りは、勇次の常日頃の行いによるところが大きいと言ったところであろうか。
「……さて、そろそろ戻らないといかんな。角館班長一人だけ戻っているから問題になっている筈だ。川戸君。帰還手続きを頼む」
「用意してありますよ」
緊張した雰囲気を払拭したいのか、智が明るく冗談めかして告げると、冨佐枝も心得ていたかのようで書類を手渡した。
「……あぁ、そうだ。川戸君」
「なんでしょう」
「今回の件は検討中と言うことになると思う。ついてはこの拠点内で共有を頼む」
「分かりました」
*
「あぁ~。今回は拍子抜けでしたね」
「そうなのかなぁ」
「ふぅ」
――ん? 業務長……。これは不味いな。
智達四人がワームホールを抜けると、真っ正面に業務長の小埜瀬が腕を組んで仁王立ちしていた。表情を見るだけで気が付いた面々は、何を問われるのか想像がついてしまっていた。
「安芸さん。角館班長だけが先に戻ったのは何故ですか?」
「んん。現地での依頼内容の詳細について少々揉めました。自分の考えについて角館さんが納得しなかったため、現地での混乱を避けるため、やむなく先に帰しました」
「文佳さん。あってますかねぇ」
「そうね。大筋はあっているような気がするわ……」
「文佳さん、どうしました?」
「業務長の険しい表情で、現実を思い出したわ」
「……そ、そうですね」
智と小埜瀬が会話している中で、文佳と忍がひそひそ話をしているようであるが、小野瀬の表情に勇者一行という肩書きも、現実のサラリーマンであることを思い出させるに十分であった。
一方、智は小埜瀬からの遂行中の説明を求められたが、なんとかごまかそうとしているようである。
「小埜瀬業務長。この場で要点だけ報告しますが構いませんか?」
「……いいでしょう」
「では。緊急の依頼内容ですが、護衛を含む戦闘とは無関係の学術的なものでした。よって、勇者一行が本来行う業務とはかけ離れていますので、先方には検討すると伝えてあります」
智がごまかそうとしているのをうすうす感じている小埜瀬であるようだが、智の提案に乗ることにしたようである。だが、その報告を聞いて表情が一変していった。
「……なるほど、分かりました。角館班長の単独行動については、別の日に聞くとしましょう。安芸さんにはこのまま同行して貰います。角館さんを含めた他のメンバーは待機室で待っていて下さい。今日の所は平服に着替えて良いでしょう」
そう言った小埜瀬は智を伴ってゼロクを後にした。残った面々は、ゼロクホールに併設されている待機室へと移動、ロッカーに入って元の服装に着替えを行うこととなった。
一階のゼロクから上層階に移動した智と小埜瀬は、緊急招集でお偉方が集まっている会議室にやってきた。
「失礼します」
ノックの後、小埜瀬が会議室のドアを開けて入り、続いて智も入って行った。
「テーリアに派遣した一行が戻りました。今回の指揮を担当した安芸智に、依頼内容を口頭で報告させます」
「……今回の派遣依頼について、重要な部分のみですが報告します。まず王国での謁見に同席した人物の肩書きから、国王、文部科学大臣相当、天文学者です。続いて依頼内容ですが、当該王国では天文学に関係する議論が激化し、王国民にも飛び火しているとのことで、争いに発展しそうであるとのことです。そこで、短期的に論争を沈める方法について訪ねてきました。天文学の論争ですが、天動説と地動説のどちらだ正しいかという命題だそうです。もう一つ、研究は王国から承認されており、宗教関係とは結びついていないとのことです」
ここまで語った智は、一呼吸置いた。
「……最後に。個人的な意見とはなりますが、この依頼については勇者一行として受けるべきではないと考えます。……報告は以上です」
智が語った依頼内容に、(株)空間倉庫の取締役と各社社長達は顔色を変えたようである。それもその筈で、勇者一行としては、“勇者”と付けていることからも分かるように、戦術や戦闘に特化した集団である。学問的な専門知識を必ずしも有している集団とは言えないことから、「何という依頼だ」や「困ったな」と言った感想が大半を占めるのは必然と言えた。
「……報告ご苦労様。この件は当社経営部が引き取る。安芸智以下の勇者一行は自社に戻るように。業務長、倉庫深度課も通常業務に戻るように」
智の報告中も顔色一つ変えなかった美朗が“後は引き継ぐ”と宣言したことから、智達は自社に戻れることになり、(株)空間倉庫も平常業務に戻ることとなった。
「失礼します」
智と小埜瀬は挨拶をして会議室を後にした。
倉庫一階の西奥にあるゼロクの待機室に戻った智は、勇次のふてくされた顔を見ることとなった。
「チッ。やっと戻ってきやがった」
「済まんな。待たせた」
「待ってましたよ。安芸さん」
勇次は、智達より先に戻った関係で三〇分以上はここにいる筈であるが、暴れることはしていなかったようで、社会人としてのモラルはあると言うことのようである。
「報告は済んだ、各自の通常業務に戻るぞ」
そう告げると、やっと肩の荷が下りたのであろう面々から笑みがこぼれ、忍と文佳に至っては「やったぁ」と声を上げながら飛び跳ねていた。
「さてと。各々の業務場所に戻るぞ」
「はい」
「フン」
着替え終わった智を含めた(株)舞王の一行は、揃って(株)空間倉庫を後にした。