実験9
「じゃぁみんな、わたしはリリアに付いて行くから暫くいなくなっちゃうけど、レンガは干しておいてね。あと、取れた獣の骨はどこかに集めておいて。」
「「うす」」
王都出発の日の朝、わたしは村人たちに出来そうなことを指示して別れを告げた。
できれば鉱石を見つけておいてほしいけど、それぞれ畑の作業もあるだろうしあまり多くは頼めない。
「しかし姫様と一緒に先生まで王都に行っちゃうなんてな、できるだけ早く帰ってきて下さいよ先生」
集められた村人の中でも一回り若い少年が言う。因みに先生とはわたしの事だ、一応学者って設定になってるからね。
「そうですよ先生!先生がいないと俺たちどうしたらいいか」
いや~。
皆そんなにわたしを頼りにしてくれてるのか。まだ短い期間しか過ごしてないけどわたし達、かなり信頼関係を深められた気がする。
「先生の機械がないとつまらない農作業に逆戻りだからな~」
そんな事を愚痴りながらみんなさっさと畑の方に行ってしまう。
わたしを見送ろうという気は全くないらしい。
うん、わたしとの別れを悲しんでる訳じゃないって知ってたよ。便利だもんね、機械。
「準備は出来ましたかな?デンカ様」
「あ、うん」
「ではそろそろ迎えが来るはずなので、庭で待つことにいたしましょう。お茶とお菓子を用意いたしましたので」
ワスコに連れられて庭まで行くと、リリアがティーカップを持ちながらくつろいでいた。
外出用なのかいつもより少し豪華な服を着ているし、お茶を飲んでいる姿がすごく絵になってる……
お前がいなければな、3号。
実は今回王都には3号も連れて行くことにしたのだ。科学的ではないと言われるかもしれないが、3号が野生の勘みたいな物を持っている気がしてならない。飼いモルモットなのに。
「デンカさん、本当によろしかったのでしょうか。私のせいでデンカさんに何かあったら、私どうしたらいいか」
「気にしないでって!わたしが行きたいから行くんだし、王都がどんな所か気になってたのは本当だし」
「そう言って下さるとありがたいのですが……あ!迎えが来たようですね」
ん?迎えって馬車か何かかと思ったけどリリアの視線の方向がおかしい、なんか空を見上げてる。
「って!うぉおおおあああ!」
やばいやばいこれはやばい!
メイドさんがお風呂沸かしたりするたびにファンタジーだなーって思ってたけどそんなのの比じゃない。
全長八メートルくらいの小型の船が空中に浮いとる。
飛行船とかじゃなくて、普通の船が。
「では参りましょうか、お嬢様、デンカ様」
ワスコが荷物を積み込みわたしたちが船に乗ると、船は静かに浮き上がり、動き出す。
どうなってんだコレ。
浮力も揚力もかかってないでしょ絶対。
「この船の仕組みを教えてくれぇ!」
「なんじゃぁ!おぬし」
というわけで、船に乗り込んだわたしが最初にしたことは、船長のところに聞き込みに行くことだった。
うぉお、魔方陣っぽいのいっぱい書いてあるし、一応ハンドルみたいなのもある!
「なにこれなにこれなにこれなにこれ」
幸い王都につくまで時間があったので、船長から聞きたいことを聞き出すことができた。
どうやらこの国で機械と呼ばれる類のものはすべて魔力を動力とし、その魔力の方向性を魔方陣によって操作しているらしい。
興味深い。
漠然とした動作でなく、魔方陣で定められた動作ができるということは、魔法にも理論があり法則があるのだろう。
魔法学とでも呼ぶべきなんだろうか、いずれ理解してみせる。動力をもって操作している以上、これも機械であり、機械であるならわたしのスキルで産み出すことも可能なはずだ。
「フフ、フフフ、フフハハハハハ!」
「デンカさん何だか楽しそうですね、でも運転手さんこんなに話してもらって ご迷惑で無ければ良いのですけど」
「気にしてくれるな、お嬢ちゃん。いつも貴族の方を乗せてるときは静かで肩がこっちまう。お嬢ちゃんたちみたいなべっぴんさんと話しながらなら、仕事も楽しいってもんよ。――おっと、そろそろ王都に到着ですぜ。二人とも外を見てみな」
おお。
言われてみれば巨大なお城みたいなのが見えてきた。
城下町は人でにぎわっていて、商店街らしきものも見える。王都ではリリアの家くらいが普通みたいで、建物も石造で質が高い。それにおそらく魔法の技術だと思うのだけれど、水路もあるし明かりも見える。見た目こそ中世ヨーロッパっぽいけど、町は清潔を保たれていて、悪名高い中世ヨーロッパの衛生感と比べるのもおこがましいくらいだ。
総合的な技術力だけなら二百年ほど前のヨーロッパと同じくらいかも。
「到着しましたぜ」
船長がそう言うと、船がふわふわと降下し、地面にトスンと着陸した。
わたしたちがおろされた場所は遠くからも見えた城の庭で、まさに今目の前に超巨大な城がそびえたってる。
うわー、とにかくデカイ。
普通に石で建物を建築しようと思っても、こんな大きさの物が自立するはずがない。ってことは建築技術にも魔法が使われてるんだろうな……。
「リリアドラス様ですね。お部屋の方にご案内します」
城のほうから執事が一人出てきて、わたしたち三人と一匹を城の中の部屋に招き入れた。
城の中は外見に負けず劣らず豪華で、地球とは異なる技術の最先端って感じがする。
高級ホテルかよ!ってくらい豪華な部屋に案内されたんですが、これが普通の王族の部屋なんですかね。
くそう、モフモフのベッドとか布団とか一つくらい持ち帰らせてくれ……。
「デンカさん、そろそろ着替えて行きましょう」
ベッドに顔をうずめて堪能しているわたしにリリアが声をかける。
ちなみにわたしとリリアは同じ部屋だ。後3号も。ワスコは、私は使用人ですからって言ってどこかに行ってしまった。
普段より三段階くらいきらびやかなドレスを着ているリリアは失明するんじゃないかってくらい美しい。
わたしはというと、高校の制服に少し装飾を付け足したものを着てる。わりかしお嬢様とかが集まる学校で、制服がそれっぽかったのが幸いした。
当時は私服でいいじゃんって愚痴ばっか言ってたけど、世の中何が起きるか分からないもんだね。
あとわたしの品位を疑われないように強調しておくけど、リリア領では普段リリアのお母さんのおさがりを着ていた。ずっと制服を着てるなんてするはずがないよ――実験に熱中してるとき以外は。
わたしは3号を服の中に忍ばせて、リリアはドレス姿で謁見の間っぽい所に向かった。
「それにしてもワスコはどこに行っちゃったんだろうね」
「きっと先に行って待っているのだと思いますよ、人を待たせないのがポリシーらしいですから。あっ、あれは……」
リリアの視線の先を見ると、男が三人真剣な顔つきで話している。年齢は全員二十歳プラスマイナス五歳に収まってるだろうか。後ろにはこれまたナイトって感じの従者が三人付き従っている。
っていうか…… 全員が物語から来ちゃいましたってくらいのイケメンで、気品オーラみたいなのを出してる。
あ、イケメントリオの中でも一番年齢の高そうなやつが、わたしたちに気付いて近づいてきた。
「久しぶりだね、リリアドラス」
「お久しぶりです……スタッカートお兄様」
……お兄様?!