実験8
「フフ、フフフ、フフハハハハ!」
高笑いが周囲に鳴り響き、わたしは満面の笑みを浮かべる。
村の人間から話を聞き、それらしい場所に目星をつけて数日。
ようやく見つけたぞ!
「鉄!鉄!ねんど!石炭!鉄! みんな、掘り出して!」
「「うす!」」
わたしの合図とともに村の男たちがピッケルを振るう。そのうち数人にはわたしが作ったドリルを持たせているので、採掘は順調に進む。
レンガさえ手に入れば炉ができる、炉が出来れば鍛冶ができ、鍛冶が出来れば道具を作り始められる。
完璧な手順が順調に進む事ほどすがすがしい事はないな。
「よーし。今からトラックを出すから手に入れたもの全部乗せちゃって!」
「「うす!」」
合図をだしつつ、なるべく大きな荷台の軽トラックを創造する。
しばらくは木材しか運んでこなかったこいつにも、ようやく鉱物を乗せられるというわけだ。
運転するのは誰かって?もちろんわたしだ。
構造はわたしがイメージした通りだし、どこをどう動かせばいいのかは完璧に理解している。
この世界では無免許運転なんてないしね。
「さっき取ってきたねんどをどんどんこねて!このぐらいの直方体の形にできたら、できたやつからこの上に並べていって!」
「「うす!」」
村に着いたら早速村人たちに指示を出す。みんなわたしの事を信じてくれているみたいで、せっせと作業をこなしてくれている。この調子ならすぐに完成するだろう。
今作っているのはレンガ。ねんどの形を整えて干して焼けば完成、そしてそれを使って炉を作る。
「スキルが無かったらどんだけ時間かかったか分からないし、ほんとスキル様様だよ」
「そうでしょう、しょうでしょウ。もっと感謝してもよいのですヨ」
「あんたが何かしたって感じはないんだけどね」
「ガーン」
そんなことをやっていると日が沈み、夜が来る。
電気などが存在しないので、その時間になったらいつも作業を止め、村の人もわたしも帰宅して晩御飯だ。
まぁわたしが帰るのはリリアの屋敷だけど。
「最近はまたいろいろと村で作って下さっているみたいですね、デンカさん」
食事中、リリアが笑顔でそう話しかけてきてくれる。
最近は元気を取り戻してきたようで、村まで出てきて仕事をしているのを見るようになった。わたしの頑張りの成果が少しはあるのだと信じたい。
「そうそう、後四日もあれば完成すると思うんだけどさ。今作ってるものは文明の開化って感じで特にすごいから、出来たらすぐに見に来てよ」
「そうなのですね!デンカさんが作り出す物は見たことも無いような物ばかりですから、私いつも楽しみにしているんですよ」
そう言った後でリリアは少し残念そうな顔で続ける。
「ですが……、すぐにお見せしてもらう事はできないかもしれません。実は王都の方から招集がかけられたので私は行かなければならないのです……」
「残念だけど、用事があるならしょうがないよ」
リリアにすぐ見せてあげられないのは残念だけど、色々忙しそうだし仕方がない。
にしても王都か……ここはど田舎だけど、中央はどんなところなんだろ。
そんな事を考えていたら、まるで思考を読んだかのようにワスコが聞いてきた。
「デンカ様は王都に行く気はございますか?」
あるよ、と気軽に答えようとしたが、その声はリリアに遮られた。
「ワスコ!」
え、今のってそんな重要な質問だったの?
なにが起きてるか分からないし流れに身を任せよう。
「お嬢様。デンカ様ならば全て理解しても着いてきてくださるはずです」
「デンカさんを巻き込むわけにはいきません!」
「もうすでに巻き込んでしまっていると思いますが。それに、いつまでも黙っている訳にもいかないでしょう?」
「――っ!それは……」
あ、リリアが困った顔でこっちを見てる。
わたし、求められている気がする!
「リリア!わたしはいつだってあなたの味方だよ!」
まぁ会話の流れはよくわかってないんだけどさ。
「デンカさん……わかりました。ワスコ、手紙を持ってきてください」
「かしこまりました――デンカ様これを、二週間ほど前に届いたものです」
ワスコから豪華そうな手紙を手渡される。
内容は――はっ?!なにこれ。
「驚かれるのも無理はありません、ですが印章は間違いなくデルフィニラ家のもので、偽装されたとは思えないのです。
私の父、ガウルテリオ・デ・デルフィニラは、自らの子供三十七人と貴族六十三人の計百人を競い合わせ、その中から後継者を決める事を発表されました」
手紙の内容はにわかには信じがたい。選んだ貴族たちに継承権を与えるため、わざわざ全員を養子に迎え入れている徹底っぷりだ。
「するとこの間の襲撃は、これを知っていた人間の仕業って事になるのか……」
「はい。この方法で後継者を決めるならば、周りは減れば減るほど選ばれる確率は上がりますから。私のような序列の低い王族でも血のつながりはありますから、消すに越したことはないと判断した者が居たのかもしれません」
手紙を読み進めると、最後の方に気になる一文が書いてある。
「『その実力を最も信頼する者を一人、騎士として選出できる準備をするように』?」
「その文の真意についても、競い合わせる方法についても、手紙に書かれている以上の内容は何一つわからないのです。明日行われる緊急招集で全て説明されるとは思うのですが……」
「お嬢さま、是非デンカ様に騎士として付いて来て頂くべきです。あの賊を退けたデンカ様の実力はお嬢様もご存じのはず」
「またその話ですか、ワスコ……。何が起きるかわからない状態で、デンカさんを巻き込むわけにはいきません」
おじいちゃんの中で評価高いね、わたし。そろそろ自分の意志を伝えておくべきだなこれは。
「ちょっとまってよ!何が起きるかわからないって危険かもしれないってことでしょ!」
「ほら、ワスコ!デンカさんもこう言って――」
「――そんな場所にリリア一人で行かせられる訳ないじゃん!わたしも連れて行って!」
なんかワスコがフォッフォッフォッってサンタみたいな笑い方してるんだけど、わたし何か変な事言ったかな。
「ダメです、デンカさん!この国の方ですらないのにこんな事に巻き込むなんて……」
「ダメって言っても絶対についていくからね、それなら最初から一緒に行った方がお互い安全でしょ」
「……はぁ、わかりました。でもついてくるだけですよ。危険だと思ったらすぐに逃げてください。王族と関わってもろくなことにはならないのですから」
「でもわたしリリアと出会えて後悔したことはないよ」
「……デンカさんは時々、恥ずかしげもなくそういう事を言います……」
リリアが少し顔を赤らめたところで、ワスコが満足げにわたしの方を見る。
「ではデンカ様。その手紙の通り、王都からの迎えが明日の朝来ますので、準備をよろしくお願いいたします。わたくしもご一緒させていただきますが、『選ばれた一人』かどうかによって別行動となる可能性もございますので」
「了解」
そしてわたしは眠りにつく。
魔法を中心とした技術の発達がどのような都市を生み出すのか、少し期待を抱きながら。