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実験7

 「あなた一体何なの……?」


 手の上に乗ってる箱に真剣な表情で語りかけている変人、それが今のわたしだ。

 強調しておきたいけど、狂ったわけじゃない。だって先に話しかけてきたのは箱の方なんだから。


 あれ、どっちもやばいか。


 「先ほど申し上げた通り、ワタシはあなたのスキルであり、『奇械きかい』でス」

 「えっと……スキルってしゃべる物だったんだ」

 「それは違いまス。しゃべる事ができるのはワタシが特別だからです、エッヘン」


 なんか蓋がパコパコ開きながらエッヘンって言ってる気がするし、わたしもうダメかもしれないね。


 「で、特別なあなたは何ができるわけ?」

 「さァ?強いて上げるならこのようにしゃべる事と、少し動くことはできるようですガ」


 さぁ?

 今、さぁ? って言ったのかこいつ。

 ってかこいつがしゃべる必然性ってなに?


 「もしかしてあなたが機械の動力ってことなのかな……普通にハンドル回しても蓋の開閉はできるはずなんだけど」


 『こいつ』にどの程度の出力があるのか気になり、蓋の上部を軽く押さえてみたが、蓋は見事に動かない。


 「マスター!そのように抑えられてはワタシが動けませン!」


 こいつよえぇ……出力としてあまり役に立ちそうにない……。そりゃ何かには使えるかもしれないけどさ……。


 「そのような目で睨み付けるのはおやめ下さい。そもそもワタシはスキルであって、何ができるかなどマスター次第なのでス。ですがご安心ヲ。ワタシをここまで複雑な構造で生み出す事が出来たのは、マスターが初めてなのでス!」

 「私以外にもこのスキル持ってる人いたんだ」

 「ええ、ですがひどいものでしタ。どんなに複雑でもせいぜいクワやスキのような道具だケ。ワタシはわずかしか身動きがとれず、しゃべるしかできませんでしタ。

 その点、マスターは素晴らしいでス!このように動くことの――」


 ――あ。

 パコパコうるさいから、消えろって念じたら消えた。

 なるほどね、出したり消したりは思い通りにできる、と……。

 じゃあ次は複数同時に生成できるか実験してみよう。


 わたしは先ほどと同じからくり箱を思い浮かべ、今度は二つ出てくるように念じる。


 「いきなり消すとはどういうことですカ!消すならけ――」


 同時に複数出すのも問題なさそうだ。

 次はどのくらい離れた位置までなら物を生成できるのか試してみよう。


 わたしの居る位置を中心として、少しずつ距離を離しながら箱を創造していく。


 「マスター!ワタシを無視するとは何事ですカ!もっとご自分のスキルを理解しようとは思わないのですカ!」

 「……このスキルが弱いって言われてた理由がわかった気がする」

 「なんト!このワタシに弱点ガ!?」

 「うん、おまえがうるさい」

 「ガーン」


 と、まぁ冗談はさておき。

 このスキルをいくらか検証した結果、いくつか制限があることがわかった。


 まず一つ。

 わたしが正確に構造を把握していないと機械は生み出せない。例えば光線銃とか架空の機械を、漠然と形だけイメージしてもダメ。からくり箱レベルの簡単なものでも、歯車の位置を正確に思い描かないとダメだったりする。

 そりゃこの世界の人がこんなスキル手に入れても扱えませんわ、農具とかそのレベルの器械しか作れなくても不思議じゃない。わたしですら電子機器を作ろうと思ったら設計図書かないと無理だもん。


 二つ目。

 この世界、ほぼ間違いなく魔力ポイントみたいな概念がある。

 スキルを使ったとき、作ったものが複雑であればあるほど、大きければ大きいほど、エネルギーを必要するものなら必要するほど、疲労のようなものを感じる。無理に使いまくらなければ、疲労で動けなくなるって事はなさそうだけど。


 最後。

 ぶっちゃけこれが一番致命的なんだけど、このスキル射程がある。

 射程はわたしの眼球を中心に半径五メートル二十三センチ、目の内側までは測れないから二センチほど誤差がありそう。

 この射程の中でしか機械は作れない上に、わたしが創造した機械でこの射程を出た物は例外なく消滅する。銃弾とか打ち出したものも消滅してるし、昨日もあの男が無防備に近づいてこなかったら危なかった。

 このスキルだけで近代化できるほど世の中は甘くなかったよ。


 とは言え?滅茶苦茶便利なスキルだと思うし不満なんて全くない。

 今だってわたしは機械を操作しながら村人の歓声に包まれているのだ。


 「「うおぉおおおおおお!!」」


 そんな声を村人が上げる中わたしが操縦しているのは、トラクターとかテーラーとか呼ばれてる機械だ。


 「こりゃぁおったまげたなぁ!やっぱ学者さんはすげぇべよ、こんなあっと言う間に土を耕せる魔法なんて見たことねぇだ」

 「ワタシ感動でス!このような高尚な物になれるとは、さすがマスターでス!」


 村長と『奇械きかい』が絶賛する。


 いやぁ、これ発明したのはわたしじゃないけど、褒められると悪い気はしないよね。


 一時間ほどトラクターを運転して、結構な量の畑を耕すことができた。交渉を切り出すならこのタイミングだろう。


 「村長さん。他にも農業をうまくいかせる方法はあるんだけどさ、ちょっと人手が欲しいんだよね」

 「おお!すぐにわけぇ者を何人か集めるだよ」


 わたしの言葉を聞くと村長はすぐに駆け出してしまった。そして連れて帰ってきたのは、宣言通り二十代くらいの男を十二人。


 もともと人手を借りて何かをしようとは思っていたけれど、こういう要求は実績があったり作業がある程度進んでいたりしなくては難しい。

 わたしの授かったスキルはこの両方を瞬時に解決できたというわけだ。


 フッフッフッ。

 この人数がいればまぁ何とかなるだろう。

 スキルで作った機械が消えてしまうなら、手ずから機械を作ってしまえばいいのだ。


 水を引き、炉を作り、水車を回し、鉄を打ち……幸いそれらを作るのに必要な機械はすべて『揃ってる』。

 まずはこの村の大開拓から始めよう。この村が豊かになれば、リリアの気分も少しは和らぐはずなのだから。


 「よぉし!暫くはわたしの指示に従ってもらうからね!」

 「「おおおお!!」」


 こうして村は産業革命への一歩を踏み出すのだ。

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