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実験6

 昨日、わたしは人を殺した。


 でも罪悪感とかは全然ない。あいつらは最低のクソ野郎だったし、悪党を懲らしめてやったぜ! ってくらいの軽い気持ちだ。

 もともと感情が希薄とか反応が薄いとか言われてたけど、実際人を殺してもこれなのだから本当のことなんだろう。


 馬車とか死体とかはあの時隠れていたメイドが片付けたし、わたしの中で昨日のイベントはもう終わったことだった。


 でも、リリアは優しいからそんなに簡単に考えられないみたい。


 「ごちそうさまでした……」


 難しい顔で、無理に笑顔を浮かべながらリリアが食堂を後にする。

 いつもならわたしに眩しいくらいの笑顔で挨拶してから部屋に行くのだけれど、今日はメイドと静かに部屋に戻ってしまった。


 まぁ殺されそうになったんだし普通はあんな反応が正しいのかもしれない。

 というわけで、今は食堂にわたしと執事のワスコが二人きりだ。


 「昨日あんな大怪我だったのによく回復したね」


 ワスコを見る限り、昨日大量出血していた人間とは思えないほどピンピンしている。

 特にひどかった脚の傷は完治はしていないらしく、多少かばうように動いているが、歩ける状態というのがそもそもおかしいのだ。


 「わたくしは上級の治癒魔術師なので、なんとか一命をとりとめる事が出来ました。デンカ様の声で意識を取り戻せていなかったら危ないところでした、誠にありがとうございます」

 「いや、それはいいんだけどさ。ワスコもリリアも戦えたんだ」


 結構な驚きだった。

 なんせリリアは可憐な女の子だし、ワスコは六十代くらいのおじいちゃんだし。

 あんな魔法を撃ったり、ボロボロになるまで剣で戦ってたとか未だに信じられない。


 「お嬢様は貴族の中でも優秀な方で、一通りの属性で下級、炎魔法なら中級まで扱えます。

 わたくしは凡人ではありますが、時間だけはあったおかげで上級の治癒魔術、中級の剣術と風魔法を修めています。もっとも、歳で剣術の腕がなまってきているのですが」


 下級中級上級ね……。

 二人が負けたのは魔法が使えなかったからってことか。


 「ところでさ……」


 ここからが本題だ。


 「ワスコ。あなた、わたしが生きて戻ってくると思っていなかったでしょ?」

 「……」

 「魔法が無力化されることを知っていたのにわたしに伝えなかった。それはなんで?もしかしてメイドがこそこそ隠れてたことと関係ある?」


 あのゴミの能力は有利不利がかなりはっきりしたものだった。知っているか知らないかで、勝率が大きく変わってくる。

 伝えなかったのはただ単に忘れていたから?

 それとも――


 「――大変申し訳ございませんでした」


 ワスコがわたしに向かって大きく頭を下げる。


 「お察しの通り、わたくしはデンカ様を囮として利用しようと考えておりました。


 昨日、敵に魔法が通じないと判明し不利を悟った時、武術の心得の無いアレシアには一時隠れてもらい、隙を見てお嬢様を助け出すように指示を出しました。その隙を、デンカ様に作っていただこうと考えたのです。

 敵の能力を伝えなかったのは、それを知ると逃げてしまうのではないかと恐れたからです。デンカ様は学者と聞いていたので……。


 デンカ様。

 あなたはお嬢様を無傷で助けてくださいました。

 だからもしデンカ様が望まれるのなら、わたくしは命をもって、自分の行動の償いをする覚悟があります」


 そして、ワスコは強い意志を秘めた目でわたしの方へ顔を向けた。


 「ですが!もしそれを望まれるのなら!どうかお嬢様の隣にいて差し上げて欲しいのです!あの方は素晴らしい方ですが、環境に恵まれず、未だ未熟な部分もございます!あなたなら――」

 「まってまって!別に囮にしたことを怒ってるわけじゃないから」


 今にもショック死しそうな勢いでしゃべるワスコを慌てて止める。


 このおじいちゃんちょっと真面目すぎるよ、もー。

 死んで罪を償うとか、侍かなにかですかって。


 「わたしはただ、ワスコがあの犯罪者共とグルだったらどうしようって考えただけだからさ。そもそもわたしもリリアも無事助かったんだし、結果オーライでしょ」


 ワスコはキョトンとした顔でわたしを見る。


 そんな変態を見るみたいな目で見ないで欲しい、普通じゃないってのはわかってるつもりだけどさ。


 「デンカ様、わたくしは襲われた時、ひょっとしたらデンカ様が手引きしたのではないかと疑っておりました。それを今、猛烈に恥じております。

 あなたをこの屋敷に招き入れることができて、本当によかった」


 そう言ってまた頭を下げる。

 本当におおげさなおじいちゃんだ。

 

 「……あなたは、どうしてそこまでお嬢様の事を考えてくださるのですか?」


 神妙な顔でわかりきったことを聞かないでほしいな。


 「そんなのリリアが『素晴らしい方』だからに決まってるでしょ!後このスープおかわり!」


 ワスコがフッと微笑む。


 「かしこまりました。今、すぐに」




 ふぅ~食った食った。

 昨日いろいろあってお腹減ってたから、朝なのに結構食べてしまった。


 まぁ食後の運動には丁度いいのかな?


 実験を始めよう。


 対象はわたしが授かったスキルと呼ばれているもの。

 名称は『奇械きかい』。


 わたしの感覚が正しければ、わたしは機械、あるいは器械を自由に生み出せるっぽい。

 まだデリンジャーしか作ってないし、それも二回だけだから何ができて何ができないのか完全にわかっていないのだけれど。


 とりあえずスキルを使用してみないと何も分からないし、何か作ってみますかね。

 危険性がなくて、小さくて、複雑じゃない感じのものから作ってみよう。


 となると……。


 わたしは木組みのからくりをイメージする。

 一辺三センチ程度の箱型で上の面が開くような仕掛け、横側にハンドルが付いてて、それを回すと箱が開閉するといった具合の物だ。

 そのイメージが具体性を帯びると、わたしの手の平の上が淡くひかり、そこに想像していたものそのままの箱があらわれた。


 おお、本当にできた。

 無から有が発生するとか、この世界では質量保存の法則が働いていないっぽいな。それともどっかから質量とかエネルギーとか引っ張ってきてるのか?この量を?これ投げたら国規模で消し飛ぶんじゃね?


 色々考えていたから声に出ていたのかもしれない。返事が返ってきた。


 「爆発はしませんヨ」

 「あっ、爆発はしないんだね……って、え?」


 いまわたしは屋敷の外に居て周りには誰もいない、返事など帰ってくるはずがないのだ。


 「まさか幻聴?頭でも打ったかな」

 「ワタシでス」

 「……」


 ありえん。でも間違いない。


 「あなたの『奇械きかい』でス」


 手の平の上にのっている箱が言葉を発している。


 「しゃべったぁぁあああああああ!!」

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