実験24
数学には回答が一つしかないと言うと、いくつかの反論が出てくるかもしれない。
初歩的な数学さえ知っていれば、変数を含む方程式がその次数と同じだけ答えを持ちうる事を指摘する事ができる。
もしくはシュレディンガーの猫や素粒子など、観測しなければ答えの出ない例をあげて、単一の回答を出せないと指摘するかもしれない。
だけど上神電荷に言わせれば、それらは全て詭弁だ。
どれだけの解が存在しようとも、一つの答えしか許されないし、結果を予想する事しかできなくとも、予想から結果が外れる事が許されないように、真理は一つしか存在しない。そして彼女にとってそれ以上に明確で美しい物は存在しなかった。
だが、だからといって彼女が完璧な物だけを愛しているかというと、そうではない。数学から視野を広げ、科学という分野全体の歴史を見ても、間違った理論が正しいと思われていた例などいくらでも存在する。
彼女が愛しいと思う基準はただ一つ。それは真理に、言い換えれば目的に、ひたむきにたどり着こうとする行為だ。誤っている部分を補正し、正しい部分は補強して、一歩一歩確実に真理へと近づいていく行為こそが、彼女にとっての科学だった。
幼い彼女は自らもその理想にふさわしい存在になりたいと願った。論理的に合理的に、目的のために勤勉に動き続ける真理の――ただ一つの答えの探究者に。
彼女にとっては幸運な事に、その為に必要な資質を彼女は全て持っていた。
才能を
洞察力を
器用さを
記憶力を
冷静さを
だけど何よりも、欠落を。
それを与えたのは彼女の二人の兄だったのかもしれない。突き詰めたような人間の悪意と、醜悪なまでの人間の善意を、目をそむけたくなるような形で抱えている二人。デンカがこうなったのは、ある意味で当然だったのだろうか。
彼女は、目的の為ならあらゆる手段を択ばない。




