実験16
同盟を結ぶ前に、仲間として信頼できるほどの力があるかどうか知りたかったって事なんだろうけど、いくらなんでもこんな方法選ぶかな普通……。お互い重傷を負わずに済むって確信できるほど、ネスタがラッドクォーツの強さを信頼しているってことなんだろうけど。
それにしても、ラッドクォーツとかいうあの男――どこまで本気だったのか分からない。心の底から戦いを楽しんでいるように見えたし、ネスタが止めなければもしかしたら……。
ラッドクォーツを見ると、先ほどの獣のような雰囲気は幻のように消え去り、子供のような純粋な笑顔を向けてきた。
「ん? あぁさっき言った事は謝るよ、全部ウソだよウソ。リリア様が序列三十七位なのは、リリア様のお母さんが最後に王様と結婚したからだったかなぁ。まぁそう言えって言ったのはネスタ様だし、悪いのは大体ネスタ様のせいだから」
まるで言い訳をする子供のようだ。だけどネスタが元凶だってのには、おおむね同意するしかない。
わたしはネスタティオに視線を移す。
「わざわざ不意打ちみたいに力を試す必要はあったわけ? わたしに何ができるか見たいならそう言えばいいじゃん、リリアの協力者にスキルを隠すつもりは無かったんだし」
「ラッドクォーツと戦わせればより正確に力量が測れるからな! あとお前、自分が周りからどのように見られているかわかっているのか?」
どのように見られているか? 黒い髪珍しーとか? でも見た感じ黒い髪の人もそこそこいるしな……。 あとはなんだ……?
「ここまで言って理解できないのか? まぁいい、俺が説明してやるから光栄に思うがいい。
いいか、ウワガミ・デンカ。リリアが言っていた事と世間の風評を客観的に判断すると、お前は異なる国から来たと称し、謎の道具を使い、ある程度の実力を持っている素性不明の人間だぞ? しかもご丁寧なことに、王位継承戦の直前にお前は現れた」
「なにそれ、ただの不審者ですやん……。」
冷静に考えるとわたしやべぇな……。国の名前もジャパンとかでっち上げたやつ伝えてるし……。
「その通りだ。俺はリリアの事は知っているが、お前がどんな人間かは知らん。お前がリリアを守るに相応しい力を持っているか、守るに値する忠誠心を持っているかどうかは、早急に確認しなければならない案件の一つだったわけだ。同盟を組んだ後内部からほころびが生じるなど考えたくもないからな」
うーん。ネスタもなんだかんだでリリアの事を心配しているからこその行動だったわけか……。
そう考えると許せなくもない? まぁ微妙なところだね。
「で、どうだった? わたしほどリリアに相応しい人間はいないでしょう?」
「ラッドクォーツ、こいつは大丈夫そうか?」
ラッドクォーツは首をかしげながら考えるそぶりをする。
「えーっと……。多分大丈夫じゃないかなぁ。挑発に乗ってきた時に手を抜いていたような感じはなかったし、スパイとか何か狙ってるってわけじゃないと思う。強さの方は普通よりちょっと強いくらいかなぁ、アハハ」
うっ……。あれだけ武器の差があっても、ちょっと強いの評価なのか。確かにさっき戦ってた時も、ラッドクォーツには喋ってる余裕があったし、妥当な評価なのかもしれない。近代兵器使えば某ゲームのように無双できると思ってたけど、この世界の人間はわたしの想像以上に強いみたいだ。
「ラッドクォーツ、お前の普通はあてにならん。級位で表すとどの程度の位置だ」
「上級に片足突っ込んでる感じ? 中級じゃないのは間違いないね。上級でも中位だと厳しいし、上級上位と僕ら三騎士みたいな特級には絶対に勝てないかな。ってなわけで戦闘能力は上級下位ですね」
ハァ? 上級って言われてもピンと来ないんだけど。
困惑してるわたしとは違い、リリアはあふれんばかりの笑顔を浮かべながら、わたしの手を握りしめてくれた。
「すごいです、デンカさん! ラッドクォーツさんに上級だと認めてもらえるなんて!」
「ありがとうリリア! よくわからないけど!」
こんな事で喜んでもらえるなんて、上級でよかったよほんと。
わたし達の様子を見ていたラッドクォーツがネスタの前で両腕を広げる。
「ネスタ様! 僕は特級ですよ!」
「だから何だ、そんな事はすでに知っている」
「アッハッハ、王子は手厳しいなぁ」
「そんな事よりだ!」
全員注目しろと主張するかのようにネスタが声を張り上げる。
「デンカ! 俺はお前がリリアの騎士だと思っていたが、どうやらリリアは騎士を選ぶ気が無いようだな。お前が欲しい! 俺の部下になれ! 俺の下でならお前の知識とスキルを有効活用できるだろう。 リリアには優秀な護衛を他に付けるから心配するな」
「やだ」
即答であった。
「ハッハッハッハ! やはりお前は面白い!」
「いいんですか? デンカさん。きっとネスタティオ兄様の領に行った方が、デンカさんの作ろうとしている物も作りやすいですよ?」
リリアは心配そうな様子でそう聞いてくる。だけどわたしの気持ちは変わらない。
「そんな悲しい事言わないでよ。前にも言ったけど、わたしはリリアに恩返しがしたい。そのためにリリアのそばに居たい」
「デンカさん……」
そしてわたしがリリアの手を強く握り返すと――
「ねぇ」
――後ろから声がした。
「そろそろ帰りたい」
そう言ったのは、気怠く眠そうな雰囲気をまとった小柄な女だった。体格だけを見れば中学生くらいにみえるけど、落ち着いた態度から考えて見た目より年齢は高いきがする。彼女はゆったりとした服を少し引きずりながら、目をこすっている。
リリアやネスタと一緒に入ってきたことを考えると、こいつは同盟を組む三人目の王族、名前は確かイベリッサ。
皆の視線が静かにたたずむ彼女の下に集まると、ぐぅ、と、彼女の腹から音が鳴った。
「……あとお腹減った」