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実験13

 「そのような事が起きたのですか……」


 わたしとリリアの話を聞いたワスコは驚くわけでもなく、ただ頷いた。


 「事前に気を付けろって言ってたけど、今回の事は知ってたわけ?」

 「部分的には、ですな。今回の王位継承にあたって、陛下が過激な方法で継承者の選出をするというのは城内でも噂されていた事でしたから」


 なるほどね……。

 準備とか必要だっただろうし、犯罪を許可とか完全に秘密裏に行えるはずもないか。そりゃ噂が出回るわ。


 「リリアはどうしたい?」


 もう王位継承戦は始まってしまったし、止める事もできない。

 ならわたし達が考えるべきはこれからの方針だ。

 リリアが王になりたいと言うならばわたしは全力でそれを手伝おう。


 「私は……王位に就くつもりはありません」

 「ですがお嬢様、この戦い辞退はできませぬぞ」


 そうだ。王はこの戦いに辞退の選択肢を与えなかった。

 戦いから『降りる』ことはできるが、そうするためには評価されうる行動を取らない、つまり領の一切の発展を諦める必要がある。それもひと月ふた月ではなく、五年間だ。


 リリアには人一倍の責任感と優しさがあるから、自分の都合で領の発展を妨げるような行動が取れるはずがない。きっとこれまで以上に勤勉に働くに違いない。


 だがその勤勉さは、同時に他の王位継承者への敵意にもなりうる。


 「わかっています。ですが、私は今まで通り領主としての責を全うするだけです。もし危害を加えられるような事があれば、その都度対処すればいい。幸い私のように小さな土地しか持たない領主を敵視するような者も居ないでしょう」


 それはどうだろうか。

 リリアが貴族だったならばそれで良かったかもしれないけど、リリアは王族の一員だ。あのガウルテリオは王族だろうが元貴族だろうが気にもしないだろうけど、他の貴族はそう思わないだろう。隙さえあれば、きっと狙われる。


 それにだ。


 わたしの知識とスキルがあれば五年は十分に過ぎる。

 それだけの期間を与えられるならば、五百年分は技術を進めて見せよう、遥かに広大な領土を開拓して見せよう。リリアのその功績は絶対に他の人間を凌駕する。

 狙われる時は必ず来る。


 ――だからわたしが守らなくてはならない。


 そんなわたしの思いと裏腹に、リリアはわたしに告げる。


 「デンカさん。先ほどはうやむやになってしまいましたが、私は騎士を選ぶつもりはありません。父上のお話を聞いて確信しました」

 「どうしてさ!? そんなの危険すぎるよ!」

 「攻撃されたのならば、正当防衛ですから護衛を雇えば抵抗することができます。そして、私から攻撃をすることは絶対にありません」


 それは事実だけど正しくはない。

 確かにこの戦いで騎士の役割とは攻撃であり、そうする意志がないのならば無くても問題は無い。防御だけなら第三者でも可能だ。だけど攻撃の手段を失うという事は後手に回り続けるに等しい。護衛が多い金持ちの王族ならともかく、リリアが先手を取られ続けて勝てる訳がない。


 「危険な事は理解しています。ですが、罪を犯すつもりも、誰かに罪を犯させるつもりもありません」


 そう言いながら、リリアはただ真剣な顔でわたしを見つめてくる。


 それを見れば一目瞭然だった。この()は綺麗ごとしか見ていない訳じゃない、リスクを承知で信念を貫こうとしている。

 それに対してわたしのようなものが何か口を出せるだろうか……。


 わたしが黙っていると、ワスコが口を開く。


 「どうしてもでございますか?」

 「ごめんなさい。でも、どうしてもです!」

 「そうですか。ではわたくし共は陰なら支えさせて頂くしかありませんな、デンカ様」


 その言葉を聞いてハッとする。


 そうだ。別に騎士なんてならなくても協力はいくらだって出来るし、わたしにしか出来ない事もある。リリアと危険を共有できないのは残念だけど、わたしのする事に変わりはない。


 「そうだね! ならさっさと領に戻ろう、やってる途中の事が結構残ってるし」

 「はい!よろしくお願いしますね、デンカさん」


 リリアが笑顔を向けてくれる、それだけでわたしは十分だ。


 すぐさま帰る準備を始めるわたしだったが、三号をカゴにぶち込んだところでワスコが口をはさんできた。


 「少々言いづらいのですが、我々が空中艇を利用できるのはまだ先でございます」


 は?


 なんでも話を聞くと、空中艇には数に限りがあって一日にそう何組も乗せられる物じゃないらしい。迎えに来た時も数組ずつ日を変えて行ったそうで、その間は城に滞在していた人が多いそうだ。迎えと同じ順番で送るらしいのでわたし達は――


 「――もしかして帰るの最後?」

 「そうなりますな。個人で飛空艇を持っている方や馬車で帰る方もございますので百組待つ必要はありませんが、それでも利用できるのは三日後だそうです」


 三日後か。言われてみれば荷物の量も結構あったね、殆ど任せてて考えてなかったけど。

 まぁこのお城で待っていられるなら、居心地も良いしわたしに不満はない。


 ただ、リリアの意見は違った。


 「いえ、どこか外で泊まることにしましょう。あんな出来事があった後だと、城の中では何が起きるかわかりませんから。今日は遅いから無理ですけど、明日の早朝には馬車で帰れるでしょうし」


 できるだけ早く帰りたいなら、わたしがヘリコプターを作るって手もある。構造は完璧に理解してるし、操縦の方も問題ない。だけど三人乗りで半径五メートル以内だと少し条件が厳しいし、万が一の対応ができないので却下だ。

 後は車だけど、道が全然分からないんだよね、来るときに魔法の船の仕組みに集中しすぎて。


 「わたしはそれで問題ないよ、王都を少し観光してみたいと思ってたから丁度いいし」

 「かしこまりました」


 ざっと準備をして部屋を後にする。城の入口のロビーっぽい所に行くと、窓の外からもう太陽が沈み始めてるのが見えた。


 「もうこんな時間だったんだね。わたし、だいぶお腹減ってきたよ」

 「そうですね。お城で食事もできますけど、せっかくだからどこかお店に行きましょうか」

 「ちょっとまって!」


 外への一歩を踏み出そうとしたとき、後ろから聞き覚えのある声をかけられた。


 「ラッドクォーツさん?」


 振り返れば白髪の剣士がわたし達の方に向かってくるところだった。


 「えっと、本日はご機嫌麗しゅう……まぁいいや」


 うわ、やっぱり第二王子の騎士だ。

 そして指さしてる方を見ればやっぱりいるよ。椅子にふんぞり返ってる偉そうな男が……。さっきまで広間で喚いてたんだからもう少し落ち込んでくれよ……。


 「リリア様、あちらでネスタ様が話したい事があるって言ってるんですけど、ちょっと来てくれませんか?」


 お前がこっちに来い。


 そんな感情をこめてネスタを睨み付けたつもりなんだけど、何を勘違いしたのかちょっと口角を上げやがった。

 ダメだあいつは……。

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