実験10
暫くの間リリアとイケメン三人はザ・貴族ってって感じの世間話をしてて、わたしが会話に割り込む余地は無かった。まぁわざわざ割り込む気も理由もないけど。
仕方ないからイケメンの後ろに控えてる騎士たちみたいにリリアの後ろに立ってたんだけど、イケメンが誰なのか大体わかってきた。
こいつらはリリアの兄であり、序列一位、二位、三位の王子であり、次期国王の最有力候補たちだ――国王のあの手紙さえなければだけど。
「そう言えばリリアドラス、君のところも襲撃を受けたらしいね。大事は無かったのかい?」
そう言って話題を切り替えたのは、スタッカート・エル・デルフィニラ。
国王の子供の中では二番目に年齢が高く、長男で序列は一位。年齢は二十五歳くらいに見えて、身長は目測で百八十センチくらいあるように見える。
スタッカートの第一印象は爽やか系のイケメンで、発する言葉一つ一つに落ち着きがあって聞きやすい。白馬に乗って手を振ったりしても様になる人間ってのはかなり限られていると思うけど、こいつなら何の違和感も感じないだろう。
しかし、ようやく話が本題に入ったっぽいな。貴族同士ってのは回りくどい話し方をしなくちゃ死ぬルールでもあるのかね。
「ワスコが怪我を負ったのですけど、幸い犠牲者を出すことはありませんでした。私のところ『も』と言う事は他にも襲われた方がいるのですか?」
「はい、あの手紙のせいで、序列の低い王族の所には物は試しとばかりに暗殺者が送り込まれました。ゴロツキばかりで殆どの王族は無事でしたが、残念ながらアセビリオ兄さんが殺されたそうです。貴族が王族の命を狙う現在の状況は看過出来ません、我々で父上に抗議しなければ」
いや、残念ながらとか言いながら眉をピクリとも動かしてないじゃん!ってツッコミたくなる男が第三王子のアゼル・エル・デルフィニラだ。身長百七十五センチあって高校生か大学生くらいに見えるけど、リリアの事を姉さんって呼んでるしまだ十五とか十四とかみたいだ。
見た目はクール系のイケメンで、メガネをかけている。
メガネあったのかよこの世界!
魔法で加工してレンズを作ったのか、あれ自体がメガネの形をした魔法道具で視力を強化しているのか……。
じろじろ見てたらアゼルの後ろに控えてる女騎士みたいなのに睨まれた。
む……ちょっと損した気分。
「しかしリリアの所に行った奴らのスキルが『魔消』に『観定』って事は、そいつら貴族殺しだろう?リリアの戦力でよく対処できたな」
ちょっと乱暴な言い方をするこいつはネスタティオ・エル・デルフィニラ。第二王子だけど、第三王子のアゼルより少し背が低い。さっきから一人だけ乱暴な言葉づかいだし、本当に王族なのか疑わしい。
目つきも悪いし、一目でやんちゃしてるってわかる外見だ。
「ネスタ! そんな言い方は無いだろう!」
「いえ、いいんです、スタッカート兄様、ネスタティオ兄様のおっしゃる通りですから。実際デンカさんが助けてくれなかったら私も殺されていたでしょうし」
わたしの話題になって、全員の視線が集まってきた。
「貴族殺しを倒したって事はお前スキル持ちか?俺が発言を許す、お前のスキルを言ってみろ」
このネスタティオとかいう男なんでここまで高慢なんだ?
正直答えたくない――が、こいつ相手に隠し事してリリアの悪評をたてるような事は避けたいから、選択肢がない。
「えっと……『奇械』ですけど」
「『奇械』?創造系のスキルにも関わらず最弱のスキルだろ?そんなスキルでどうやって敵を退けた?お前を見た限り戦えそうには見えないが」
「それは僕も気になるな。貴族殺し相手なら低級スキルだとばれていたわけだろう?」
なに?『奇械』ってそんなに有名なの?スキルは千差万別って聞いたけど、弱すぎて有名なのか?このスキルは……。
「一人が油断して近づいた時に武器を作って、運よく不意打ちする事が出来たんですよ」
「待て、お前のスキルは人を殺傷できるような物を生み出せるのか?」
ネスタが食いついてきた……。
理解している理論が違いすぎて銃なんて説明できないんだけど。
何と答えるべきか考えていると、ネスタティオの後ろに控えていた銀髪の男が身を乗り出してきた。十代後半に見える細身の剣士だ。
「ネスタ様、僕という者がありながら他の人間を勧誘ですかぁ?騎士は一人しか選べないって手紙に書いてあったじゃないですか、天才の僕を差し置いて他の奴を選ぶつもりじゃないでしょぉ?」
「今更お前以外を騎士につもりは無い、ただ気になった事を聞いただけだろうが!あとお前はいちいち言い方が気色悪いぞ、まったく……。まぁいい、そろそろ時間だから俺は失礼させてもらおう」
うわお。わたしに会話振っておきながらさっさと行っちゃったよあの男。
その様子に納得したように、スタッカートがリリアに告げる。
「私たちもそろそろ失礼させてもらうとするよ。他の人はともかく、我々兄弟が遅れるような事があっては父上になんと言われるかわからないからね」
そしてわたしとリリアがその場に残されてしまった、王族とはまったくせわしないものだ。
「ごめんなさいデンカさん。私が口を滑らせたばかりにあのように質問攻めにされてしまって」
「リリアのせいじゃないよ。それに、リリアが平気で嘘ついたりしたら、わたしショック受けるかも」
「ショックだなんて大袈裟です、私だって嘘くらい付きますよ?」
「例えば?」
「えっと……今日は雨です!とか。あ、デンカさんその顔、私の事バカにしてるでしょう」
ちょっとふくれっ面でリリアが抗議の声を上げる。
あいかわらずリリアはかわいいなぁ。
そんな事を話しながら歩いていると、待っていたらしいワスコが私たちを見つけて向かって来た。
「お二人ともドレスがよく似合っていらっしゃいます、まずは国王陛下がお待ちの謁見の間に向かいましょう。そこで説明がなされるはずです。ただ、その前にお二人に伝えておきたいことがございます」
ワスコの顔はいつにもまして真剣で、伝えようとしている事がただ事ではないと即座に理解できた。
「城の中でいくらか情報を集めていたのですが、思っていたよりはるかに厄介な事がおきそうなのでございます。デンカ様、謁見の間ではどうかお嬢様をお守りください」
「守るって、選ばれた貴族がリリアの命を狙うかもしれないって事?リリアの序列は低いらしいし、まず狙われるのはあの兄弟三人じゃないの?」
わたしが疑問の声を上げると、ワスコがわたしの目を真っ直ぐに見つめて、重々しく言い放った。
「序列はもはや意味を持ちません。そして、お嬢様を狙うかもしれないのは貴族だけではないのです――ともすれば、ごきょうだい全員が敵になるかもしれません」
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