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冬と洗濯物と私

作者: 173

 此の小説はフィクションです。

 いやはや、参ってしまった。

 俺は単に洗濯物を干していただけなのだ。年末も差し迫る昼下がり、暖かな日差しで洗い物も佳く乾くと確信して作業を終えた。

 大窓を開けてベランダを後にせんとしたらば、大いに困惑してしまった。開かないのである。外界と楽園とを繋ぐ唯一の扉。俺は楽園を追放されたのだ。



 「何かの拍子」に錠が掛かってしまったのだろう。そう納得して「何か」を突き止めない人間が殆どだ――とは十年も前に読んだ小説のフレーズである。

 成程。確かに斯かる窮地を脱したとて、ぐうたらな俺は恐らく原因の究明を怠ることだろう。しかし今は、当面の窮地を脱する必要があるのも事実だった。


 手元には、一割と六分ほどバッテリーの残った携帯端末がある。此れを用いて消防に助けを求めることは出来る。また、手当たり次第に友人知人を呼ぶことも、決して能わぬものでは無い。

 但し其れは、色々な代償を支払うことになる。金銭では無い、色々な代償だ。



 腰を据えて、ふうと一つ息を吐く。

 そも、何ゆえ俺が独りぼっちで閉じ込められねばならないのか。「閉じ込められる」と言えば、概ねエレベータで綺麗な御姉さんと一緒に、と言うのが相場であるまいか(此の際、御姉さんが大胸であるかは拘らない)。

 斯くも聖なる日に、斯くなる仕打ちを受けねばならぬほど、俺の生き様は罪深いと言うか。


 そんなことを考えていたら、其の、まあ、下半身の一部が屹立してきたでは無いか。

 まあまあ納めたまえよ。自室とは言え、此処は外界。人に見られば公然猥褻たり兼ねない。

 そうにも拘わらず、如何にも鎮まる気配は無い。此のような変態的状況に、我が息子は悦んでいるようにも思えた。


――ええい、仕方あるまい。愚息の不徳を正すも、親の務めなるかな。


 寒空と暖かい日差しの中、俺は太くも無い自らを慰めることとした。



 さて、無事に彼は眠りに着いた。就寝前の大欠伸を受け止めるには、先に干したばかりのハンカチを用いた。思えば此の布切れは、愚妹よりの頂き物だったはず。斯くなる用途は想定しまいが、結果的には佳い仕事振りであった。次に顔を見たら褒めておこうと思う。


 満足した俺はバスタオルを階下に投げて、其の上に着地する作戦にて現状からの脱出を図り――美事、此の試みは成功した。我が脳内は大いなる喝采に沸いた。

 着地の際に、肘や膝、手のひらを擦り剥いたことは大きな問題では無かった。自室の玄関を施錠していたことに比べれば、そんなことは何の問題にもならなかったのだ。




―おはり―

 御高覧を賜りまして感謝の極みです。

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