雪肌の兄弟
肌を焼くような日差しの刺すような感覚が珍しい。
自国は一年の多くが雪に埋もれ、冬季を越えても曇天が空を覆うため直射日光が地上に届くことは滅多にない。
「レオナルド、ぼさっとするな。置いていくぞ」
牙を剥く狼のように刺のある声が、足を止めていたレオナルドを呼ぶ。
振り返れば、左右非対称に切り揃えられたレオナルドの前髪が揺れた。
白銀の髪が日差しで色を変えてしまうのではないかと不安になる強い光の中、パールグレイの瞳は先に歩いていた兄弟達が角の喫茶店に入る姿を捉えていた。
駆け足に続いてドアを開ければ、すでに兄弟たちは席に着いていた。レオナルドは空けられていた席に腰を下ろす。
「美人でもいたか?」
先程レオナルドを呼んだ青年、ヴァインスがにやにやとテーブルに頬杖を付いてレオナルドに問いかけた。
何かにつけて女性に絡めないと物を考えられない浮わついたヴァインスに、苛立ちを隠せずレオナルドはふいと顔を背けた。
「ヴァンではないのだから、それはないと思うよ」
レオナルドが答える気がないと判断し、長男のアレクシスが苦笑混じりに否定の言葉を口にした。
彼は体を背もたれに預けると、呼吸を落ち着けるように大きく息を吐く。レオナルドよりも青みが強い銀髪を耳の後ろで一つに結わえていたが、熱を放出しきれなかったのか火照った顔で息を整えていた。
アレクシスの隣では、末妹のシェリーが愛らしいレースのハンカチで彼の額の汗を拭き取っている。体調に問題のないシェリーが、兄よりも辛そうな顔をしていた。
レオナルドはヴァインスの問いなどなかったような顔で、アレクシスへと体調を気遣う声を掛ける。
「兄様、やはり戻った方がいいのではないですか?」
「少し休めば大丈夫だよ」
「俺もレオナルドに賛成だがな。この日差しで出歩くのはきついだろ」
二人の弟に言われ、アレクシスは困った様子で頬を掻いた。
隣ではシェリーも頷いており、益々アレクシスは眉根を寄せる。澄んだターコイズブルーの瞳には、不安げな弟たちの顔が映る。
遠目に見れば、彼らはどこにでもいる兄弟に映るだろう。
しかし、彼らをアカネース王国で姿を見かけるのは本来ならばあり得ない。
それは、彼らの外見を見れば理由が明白であった。4人揃っての透き通るような白い肌と色素の薄い髪や瞳は、彼らがレイノアール王国の人間であることを証明していた。




