0004 エンハンスver0.1
さて原作者様より賜ったアイデアを全力で出しまくるときが来ました! 不覚ながらもテンション爆上げです!
投稿遅くて本当にごめんなさい。許してください。
彼らが「強くなる」という言葉自体を受け止めるのに多少の時間がかかり、そしてまたその意味が分からないと悟るまで数秒かかった。
「強く、なる?」
『そうですカオリちゃんっ! 神様には独自のルールがあるので、そっちに手を出せないんですよー。アバターがかなりあるので使い捨てにできなくもないんですけど、手下たちも派遣しちゃいけないんです』
だったら手下を数体派遣すればいいじゃないか、というパソコンの思考を読んだのかそうではないのか、神は続けた。
『少ない数でも、バランスが崩れるからダメなんです。というわけで、エンハンスプログラムを配布するので、それで強くなってくださいー』
「エンハンスプログラム……?」
エンハンス、とは強化、つまり身体の強化などにかかわるプログラムだろう。機械の体であるかどうかは定かではないが、パソコン自身はほとんど戦闘能力を持たない。それを補うために、特別に体の動きを組み込むのだそうだ。
『バージョン0.1は「タリーヤーグ」ですよー。はい』
「タリーヤーグ?」
『そっちの世界の英雄ですね、それじゃ寝ます』
「寝るの!? 寝ちゃうの!?」
『カオリちゃん…… すやすや』
「寝てるときすやすやっていう人初めて見たよ!? というかもう寝てるー!?」
『カンレイ……?』
ごごごごと雰囲気が音を立てるような気がしたが、カオリたちはそれを黙殺して、そこから先が途切れたのを幸いに「タリーヤーグ」を記憶から再生する。
「プログラムって言ってたよな」
「だよね。でも頭の中になじんでる感じ?」
広げた手のひらに青い霧のようなものが出現し、魔力そのものであるそれをどういう形に変形させればいいのかという選択肢が無限に湧き上がる。そのうちの一つ、攻撃力を持った霧へとそれを変質させた。
「こんな凶悪なものがあるのか……」
「私はやっぱりこっちが好き」
カオリはというと、ふわふわと氷のツルギを浮かべている。
中二病は光か闇か、という傾向があるが、彼女は少し違う。停止させる力を欲しているのだ。氷はそれに通じるし、絶対的な氷華は美しくも残酷に咲き誇る。死が美しく見えることはあるが、あまりにも残酷な氷は、常に美しい。
だがタリーヤーグは魔法使いではない。魔法を使うことができ、そして剣の道を究め続けた偉人であったのだ。
「剣は一つしか作れないか……」
「いくつも持てたらチートじゃない?」
「この魔法はすでにチートだと思うがなあ……」
「そうかなー?」
一種類の属性の魔法を扱う、というなら大して珍しい話ではないが、複数の種類の魔法を使うことができるならずいぶんと数は減るし、それが戦いに使えるくらいに強力だとなると、宮廷からスカウトされるほどに貴重だ。全属性に適性を持ち、また剣をも鬼神に近い水準で扱うことができるのなら、一国の情勢を覆す存在である。
す、と何かの窓が開き、カオリが読めない、とそれを投げだしたので、パソコンがそれの解読に挑んだ。とはいっても言語を読むなら問題はない。
「ポイントで買えるので、魔物を倒してポイント稼ぎしてね♡ だそうだ」
「ポイント……?」
概要によると、魔物を討伐すると「ポイント」なるものが手に入る。だがそれは買い物に使うそれではなく、体がこれだけの負荷に耐えられる、という指標なのだ。激しい挙動を可能とするソフトウェアをインストールしたとても、体がそれについていかないのなら意味がなかろう。そう考えたのだろうか、パソコンは思考を巡らせた。
オルハは驚いた顔をした。
「ぼ、僕に案内を任せるんですか!?」
「でも、帰り着くまでが冒険だよ?」
そう言われたものの、しかしオルハは戸惑いの中にいた。
異世界人は、知性においても戦いにおいても現世人に大きく勝る。その異世界人が人気のないところに自分を連れ出すなら、目的は何だ? 決まっている、慰みに殺すのだ。魔術を扱うのならただで死なせることなどない、何度でも、何度でも回復させて殺す。それを見たことがあるのだ。
「そ、それもそうかもしれませんが……」
「オルハ。行けやえ」
村の長老とまではいかないだろうが、かなり高齢のギムバじいさんが言った。
「ギムバおじいさん…… ど、どうしてですか?」
「異世界人様のお役に立てると、思てみえ」
狂信的としか思えなかった。
異世界人が国難を救ったことは何度でもある。黒の弓兵の伝説や青き魔導士の例を持ち出すまでもない、誰の言葉にもそれは示されていた。
だがそれが死の理由になるだろうか? ただ単に慰み者として死んでいった女を知っているし、なぶられて狂死した男を知っていた。
「異世界人は必ずとも正義ならず…… と聞きました」
「そりゃ迷信だやえ」
何度も救われた立場から見れば、そうに決まっている。だが、他ならぬ初代の「魔王」は異世界人であり、世にも美しい男だったことを本で読んで知っていたオルハはうなずけなかった。
「ひどいことなんてしないよ。帰るとき迷わないように、一緒に行こ」
「オルハ、自分に力がないことを嘆いていたな。強くなりたいと思わないか」
「強く…… なりたい。ですが……」
「行げんだオルハ」
頼みを断れば何があるのか分からない。
若者としてまったく役に立たないオルハなら、心は痛むものの死んでも問題ない。
理性と欲望の衝突なら、欲望が勝つに決まっていた。オルハは理性を負けさせ、欲望に軍配を上げた。それはエゴイズムの結果なのかもしれなかったが、もしくは自己犠牲の精神でもあるのかもしれなかった。
オルハは、道順を覚えるのに適した頭を持っているわけではない。だが何度も奥に分け入っては逃げ帰っているうちに、誰よりもこの辺りに詳しくなっただけだった。人はそれをチートと呼ぶが、彼自身はそんな認識はない。村のため、人のため、捨石になる覚悟だったのだ。
「あそこが谷です。で、あっちが…… あれっ?」
「どうしたの、オルハさん?」
「あの岩が、若干動いたような」
「どの岩?」
あの岩、と指された、川岸にある大きな岩は確かに動いたような形跡を残していた。どう動いたという問題ではなく、今さっき動いたところだと言うような。
「岩の魔物って知ってる?」
「このあたりだと、バリタイトかと」
岩を甲殻代わりに纏ったエビとカニの混じったような魔物だ、というのが彼の説明だった。とすれば相当に堅固な装甲だろう。魔法を。
そうパソコンが判断し魔力を霧として噴出した瞬間、岩が砕け散った。
「なっ!?」
「違う…… 〈ヒテポグ〉です!!」
岩を砕き鉄を砕き、鋼を喰らいその身に変える、和釘の如き巨大かつ長大な毛におおわれた伝説の怪物。国を守る砦を一夜で血に染めたと言う――
一匹のイタチが、そこにいた。
オーバーロードでも「森の賢王」がハムスターだったりしましたよね。名前だけ出てきたバリタイトくんは、ヒテポグに食べられたんだろうなー。
エンハンスプログラム、強いかな?
次の投稿は遅く(二か月以内)なる予定です。