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パソコンがトリップ  作者: ふす≒代筆者
2/9

0002 まだ来てない。

 原作者さんから細かいところをいただきましたので、それに合わせて作品を修正中です。とはいえ更新が遅くなりました、すみません。

脇役。


 オルハは、自分が永遠の脇役であることを、小さいころから理解していた。

 ガキ大将に付いて行って死ぬほど危ない目にあったときも、ガキ大将の勇気は称えられた。逃げようと何度も提案したオルハの合理的思考は勇気がないとなじられた。


 女の子と戦士の息子とオルハが危険極まりない遺跡に入り込んで、三人はもちろんのこと見事な遺物と怪物に出会った。戦士の息子は蛮勇に死の報いを受け、女の子は戦士の息子と共に散った。オルハは一人逃げ、あまりのいくじなさを村中から嘆かれた。


「まさか異世界人さまがこの村にいらっしゃるなんで、思いもしませんでじたで」


「いや、そこのオルハさんの導きがなかったら死んでましたよ」


「いやいやあ、オルハぁいくじなしでずで。あぶねえときぁ道を思いだずんで」


 村に帰ってきたオルハと、パソコンと呼ばれていた男性、そのそばにいた女性はこうして村にきちんと戻ることができた。男性と女性は今来たのだが。村人でも気のいいじいさんと評判のギムバじいさんが男性と女性にひとまず言葉で歓迎をしていた。畑の真ん中、少し暑そうである。


 パソコンと呼ばれていた男性はオルハに感謝していると、社交辞令ではないと、オルハには分かって少し嬉しかった。だが彼がオルハをさらに光の影にすると分かっていて、とても悲しくもなった。


 これで僕はもっと脇役になるのだ。英雄の影に隠れて、名前しか出てこないような、いいや、忘れられて、書物にすら案内した村人と、個性を奪われて書かれるに違いないのだと、彼は思っていた。それは実際に間違いないだろうことで、歴史書にはもちろん、英雄の名前は書いてあっても英雄を道案内した人の名前など書かれない。英雄譚、と書かれるだけで敵の名前すら書かれないこともある。


「オルハさん。本当にありがとうございます」


 パソコンに礼を言われオルハは少し照れて、ごまかそうとした。


「いえ、ところで、パソコンさんは本名はないんですか?」


「え、あ、ああ。本名は…… その、えーっと」


 気恥ずかしくてごまかしているだけかもしれない。


「彼はジェリガですよ。あ、私はカオリ。マナはイェミア・ビカ・ヂラム」


「……そ、そう。ジェリガ。当然知ってたぜ」


 鈍いオルハでもはっきり分かるほど下手な嘘だった。異世界人は世間ずれしていなくて純粋だ、オルハにはそれが嬉しい。マナとは魔力の源のことだ、おそらく体のどこかに文字が彫られているだとか言うことなのだろう。もしくは形のない文字が魂に刻まれているといったことなのかもしれない、と言うとカオリ氏はそうそう、分かってるねと激しくうなずいて手を握った。


「なんだー、この世界にも分かる人いるんだね!」


「お前がアホなだけだろ! というか基本設定なのか?」


「そうじゃありませんでしたか?」


 異世界人はこの世界について無知だ。それ自体は事実で、間違いないことでもある。なにせ他の世界に慣れ切っていたのだから。他の世界にあったものをこの世界で求めるものまでもいると言うのだから、知らなくても仕方がない。


「ところで異世界人様」


「ジェリガで呼び捨てしていいから」


「私もカオリでいいよ?」


 高飛車にならない異世界人など聞かない。今のうちだけだろうと思いつつ、オルハはていねいに言った。


「ジェリガ様、カオリ様。両名は何のためにここに来られたのです?」


 多く異世界人は世界の変転に巻き込まれこの世界にやって来るのだという。目的などないことも多い。だが彼らは自分の手で魔法陣を描きここまで来たと言うではないか、すると目的があってここに来たことに相違ないとオルハは考えたのだ。


「さま、いらないんだけど…… 実は魔法陣書いたのは、魔法が使えるかどうか確かめようかなって思っただけなんだ。魔法に適性があるかどうか、だから、目的は別になかったんだよ。運試しみたいなものだから」


「そうですか……」


 がっくり来るほどのものでもない。そういうものなのだろう。


「それより異世界人様、ガルデオンが逃げ出すほどの力を持っておられるようで」


「ガルデオン? ドラゴンか何か?」


 考え得る限り最悪のモンスター、鋼よりも硬い黒魔水晶の鱗を持つワイバーンである。ただの村民には倒しようもない、絶対的な相手だ。対抗しようにも、そもそも村人がまともな武器を買うためには何年働けばいいか分かったものではない。魔法の鎧など、ひと財産かかるだろう。それに村民はクワを振るいはすれども剣を振ったり魔法を撃ったりすることなど、経験がない。


 魔法は一部の天才にしか扱えないものだし、剣を振るうことを職業にするものも何か特別なことがなければすぐに骸になり果てる。それが剣筋を見切る先見の才にせよ、重いものを素早く確実に振るう才にせよ、老人になるまで剣を振ることができればもはや全てに勝ったも同然だ。


 オルハには何もなかった。正確に言えば逃げる才能はあったが、彼自身はそれを意識していなかった。だから自分は才能がないのだと、思っていた。本当は何かに満ち溢れていると、そう信じたかったに違いない。


「異世界人様、どこかに目的地はございますか」


「いや、何もないな」


「いや、あるよ!」


「どこだよ」


 やはり彼らは目的が一致しているわけではないらしい、とオルハは考える。と言って、彼らと会って一日も経っていないオルハが彼らの目的地など分かろうはずもないが、それぞれにしたいことがあるのだろう。


「パソコンを……」


「い、異世界人様っ!」


 村の若者の中でも、街に行って女を何人落としたと自慢するような若者グループの一員がカオリ氏に顔を赤くしつつ何かを言おうとした。オルハは、何か異様なものを察知し、少し遠ざかった。


「この村に骨を埋める気はございませんか」


「どういうこと?」


「この村の男と結婚して、村で暮らすんです」


 オルハの勘が正しかったのは、もはや明白な事実となって若者の前に突き付けられていた。だが男は諦めることができずに、少し前に出ようとした。


「ですから、俺と」


「嫌。男は嫌いだから」


 あまりにも冷たい声が、小さくはない男を凍りつかせた。


「見栄で女を選ぶような男なんて嫌いなの」

 ま、まだ来てませんよ。来たときに叫んでいただければ。


 来させなければ……(使命感)

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